愛良「私の金で奢る孝充君……キュンキュンしちゃいます」
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「三人です」
「承知いたしました。メニューは」
「午後の食べ放題で」
「かしこまりました。当店は前払い制でまずはご料金から頂く形となります」
「では一括で。孝充君」
「あ、ああ……」
内ポケットから財布を取り出す。
これもまた数年使った年期入りモノで所々ぼろついている。
「ふーん」
自腹割こうにも愛良先輩に睨まれてて個人カードは使えない。
そうか、狙いはこれだったか。
「こちらで……お願いします」
「はいーカードお預かりいたします。合わせて16,197円でこちらにサインお願いします」
「は~い。ごちそうになりますね、孝充様!」
「ご馳走になります。ありがとう孝充君」
「ガッハハ、兄さんかなり太っ腹ですなー! か~なり高い値段だけどよ」
「は、はは……」
どっからどう見てもいいやつ気取りたさに女の子二人に貢ぐバカにしか見えないけど、実際そうではない。
隣で澄まし顔でこちらを見つめる愛良先輩の金で三人分払ってる事実。
妙な色気の影が差し込む気がするが、気のせいだと思いたい。本当に。
「では好きな席でくつろいで待っててください。料理は調理次第、運びますので」
指示通り奥のスペースへ。
店内は思ったより広々しており席の数もかなり多い。
「広い……」
「あちらにしましょう」
グイっとこちらの袖を引いてカウンターからかなり離れた隅の一角を指さす愛良先輩。
店内の客はちょうど俺ら三人だけ。
ソファー式椅子が備えられた四人席に着席。
奥から俺と愛良先輩で座り、向こう側の席に華生ちゃんが座る。
この前、華生ちゃんがボコられた時とは反対の様相だ。
「16,000という大金を澄まし顔のまま一括で、しかも私の残高から払う孝充君。とっっっても素敵でした♡ヒモしてあげる甲斐とはこのことでしょうか」
「ついに変な性癖に拗らせたのかしら、この毒姫様」
「同感だ。こっちはヒヤヒヤしてんぞ」
大金を一括で、しかも恋人でもない友達の金で払う罪悪感と消費特有のカタルシスでぐったり。
しかし当の残高の主人は飄々としたまま。
なんならうっとり顔で熱く語っている。
「あら、カモにされるのも何も損だけではありませんよ?」
「ヒモが将来の夢とか散々のたまう俺が言えた立場じゃないけどメリットがないんじゃないか?」
「いいえ色々ありますよ、この人の日常の根底に自分が関わっている優越感とか、人生築く上で欠かせない存在になった喜ばしさとか」
「一番はやはり自分の金があなたの血肉になってゆき末には……おっとこれ以上は秘密です♪」
カモにも人権はありますので。とはぐらかした。
「つまり推し活の現実バージョンじゃないか」
「はいっ、タメになりますよ? めちゃくちゃ謳歌してます私」
満面の笑みで飛び出るセリフひとつひとつが正気じゃない。
ドロッとしてるっていつか華生ちゃんが言ってたっけ?
まさに沼みたいな愛だ。一度嵌まってしまえばズブズブ飲み込まれて二度と出られなくさせられる。
「イかれてますわ。そんな愛情の示し方」
「ストーカーしてるあなたに言われる筋合いはありません」
「好いた殿方の声は365日24時間聞きたいじゃありませんの」
「それには同意ですが実行までにはみんな至らないものですよ? 自覚あります? やってること普通じゃないって自覚が」
「所詮、周りの目ですもの。見たくなったからカメラ仕込んで声が聞きたいから盗聴器仕込んだ、ただそれだけですのよ」
「自覚ないパターンですね。やっかいこの上ありません」
「毒姫お姉様とばかり電話しているのが不服ですけど一言一句聞ける上に今なにしてるかが見られる喜び……」
「言うほど喜ぶ場面か?」
好きな人が他の女の子と電話してるのを一方的に聞きつけられるのはかなり心にクると思うが……。
軽いNTRの類じゃないのか……?
