カモとストーカーがないと生きていけない身に変えられました
「ただいまー」
すっかり癖となった挨拶ひとつこぼし部屋へ直行。
机の上にカバンを置き、部屋着に着替えて冷蔵庫を開き物色する。
「肉めっちゃ買ってるし……」
これなら料理できない俺でも夕飯が済ませられる。
家具組み立てサービスが終わって数十分後、宅配便が届いて開くと食材一食敷き詰められていた。
曰く『美味しいものいっぱい堪能してほしい』とのことでネットでとりあえず注文したそうだ。
どれも味付けされていて焼けば美味しくいただけるやつがメインで冷蔵庫の表に、味付けが必要で保管に融通が効く冷凍肉は奥にしまっているらしい。
「埃えっぐ」
棚の奥にしまっていたフライパンを取り出し、たわしに洗剤つけてとりあえずゴシゴシつけていく。
「これで合ってるよな? なあ華生ちゃん!?」
盗聴しているであろう華生ちゃんに質問してみたが、ルネに返事は無しか。
「家帰って五分くらいしか経ってなかったか」
生粋のお嬢様だけど何故か家事が得意な女子力高め華生ちゃんに頼るという作戦が使えないなら、自力でやってみるしかない。
フライパンも一通り洗いながした。なら料理するのみ。
「そういやこれ豚肉なのか牛肉なのかわかんねぇな」
胃袋に詰め込んだら同じか。
フライパンに火を通し、料理動画で見た雫を数滴こぼして熱加減計るやつにチャレンジ。
動画のようなフライパン回したら途端に雫が自我を持って滑り回る芸は年期入りの物には再現できないけど、シュワっと雫が熱に溶ける音はしっかり聞こえた。
「今だ!」
味付けされた肉(豚肉か牛肉か俺じゃ詳細不明)を投擲し、二十秒前後間隔でひっくり返しつつ焼き色を付ける。
「肉焼けるくらいはできるか」
一度も厨房に立ったことないの高校生男子がそんな生意気な言葉が口につくほどには、順調に進んでいる。
「動画には確か7分前後って言ってたっけ」
外側に美味しそうな茶色の焼き目が着いた肉を皿に移す。
「ご飯は……あ」
そこであることに気がつく。
家に炊飯器なんてなかったことに……。
「ま、まあ些細なことか」
敢えて口にして安静を取り戻す。
米なんか一食抜いたくらいで死にはしない。
『体調管理、しっかりしてないんですね?』って愛良先輩に怒られる未来がちらついてるが無視だ無視。
足りなかった肉もう一枚焼けば済む話だろう。
フライパンは適当に水につけといて皿と箸を持って机に移動。
座ると包み込むような感覚がする椅子に適当に腰かけいざ実食タイム。
「いただきます」
箸で適当につまみ、一口大にかぶりつく。
「ん?」
この食感……豚肉か。
でもなんとも言えない違和感があるような……。
チラッとかぶりついた断面に視線をやる。
焼いた豚肉といえば雪の跡地のような真っ白な断面が特徴だ。
しかし今しがた俺が焼いた代物の断面は白はおろか真っ赤だ。
なにか事件があったと言わんばかりの深紅に染まった跡地。
「温かい……」
火はしっかり通ってるものの真っ赤なまま。
要は焼き加減の調整に失敗したってことになる。
「これ食ったら100年後には死ぬかw」
誰にも聞こえてないのをいいことに激寒ギャグ一掬いで焼肉(風の生肉然り)をかきこんでいく。
「ご馳走様」
五分足らずで食事が終了し、手を合わせては食器を流しに持っていく。
皿洗いをすぐ終わらせて、一息つくよう部屋に戻ってベットにダイブ。
「満足ではあるけど……」
ここ数日、美味しい物いっぱい食べさせてもらったり華生ちゃんに料理振る舞わせて貰ったおかげか舌がまだ物足りないと訴えてくる。
動画アプリを開き、ショートやら長いやつやら見ること数分。
「はぁ……」
ついつい溜息をこぼしている俺がいた。
たまには俺の方から連絡するのもアリか。
思い立ったが吉日という言葉が突然脳裏によぎっており気がつくとルネを立ち上げていた。
行動起こすのみだ。うじうじするな孝充!!
『愛良先輩、家に炊飯器なかった』
「今日は月の物とか言ってた気がする」
ならいつもの“用件をきっかけで話題が広がるトーク”はかえって不機嫌になるかもしれない。
普段はなかなか言わない言葉かけてやったら変な捉え方されなくていいだろう。
『体調大丈夫か? 迷惑じゃないから体調が良かったらいつでも電話していい。いつも頼りにしてるぞ愛良先輩』
これでよしっと。
……読み返したらなんかイケない一線超えちゃいそうな気がするのでひとまずスマホは枕近くに置いとくか。
「ふぁ~んむっ……」
飯食ったせいか眠気がぶり返しているらしい。
ここ数日、慣れない初体験の連続で知らず知らず身体が緊張していたのと、ストーカーのねちっこい視線に追い立てられる毎日だった疲労が安心してぶり返したのだろう。
「ふ……あ~」
やば、これ……寝る、かも……。




