もうひとりのストーカーの正体
二人に歩幅合わせつつ歩き出す。
「今朝めっちゃ体調いいって言ったばっかだろ? 心配しすぎだよ」
「でも何故か疲れてそうな顔色ですよ? やはり監禁するしか……」
「数段階飛んでる。まず形から入るだろ」
「地雷系来て包丁持つとこから始めた方がいいんですか?」
「紫ベースのドレス見たら発狂するbotになるからやめて」
「わたくしも少しだけ嗜みましたがそこはまず顔に手添えて『ふふ、逃げるなんて○○君はいけない子だわ。』ってとこからじゃないのかしら」
「物語始まる前に終わってるパターンですね。これだからにわかは叩かれるんです、まずは正当性主張からでしょ」
「抜けてるポイントがようやく掴めたのか。けどその前に心理描写から入るだろ?」
「あれ死ぬほどだるいの私だけですか? 結局“好きすぎたが故に”になるのでしょうね」
「監禁してから出てこそ萌えるってなりますのよ、やはり独白からに限りますわ」
「いや“好き”に帰結されるのはどうしようもないだろ? 憎しみからだったらサスペンスじゃん。だから背景からでいいんだよああいうメンヘラ系は」
「一理ある意見ですがやはり形からでいいでしょう、イメージ先決で後は勝手に辻褄が合わせられますから」
「いいえ呟きから即行動に移してこそですわ。あたかも自分がやってる感が出ちゃいますもの」
「ストーカーはこれだから困りますよ孝充君。何事も自分に繋げちゃう神経を疑う思考の持ち主は処しておきますか?」
「ヒモになる気持ちはまあ、理解しますが」
ストーカーがカモに進化したのか?
いやこの場合退化か?
くっ、どっちもどっちでバカすぎるから判断に困る———!
「金づるになることで依存させるガチ恋ならではのやり方、卑怯の極み、生きるゲスそのものですわ」
「金から始め人生ごといただく———、時代は推し活ですよ?」
「受け入れてこそ手に入る幸せ……ああ、なんて甘美な響きでしょうか」
「また暴走してますわね、ガチ恋は知能の問題かと思いましたが……」
「まんまだって思うけど愛良先輩に限って逆かもな……」
ズブズブにされるのはガチ恋してる側のはずだが、先輩の場合それをうまく利用して何かに持ち込もうとしてるような……。
「着いちゃいました……」
「惜しいですわ。わたくしはまだ一緒にいられますけど♡」
「また明日な」
「はいっ。って今日は夕飯も一緒にする約束じゃないですか」
「なに?」
ストーカーに気を取られてて忘れてた。
別れポイントから既にボロボロとした俺のマンションの前に来ている。
「どうかしましたか? まさか……」
「妙にソワソワとしたご様子でしたけど……」
「そのまさかだよ。視線が感じられている」
「私は感じられないのですが……」
「孝充様のおっしゃる通りで間違いないかと。こういう類の視線は被害者にしか感じられないと聞いたことがありますわ」
「二人のおかげで幾分か薄れた感はあるけどさ」
階段を昇り鍵穴に鍵を刺しながら安直な言葉がぼろっと出てしまう。
依存のしすぎはよくないという無意識ながらの抵抗。
「あれ? 鍵かかってない」
「もう華生? 迷惑かけるのはたいがいですよ?」
「拳握らないでちょうだいぃやだ孝充様あぁ!」
「いや、今朝の戸締りしたの俺だろ」
その無意識の抵抗という防波堤も早速崩れ始めようとする。
鍵を抜き取り、さっそくドアを捻り我が家へ。
「な、なんだ……これは」
真っ白な壁一面にでかでかと赤黒い一色でこう書かれてあった。
“浮気は許さない”
「本物のストーカーみたいな文章ですね」
心底どーでもよいと言うような凍り付く愛良先輩と
「しかも血の色に似た色合いもポイント高いですわ。18禁の物ですら中々お目にかかれませんもの」
まるで伝記の中の物が直接この目で拝めた嬉しさを口にしたような華生ちゃんの評価。
「……空気台無しじゃねーか」
「あっ」
「……くっクソザコナメクジストーカーめ、ユルシマセンコトヨ」
「お前が言うとギャグにしかならんやい」
状況的証拠と視線だけだったストーカーの存在が真実性を帯び始めた。
ラノベなんかで例えると息巻くターニングポイント。
が、元々イかれた組み合わせで真面目な空気間にならず仕舞いだな。
「すげー肩透かし食らった気分……」
「まあいいんじゃないですか? 同担拒否ってずっと言ってましたんでそろそろ潰す頃合いかと」
「ストーカーの矜持をかけてお守り致しますわ。すっーかりクソザコになった孝充様の睡眠もぉこの際解決してもう一度告白しますわ」
「既にデイリークエスト並みの告白じゃん」
「でしたわね、孝充様付き合ってくださいっ」
「タイミング計れストーカー」
「振られて悲しいですわーよよよ」
泣くふりしつつ腕にぶら下がってきた。
愛良先輩に至ってはとんでもないことをしれっと口にしたような気がするが……。




