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カモ理論~帰り道が同じ友達に養われていた件~  作者: シミネ
ちらつく深淵(ストーカー)の影
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ストーカー休業中は平和が戻るもの

「ありがとう愛良先輩」

「いえいえ。昨夜はぐっすり眠れたようで何よりです」

「ばっちり確認済みですわ。連日、睡眠不足ってずっと言ってましたもの」


昨日、三人で選んだ家具一式が家に運びこまれた。

組み立てサービス付きで俺たち三人の役目なんてどこに置くかスペースを指定するだけ。

配置のセンスなんかあいにく持ち合わせてないので愛良先輩と華生ちゃんの意見の元に家具配置が執り行われた。

実用性重視で配置したって言ってたっけ?

正直さっぱりだけど、とにかく家具が備わることで人生の質がわずかに上がったのはわかる。

視線が感じられなかったのも相まって昨日は華生ちゃんの言う通りぐっすり眠ることができた。


「起きた時なんか身体痛まないし朝飯食うのも楽になった」

「満足してもらえて何よりです」

「もう少し高い方がよかったんじゃないかしら、たとえばゲーミング椅子とか」

「動画とかでたまたま見かけてロマンはあるけど」

「けど?」

「肝心のパソコンがないんだよな」

「……あー」

「だから椅子と机の感想が貧弱なのね」

「飯以外じゃ基本使わないからな」


スマホにまだゲームも入れていない。

動画も大画面ではないから横になりがちだ。


「でもそれはよかったな」

「早速好評ですね。どうぞ」

「家でも三人で食卓囲めるのって嬉しいんだ」


気がつかないうちに予備の椅子二つも手配していたらしく、三人仲良く食事ができた。

おそらくこれが一番長所なんだろう。

家に招いたところで床の上で二人と飯食うのはかなり気が引けたもので。

それが解消できたからだろうか。いつもより華生ちゃんの料理がおいしく感じられた。


「カモ冥利につきます……」

「今の笑顔ズルすぎますわ……ストーカーには眩しすぎます……」

「と、とにかくどっちも満足してもらえたようで何よりです、これでもっと頑張って楽させてあげられます」

「羨ましいですわね、わたくしなんて常に声が聞けるのといつでも見れる以外なにもないですわ」

「ガチ恋の立場からしたらそっちもだいぶお得ではと思いますけど」

「貢がせていただけるなら回線一つ貸してあげてもいいですわ」

「あなたの図々しさが羨ましいと言っているでしょ? そうだ。孝充君」

「なに?」

「今日は私用があって電話できそうにないんです」

「いつも時間割いて貰ってるし他の事優先でいいよ」

「そこは聞いてもらうのがカモに対するマナーです。なんなら顎クイして『カモにプライベートなんかあるわけねーだろさっさと吐けなんならもっと貢げ』って暴言気味に言うとさらにポイントが加算されます」

「なにその一昔前のオラオラ系男子、俺には荷が重すぎじゃん」

「さすがに耳にタコができそうなのでやめてもらえませんの? キモいわよ」


そういえばこの前、学園ではかなりヤバいと言ってたような……。


「華生ちゃん」

「言われなくてもこれがこの前お伝えさせていただいた学園モードですわ」


やばいやばいって言っていた理由が垣間見えた気がする。


「誤解されたくないので前もって言いますと今日はそういう日なので……」

「分かったし誤解しないからそれ以上やめろ自爆してるぞ!?」

「孝充君の命令……はぁ……最高」

「孝充様の前でこのイかれた恍惚っぷり……本当に月の物ですのね」

「お前もたいがいだからな」


他人事みたいに言うイかれ純情ストーカーに思わずツッコミを入れる。

恍惚とした表情と夕暮れの放課後がマッチし、なんとも言えないアブナイ雰囲気が出来上がる。

自称カモのガチ恋度が跳ねあがってるしアブナイってだけでは合ってるかも?

少しずつ中身が生じ始めた会話に没頭し気がつくと別れポイントに着いていた。

はぁはぁ言いながら帰る愛良先輩を見送り、華生ちゃんと再び帰路につく。


「孝充様」

「どした?」

「付き合って」

「お断りします」

「肩贔屓は禁止ですわ。ストーカーにもせめて愛情を」

「たまにアルゴリズムで見かけるメンヘラ曲か?」


自然と腕組みしてくる華生ちゃんを横目でそんなしょうもないネタひとつ飛ばす。

案の定反応はなしだ。

心地いい沈黙が少し。


「孝充様ぁ」


華生ちゃんがいつものはつらつな声で話しかけてくる。

はつらつというか、メスガキボイスで。


「娯楽よわよわで今どきの男子から程遠い孝充様ぁ。わたくしのお願い聞いてくださるぅ?」

「お嬢様口調のメスガキは相変わらず微妙すぎ」

「そんなに微妙なのかしら」


一瞬、真剣さを帯びた口調に慌てて腕の方へ視線をやるも、いたずらっ子っぽい顔で上目遣いでこちらを見つめてきた。


「どうしましたの?」

「声が若干真面目トーンだったから。びっくりして見ただけ」

「真剣ですわよ」

「え」

「孝充様と付き合いたいのは」

「それわかってるけどさー」

「微妙すぎる反応……では代わりに」

「?」

「ちょっとだけ耳を拝借してもよろしいでしょうか」

「いいよ」


耳元に華生ちゃんの顔が近づく。

なんだろう。今更告白振ったことへの意趣返しとは考えづらい。


『愛していますわ』

「うっ!?」

「にしし。やっとわたくしだけの孝充様がひとつ増えましたわ」


いきなり息吹っ掛けてくるか?

内心、なんかいたずらされるかもという覚悟はあったけどこんな一直線のものだなんて予想がまるでつかなかった。

まんまとやられた……。


「耳が弱いだなんて孝充様のヘ・ン・タ・イ♡」

「合鍵渡そうかと悩んだ俺がアホだったか……!」

「とっても欲しいんですが今は遠慮しておきますわ。まず毒姫姉様に渡してください」

「お前だけの何かが欲しいんじゃないのか?」

「わたくしが盗聴してるということをお忘れで?」

「……そうだった」


すっかり当たり前になり過ぎて感覚狂ってるけど、俺のプライバシーなんてとっくに死んでいるも当然。

目の前の純情ストーカーにはすべて筒抜けにされてしまう。

二人に合鍵渡そうかと真剣に悩んでいるのも察しがついているはず。


「ストーカーの矜持の問題ですもの。今日はわたくししか知らない孝充様の一面が拝めたことに満足しますわ」


そんなんで満足するんだ。という感想も声になるはずがない。

耳元に囁かれたのは初めてだ。

心臓がパクパク言ってて華生ちゃんの声がまともに耳に入らない。

くっー! お嬢様メスガキという微妙集合体にトキメクとは……!


「今日はわたくしと電話していただくつもりでしたけど今のでいっぱいになり過ぎました」

「明日の朝も迎えに参りますわね」


ではまた。と告げ踵を返す彼女を見ていつの間にかうちの前に着いていたことに気づく。


「一本取られたか」


ぼろっとそんな言葉が自然と口についた。

何に。という自身への問いかけに気づけるほどの余裕は今のところない。


「後回しにできるほどの時間もできたし、ゆっくり考えていくか」


そうだ。こればかりは急ぐと返って毒になる問題だろう。

ふっとどこから沸き上がったのかわからない言葉を背に自分の家の玄関を開くのだった。


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