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スマホの報酬

近頃問題としてあげられている詐欺かと思ったが、画面に愛良♡と浮かんでるあたりそういう系ではないらしい。


「もしもし」

「もしもし、ワタシですワタシ」

「オレオレ詐欺の女バージョン!?」

「この子の身柄は拘束してもらいました。取り戻したいのであれば……」

「いらないんで」


赤ボタンをプチっと。

一秒ぐらいの間もなく電話かかってきた。


「酷いじゃないですか! 乗り合わせてくれてもいいのでしょ? 捨てられた気分です、携帯あげたの私ですよ?」

「握らされた。の間違いでしょ? つーかさ、新品つったのになんで番号仕込まれてるんだよ新品じゃねぇだろ」

「あら、ルネも入れておきましたよ?」

「はぁ?」


スピーカーモードに切り替えてアプリがずさりの並ぶ画面に変える。

本当だ。ルネとなんかゲームっぽいのがインストールされてある。


「“新品”ではない新古品ですので受け取ってくれますよね?」

「揚げ足取るとはまさにこのことか」

「とにかく受け取ってくださいね?」

「どうして優しくするんだ? とかの悲劇のヒロイン類の質問は受け付けておりませんので先に釘打っておきます」

「鋭くない?」

「鋭いっていうか……ただで高価なもの渡してる自覚はありますのでそれくらいの予測は誰でもつきますよ」


「あ、料金もこちら持ちにさせてください。というかこちらが持ちますのであしからず」

「拒む理由はこちらにはないけどさ……友達からタダで貰ったらなんか悪いって思う良識ならあるぞ」

「良識ある発言が心外って言ってますよ? 悪いのでしたら、そうですね。西園寺君」

「ん?」

「明日も学校で寝ちゃいますか?」

「学校は寝るためのところではありませんことよ?!」

「先生に向かって言ってきてください」

「ごめんなさいたぶん絶対明日も寝ます許してください」


直接言ったらしばかれはしないがたぶん泣かれるか心病まれた挙句退職エンドだ。

この年でそういう重責担うのは避けたい。というか十中八苦俺まで道ずれにされる。

勘弁してくれ~


「とにかく! 明日の帰り道、スマホ使った感想言ってください。それで手を打って差し上げましょう」

「断ってスマホ返したらどうなる?」

「そうですね。住所は入れておきましたので家に押しかけてベットに縛り付けた後、目の前で使い古した携帯潰して新品漬けにさせちゃいましょうか」

「お嬢様が言っちゃいけない類のやつじゃない?」

「学園ではもっとえげつない言葉飛び交ってますのでこれくらいは生易しい方ですよ? 私の耳はもう……」


およよと悲劇に陥るヒロインのようなわざとらしい泣き声が耳元に響き渡る。

如月のやつ絶対面白がってるな。

まあ、なんだ?

多少愛着が湧いてるものを壊してさらに高級品にすり替える。


「言わば逆寝取られですね♪」

「お嬢様が一番いっちゃいけないワード! 毒吐きながらも清楚さ兼ね備えたんじゃなかった?!」


どちらかというと寝取られるのは俺の年期入り視点の話じゃないのか?

しかも見守るのではなく破壊される形の夢も希望もないグロ系のゲームみたいに。


「その子がどうなってもいいんですか? いっぱい使ってくださいね? もちろんスマホの話ですよ?」

「お前って」

「如月」

「……如月ってときどきえげつないネタぶっこんでくるよな」

「それだけ心を許しているって証拠ですよ~?」

「ふあ……眠いです」

「そりゃもう夜更かしレベルだから眠いのは当然だろ?」

「そうですけど……」

「電話ってあんまりやってないから切るタイミングがわかんねー」

「わかります。別に都合次第で切っちゃってもいいんですけどためらっちゃいますよね」


どっちらかってるネタ祭りから一転、眠気に意地張った声色の如月に乗じる形で言ったみたけどあたりらしい。

コミュ障ではないけど電話する機会がなさすぎる。

基本、仕事の毎日だ。

電話はおろか携帯に触れる時間が限られてくるのだ。

如月はお嬢様で友達も結構いるんだろう。

なのに共感した、意外な共通点がある。


「お嬢様にも色々あるんだろうな」

「心の声ダダ漏れですよ~?」

「そうだ。こうしましょう」


何かいいアイデアが閃いたとばかりに声が弾く。

きっと目を輝かせて子供っぽいアホ面を晒しているに違いない。


「スマホの報酬追加です。ただで貰って野草にしたたる雫ほどの良心が痛む西園寺君のためやむなく追加します」

「おい」


ひっどい言い草だな。

せめてそこら辺の松木に変えて欲しい。

それくらいの良心はあるだろ、なんていつもの冗談が口をつくことはなかった。

如月の次の発言があまりにも衝撃的だったからだ。


「仕事が終わったら毎日電話するように」

「……は?」

「もちろんシフトを伝えていただければ私からも電話かけるのも可としましょ」

「そういうことで。感想、楽しみにしてますね? おやすみなさい西園寺君」

「ちょっ……!」

「言いたい放題して逃げやがった……!」


スピーカーからピーピーと電話が途切れを知らせる音が響いて、ホーム画面に戻される。

基本アプリと入れられたアプリ二個覗いて真っ白な基本の壁紙状態。


「電話が要求されるとは」


予想外すぎて返って呆気にとられたものだ。

追加報酬とか言い出した時はさすがに身構えたけど身に余るモノじゃなくてよかった。

どちらかというと見に余る光栄ってやつだけど、どうだろうな~


「ふあぁ、ねっむ」


明日からどんな毎日になるんだろう。

ふらっとまどろみに紛れて乗せてきた期待の言葉が脳裏によぎる頃には、夢の彼方へ意識が飛ばされた後だった。



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