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初デートは毒姫の財布で

「そういえば、休日は何して過ごしていますか?」

「こういう質問が返って新鮮だって思ってる自分に戸惑ってる」

「私も同じですよ、逆に他愛ない話ばかりで盛り上がってましたのにこういう基礎中の基礎が出ないのも不思議なくらいです」


一年間、本当色んな話をした。

身の上話もたまに飛び交っていたくらいには。

だから彼女の何万円が~というくだりにツッコミもせず黙って受け入れられているんだろう。

お互い趣味のカミングアウトもとうに済ませている。

俺もまぁオタクよりで、理解があるほうの彼女も軽く嗜むくらいはしてくれたり。

にしても休日か。

何してたのか記憶を遡る俺に話しやすいよう気を配ってくれたのか如月の自分語りが始まる。


「私は案外普通ですよ? 友達誘って遊びに行ったり、家で小説かマンガ読んだり。後はネットサーフィンしたり」

「俺はスマホオンリーかな。面白そうな動画あさるか、ゲームするか、それとも寝るか」

「スマホで動画見るのもやっとでゲームなんてできないのでは?」

「バレたか。ちなみに動画も充電繋いでないとろくに見れない」

「むっ、口から出まかせは感心しません。小説も読んでるって前伺ってましたけどあれは……」

「ネット小説ならちまちま読んでる。アニメもまぁ、がんばれば見れるぞ」


また下校時間同様、他愛ない話で花が咲いた。

気がつくとラーメン屋素通りするところだったので慌てて立ち止まりラーメン屋へ。


「いらっしゃい~」

「こっちで食券買って座る際、出せばいいよ」

「はい、選んでください」

「一応聞くけど、マジで奢ってくれるの?」

「マジですよ? ほら、ヒモさせてあげるって言ってるじゃないですか」


グイグイとくる彼女に「わかった」と相づちひとつ返し、メニューを選別するため画面とにらめっこする。

昨日は汗を流しすぎたんだ。

というのは口実に過ぎない、無性にこってりしたものが食べたかった。

せっかくということで豚骨ベースのラーメンにする。

隣の如月は醤油ラーメンをチョイス。


「ハイお客様、食券預かります」


気前の良さそうな大将に食券を差し出してカウンター席に並んで座る。

それぞれ出した食券の物がすぐ出されたので、テーブル上に置くスペースから取り下げる。


「いただきます」

「いただきます」


手を合わせて感謝の言葉を述べてさっそく食事を開始。

割り箸を割って、しばらく麺に集中する。

数か月ぶりな上に他人の金で食うラーメン。最高だわー身に染みるわー。


「西園寺君」

「ん?」

「それ、一口いただけますか?」

「どうぞ」

「では遠慮なく」

「なっ!?」


受け皿に分けたりせず箸を突っ込んでそのまま食べやがった。

すすすっと音も立てない品のある食べ方だ。

ラーメン食ってるだけで絵になるんだな、お嬢様って。


「おまっ……!?」

「しっ。店の中で騒いだらダーメ」

「うぐっ」


いっぱい食わされた感が否めない。

が、彼女の言う通り。ひとまず目の前のラーメンの満喫が先だ。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

「あいよ、お粗末さん! 若いカップルさんよ!」

「カップルに見られてかえって良かった……」

「あら、珍しく嬉しいコト言ってくれますね」

「今、俺がどんな格好してるか忘れてる?」

「隣にいますので生憎見えません」

「うそつけ」


ジャージに短パン、おまけに寝起きのぼさっとした髪のまま。

隣に立つ連れの女の子は学校帰りの制服姿。

怪しい人に見られないだけで運がよかった。マジで。

しばらく無言のまま歩き続ける。

ふとした拍子にこちらに振り返る如月の顔には申し訳なさそうな色が浮かんでいた。


「突然連れ出しておいてなんですが、その、今日はもうお暇させていただいてもよろしいですか?」

「全然いいけど」


この格好のままじゃさすがにキツイ。

別に隣に並ぶのが恐れ多いーみたいなテンプレな話ではない、もっとシンプルな話。

この格好じゃ余計な誤解が生まれかねない。

ゴシップ好きの連中はどこにでもいる。

しかも女子校となると想像の斜め上をいくともよく耳にするのだ。

だったら解散しておくのが今打てる最善策とも言えるだろう。


「ありがとうございます。ご配慮痛み入ります」

「お嬢様みたいだな。痛み入りますって初めて聞いた」

「むっ。こう見えても正真正銘、育ちのいいお嬢様ですよ?」

「育ちは。だろ? 行儀のいい奴は圧かけて引っ張り出したりしないって」

「うっ、痛いところつきますね……次はもっと完璧に振る舞います」

「言ってろ」


俺とは逆の方へ歩き出そうとする如月。

家が案外遠いところにあるかもしれないな。

そういえば、学校がわりと近くにあるから一緒に下校してただけで、どこら辺に住んでいるかお互い知らないか。

ただいま俺だけ明け透けにされたけど。


「あ、そうそう。明日、ちょっと遅れますので先帰っていいですよ?」

「そう? なら遠慮なく」

「と言いたいとこだけど二日も待たせてたしなぁ、待ってやるよ」

「恩返しのつもりですか? 偉そうに言わせませんよ。本当に心配したんですから」

「本当悪かったって……勘弁してくれ~」

「ふふっ、ではまた明日」

「ああ、また明日な」


くるっと回り歩み出した如月が見えなくなるまで見送って俺も歩き出す。


「お嬢様もラーメン食べるんだな」


素朴な感想が口からこぼれ落ちる。

そりゃ食べるだろうってどっから言われた気がするが、言いたいのはそこじゃない。

音立てずに麺啜れるって初めて知った。

隅々まで行き届いた品のある所作もそう。

本当にお嬢様なんだなー。

学校は違う。

日常的な関りは帰り道ぐらいの友達の一面が見れた気がしてなんか新鮮だった。


・・・


「あら、しっかり待っててくれたんですね。偉いです」

「約束したからな」


次の日の帰り道。

いつもの待ち合わせポイントである正門前で待つこと四十分弱。

数日前と立場が逆転したみたいでなんだか面白い。


「帰りましょうか」

「毒姫の仰せのままに」

「今日はご機嫌なので拗ねないであげます」

「なんかいいことあったか? つーか言いたいことあるけどさ」

「はい」

「お前って結構有名だろ?」

「みたいですね。いつの間にか毒姫というあだ名がつくくらいには」

「というかお前ではなく如月です。または愛良です」

「知ってる情報……それじゃなくてさ」

「毒姫様である如月が俺を探しに学校来てたんだろ?」

「まぁ、そうですね。迎えにいく感覚で」

「何かあったんですか?」


歩幅合わせて歩いてたのを止めて、立ち止まる。

数歩前に行った如月が慌てて歩みを止めてこちらに振り返る。

あえて一拍置いてから、件の話題を口にした。


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