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その武器に何を思う  作者: 人鳥迂回


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凌ぎきれ

「どうしたんですか?どうぞ掛かってきてください」


 査定という名の模擬戦が始まってから俺もプランシーも動くことはなかった。俺は相手の行動に対して受け流して攻撃をするカウンターの技を使う。つまりプランシーからの攻撃がなければ動くことは出来ない。自分から攻撃をしては大きな隙が生まれてしまうため、隙を無くすためにも待ちの構えを崩さないようにヘイルからも言われていた。


「そっちから来てくれ」

「どういうことでしょう」

「我流なんだが教えてくれた人がいるんだ。自分から攻撃をする事には向いていないから待ちの構えからのカウンターをするのが俺の剣術。だから今の俺の実力を確認するならそっちから来てほしい」

「これは困りましたね。互いに殺すつもりでやるつもりだったのですが」

「困る?」


 プランシーは構えを変えた。先ほどまでは剣先を下に向けており、俺の構えと同じような物だったが、今は剣先を上に向け腰の辺りで構えていた。王国の剣術では中段の型と呼ばれる脇を締めて剣を前方に構える型だ。


「いえ。こちらの話です。ロージスくんがそのような戦い方をするのならば私は攻撃させてもらいます」

「分かった。来いよ」

「団長に対して不躾なガキは殺します」


 プランシーから殺気のような圧が溢れ出す。その迫力に俺の手が小刻みに震えだす。プランシーはその場から一歩も動いていないのに、とても近くにいるように感じてしまう。それが自分でも錯覚と気付かずに、俺は剣を構えた。

 勿論、動いていないプランシーの剣が俺の剣に触れることはない。殺気から感じる恐怖で反射的に体が動いてしまったのだ。無意識に殺されると、脳が身体に指令を出し身を守ることを優先したのだ。


「ロージスくんは自分の意思とは違う人殺しをして慣れてしまっているのかと言っていましたね」


 殺気を抑えたプランシーは構えを崩さぬまま俺に話しかけてきた。


「……」


 目の前のプランシーに集中するあまり、声は聞こえてきても返答をすることはできない。その一瞬で殺されてしまうと脳が認識しているからだ。


「随分と自惚れていますね。ロージスくんは戦いの中で人を殺してしまったわけではなく不可抗力。自分の意志を持って人を殺すためには相手からの死の匂いに対して悠然としていなければなりません。それが出来なく、恐怖しているのなら貴方の考えは杞憂でしょう。かく言う私も人を殺した経験などありませんし、殺したいとも思いません。守護団は守る組織であり殺す組織ではありませんので」

「本当にそう思うのか?俺自身それが不安でたまらない」

「私の主観です。実際その時にならなければ分からない。しかし、殺すのに慣れていると考えて戦うのと人を殺すことに恐怖しながら戦うのでは何方が強くあれると思いますか?」

「そりゃ慣れてる方が大きく動けるし優位だろ」

「不正解です。殺すことに恐怖していれば慎重になります。逃げるという守りの選択肢も取れるでしょう。ロージスくんの剣技がカウンターと言っていたことから貴方は慎重な性格と見えます。実際慣れてしまっているかどうかなどどうでもいいのです。殺されること、殺すことに恐怖しながら戦いなさい」


 プランシーは語り終えると手に力を入れて、身体自体が一本の剣のように洗練された構えを取る。 

 何故か先ほどまで抱えていた俺の不安は霧散した。言われてみれば殺すことに慣れているからといって人を殺すわけではない。俺は快楽殺人鬼ではないのだ。周りで人が死ぬ事が今までの人生に比べて短期間に集中して起こってしまったことにより俺自身が自分の考えに優柔不断になっていた。直情的に動くことを避け、考えて行動するようにしているからこそ悩みが俺の心を蝕むようになってしまっている。

 その時になってみないと俺が人を殺すことに対してどう思っているかなど分からない。霧の中を歩くように正体が見えないものについて悩み続けても意味がないのだ。

 ヘイルからも慎重な俺には守りの剣術が合うと言われてヘイルの剣術を教えてもらったのだ。プランシーから指摘されてその事を再び思い出した。俺の強みは慎重に相手を観察すること。

 

「話は終わりです。そろそろ行きますよ」

「無駄話をして悪かった。自分の中で取り敢えず整理はついた」

「そうですか。それでは」


 プランシーは俺の査定ということもあり、俺がどの程度できるかを確認する。俺がやることはただ一つ、攻撃を受けきって隙があれば攻撃を入れる。単純なことだが、プランシー相手だと難しい事は分かる。

 ゆっくりと距離を詰めてくるプランシー。自分の間合いの中に俺を入れた瞬間、中段に構えていた剣を左手で横に振るう。王国剣術中段の型は腰を使って相手の胴体に致命傷を与えるものである。鎧を着て戦う以上、剛力の兵は上段から叩き潰すように剣を振るうことができるが非力なものは中段から鎧の薄いところを狙い、相手を行動不能にすることを狙う。俺の行動を見て構えを変えたにしては洗練された動きだった。

 右から薙ぐように振るわれる剣を観察し、身体を捻らせてから振るわれた剣を受け流す。接触した剣の重さを流すように剣が振るわれる方向に力を入れながら角度をつけてプランシーの剣は空を切った。


「いい反応です」


 刀身が細い剣だから受け流せたのだ。片手で振るうことができるほどの軽い剣だからこそ俺は流すことができた。その時点でヘイルとの模擬戦とは比べ物にならないプロの練度を感じていた。

 受け流せたことに安心していると、俺の左腰へ衝撃とともに鈍痛が起こる。その部位を確認すると、プランシーの剣が当たっていた。


「褒められたからと言って気を抜かない」

「悪い」

「今のでロージスくんは一度死にましたよ」


 気を抜いていたわけではなかった。ただ受け流したあとのプランシーの動作が見えなかったのだ。俺はしっかりとプランシーの剣を持つ手の動きを観察していたにも関わらず、気づいたときには俺の腰に剣が添えられていた。

 プランシーはその場から一本後方に離れて俺に構え直す時間を与える。これが戦場ならば二回目などはない。二回目がない本番のために、何度も失敗ができる訓練をするのだ。

 俺は気を引き締めて構え直す。


「もう一度行きます。凌ぎ切りなさい」


 プランシーは先ほどと同じように片手で剣を振るい俺の腰を狙ってきた。


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