求めてたシリアスラブコメではない
「孝充君」
「うん」
「深刻そうな雰囲気、いつまで維持すればいいんですか?」
「は?」
聞き間違いかな?
耳を疑っている俺をよそに珍しく強い語気をはらむ口調の愛良先輩が言ってきた。
「ストーカー行為の辻褄が合った。何となくではありますが目的が察することができただけ、孝充君を只今煩わせている現状に変わりありません」
「そう、だな」
「むしろ好転したとみていいでしょう。まだ心証ではありますが犯人が見つかったわけですから」
手元の情報だけまとめてみれば確かにその通りだが……。
「要は潰せばいいんですよ。あなたにあだなすもの全て、カモの名の元、潰しちゃうという結果に変わりありません♪」
「確かに毒姫姉様の言う通りですわ」
「孝充様の孤独な闘いでしたらいざ知らず、これはわたくしたちへの全面戦争を仕掛けたようなものですの」
「ようやく糸口が見えてきました。ふふふ……華生?」
「かしこまりましたわ」
愛良先輩とアイコンタクト一つ交わすと失礼しますわ、と断りを入れ、尋常じゃないスピードでスマホ操作すること数十秒ほど。
「できましたわ」
「何したの?」
「ええ、連絡を少々……とりあえず明日のデートの件ですが」
「急展開過ぎないか?」
明後日の方向に話題、飛んでないか?
肌にまとわりついていたピリッとした空気も気がつくといつものほんわかした雰囲気に変わっていた。
「そうですよ華生。気遣いが行き届いてません。教育の追加、要りますか?」
「やぁ……殴らないで……孝充様ぁ」
「やり方脳筋過ぎないか? 華生ちゃんぷるぷるしてるだろ?」
背中に隠れて生まれたての小鹿と化していた。
初エンカの時、俺に殴りかかってきた際の愛良先輩にボコられたのが完全に尾を引いている。なんならトラウマになっている可能性も高いなこれは。
「だって……私悪くないもん」
「後輩に手が出ちゃうのは悪いことでしょ?」
「落書き消さないまま孝充君とデートするとかのたまうにわかなんか潰していいもん、ガチ恋へのファンサ足りないから嫉妬しただけだもん」
「めっちゃ可愛い拗ね方だけどシリアスどこ行った? え?」
とうとうカモどころかガチ恋って言っちゃったよこの人……。
しかし家に雑巾と油性ででかでかと書かれた物が消せる魔法の液体なんか備えてない。
……と思ったのはどうやら俺だけみたいだ。
「ストーカーの名に泥を塗るような行為の数々まことに申し訳ありません。まずはこの目障りなデカ文字から消しますわ!」
そう高らかに宣言した華生ちゃんがコンロの下にある引き出しから雑巾と油性消す液体が入ってるらしきスプレーを取り出し作業に手がけ始める。
「うふふ。そう、それでいいんです」
いつの間に隣に来て腕に抱きついてきた愛良先輩が偉そうな口調で吟味するように言う。
そもそもこれ消しちゃっていいのか?
ストーカーの証拠のあれやこれやで必要なんじゃね?
「つまり孝充君には私たちがいますので心配はご無用ということです」
ふん、と珍しく息を鳴らす愛良先輩。
「今のデカ文字も華生ちゃんの監視カメラにバッチリ残されてるはずです。おまけにこんなデカ文字残したので顔は難しくても身体のラインくらいはっきりするかと」
それを元に特定すれば勝ち。と加えて説明してくれた。
「大船に乗ったつもりで安心してくださいね、もちろん報酬も付きますが」
「……どっちに転んでもあなたに喜ばしい展開にしかなりませんよ♪」
ピタッと頭を寄り添うよう腕に預けてくる先輩を横目に壁一面埋め尽くす文字を消している華生ちゃんに向く。
作業開始して五分ほどしか経ってないはずが、気がつくと半分以上が消されていた。
「孝充様と朝デート、孝充様と朝デート……」
「気持ち悪いほどの狂気っぷりですね、これだからストーカーは」
「自分の胸に手を当ててもう一度それ言える?」
「んっ、あっ……!」
「なんで胸に手当てるんだよ!?」
鷲掴みして揉んでるし、なんなら突起の部分捻るし、なんなのマジで!?
「華生ちゃんが見てるのに……ふぅんっ……! エ・ッ・チ♡」
「俺が悪かったからやめて今すぐお願い」
「っもう、鬼畜な発言は要注意ですよ?」
おどけた愛良先輩にどちらかと言うとお前の脳みそがって喉元から出かけたツッコミを脳トレの応用でなんとかぐっとこらえる。
胸に手を当てて言うって慣用句じゃなかっただろうか?
発言通り揉みだすとは微塵も思わなかった。続けるとかさらにナンセンス領域。
ストーカーよりこっちの方がよっぽどやばいんじゃ………。
「カモしてる人って色んな意味で凄いよな……」
「ええ。リアルスパチャも存分に楽しめるので案外得ばかりの役職ですよ」
「終わりましたわ、その……あの……」
「?」
「学園よりアグレッシブな真似はさすがに控えていただけませんの? 目の毒ですわよ」
「俺がわるい」
「けど私がご機嫌になったおかげでデートのチャンスもできたのですよ?」
「……」
「ふふっ」
壁一面覆い尽していた落書きを消した華生ちゃんは愛良先輩へ静かに睨みを効かせる。
負けじといつもの微笑みの圧が先輩の顔に広がっていく。
求めていたトキメキはおろかなんかハラハラしてきた。
「……はぁ、まあいいでしょう」
あ、折れた。
ここんところまともに時間が出せない状況でしばらく連載が出来ませんでした。
心待ちにしていた方、本当にすいませんでした。
週二のペースで連載のつもりで頑張ります。
よろしくお願いします!