俺だったらまず絶縁案件だ、それについて行ける華生ちゃんが不思議すぎる。
しかも華生ちゃんはそれ込みで楽しんでる筋があるからな。
「そういえばわたくし孝充様の番号、教えていただいておりませんわ」
電話してこないなと思ったら教えてなかったからか。
待てよ。
「ルネも教えた覚えないけど普通に使ってたよな」
「初日に交換したではありませんか。メっですわ」
「チッ、バレたか」
ストーカーあるあるネタ。SNS筒抜けにされた……?に持ち込むつもりが失敗した。
「むっ。番号教えたら浮気ですよ?」
「付き合ってないから浮気にならないだろ」
ガチ恋の特徴きたか。
見極められない浮気ライン。
やたら緩いと思ったら変なところで急にきつくなる。おまけに付き合ってすらないので謂れはないが何故か浮気を主張。
俺の意図汲み取ってくれるのはやっぱ愛良先輩に限る。
「じゃあ交換するか。番号教えてくれ」
「わかりましたわ」
スマホ取り出すと左から「むっす~補足ネタ入れたのに……」って声が聞こえる。
悪いな、マルチタスク得意じゃないから拾えない。
教えてもらった番号に通話をかけて履歴を残すことでいちいち教える手間が省ける。割とめっちゃ楽だからやってみな。
実は今のスマホの番号はまだ覚えてないからこれにしただけだけど。
「直接教えていただくとこう、込み上がるモノがあるのね」
「オマタセシマシター。オ肉ナンマイ?」
「一枚ずつで」
筋肉質で腕にタトゥーが印象的な西洋の兄さんがやたらデカい串に刺された肉を運んできた。
「ハイ」
一緒に持ってきた細長い包丁のような刀で肉塊から一枚づつ取り、各々の皿に配って颯爽と去っていく。
「いただきますね、孝充君」
「ありがたく頂戴するわね孝充様」
「いただきます」
薄切りされた肉にフォークを刺し込み、一口かぶりつく。
「……!」
「どうですか? お口には合いますか?」
「んっ、ラム肉ねこれ。わたくしは比較的好物ですけど個人差があるそうですの」
「やばい」
「お口に合わないのかしら、牛肉もあるそうなので……」
「違う」
「よかったですね」
続きの言葉の代わりにもう一口かぶりつく。
濃い目の味付けにド素人の俺ですらわかる赤みある程よい焼き加減。
美味くて言葉が出ないってマンガの演出じゃなかったのか……!
「ハイ。コレラムの肩肉。誰かツカマエテ」
「ええ」
先ほどと違って今度はつたない日本語で助力求めてきた。
「座っていれば入れ替わり立ち代わりでメインディッシュが運ばれる形です。こういうちょっと切り取りづらい部位の場合、トング箸や使っていたお箸で切り込み入れたところだけ捕まってあげるのがルールですよ」
「へー」
隣から疑問を察して丁寧に解説入れてくれた。
一般的な食べ放題とはかなり勝手が違うのか。
そういえばビュッフェ式食べ放題でよく見受けられるおかずの行列はここにはないっぽい。
店によるのか?
「はい。まずは孝充様から」
「シュハスコは色々ありますが基本的には調理済みの串に刺された塊肉が運ばれるのが王道ですわ。サイドが並べられているか否かで分かれますがこちらはありませんでしたの」
「マイド~」
またもや三枚配って颯爽と立ち去るブラジル職員の兄さん。
「あ、ちなみにですけど番号は既に入れてありましたわ」
「プッ!?」
「やはり醜いストーカーに成り下がってしまいましたか……処しますか?」
「設定開いた時たまたま番号が見えたら登録しちゃうではありませんの! あんまりですわ」
「まず普通しないから、なんなら犯罪に片足突っ込んでるから」
盗聴器とカメラ仕込んだ時点ですでに取り返しがつかなくなった感はあるしまあ今更っちゃ今更か。
「それに、登録されてないのに電話かけるなんて図々しい真似などとうてい無理ですわ。良識はありますの」
「良識があったらストーカーにならないと思いますよ」
「それとこれとは別ですの。好きな人の一言一句は脳と網膜と鼓膜に刻みたいものでは?」
「もう頭がおかしくなりそう、まともなのか狂ってるのかわからん」
「あむ、ですね……ここ結構クォリティーありますね。驚きです」
「5000円以上の店だったらこういうものではないのか?」
「世の中、色んな店があるじゃないですか。中には値段不相応の店なんてざらにいるものです。ラーメンが神って呼ばれる理由もあるものですよ」
「その通りですわ。以前、お姉様とスイーツ食べ放題行ったことがありますけどそこはもう言葉にならないクォリティーでしたわ」
値段が張る=必ずしも相応のクォリティーが出るわけじゃない。
と、頭の片隅では分かっていたものの、行ける機会が皆無だったので期待通りとどこかで願っていた節はある。
肩肉も文句の付けようがない美味さで半分以上聞き流すほどだ。
「当たりが引けてよかったです。孝充君の胃袋に入る物に変な物は許せませんので」
「もしここが外れだったらどうするつもりだった?」
「即他の店に連れて行きましたね」
「オマチドウ~!」
話しながら入れ替わり立ち代わりのシュハスコに三人で舌鼓を打つことをしばしば。




