毒姫とストーカーで三人デート(2)
「とりあえず何から買えばいい?」
「何から何までですね。孝充君の部屋は明らかに異常ですので」
「言うほどおかしくはないだろ」
「携帯二大と布団、タンスの中のお洋服で終わりですものね」
華生ちゃんが作ってきた昼飯を食ってはや一時間が過ぎた。
俺たちは隣駅の大型ショッピングモールに繰り出している。
ここまで来るのにひと悶着あった。
ストーキングだかカモだか言ってもそれも財力無しではやってられないのも事実。
リサーチは華生がマネーは愛良先輩からという流れになって任せてトイレに行って来たらリサーチが済んだので見て欲しいという華生ちゃんに従って確認してみるも、絶句案件まっしぐらだった。
なんと、値段が高すぎたのだ。
家具の相場なんて学生なんで詳しくは知らんが一から揃えるとなると結構出費かかると偶然動画で見たことがあるのである程度は覚悟していたものの、予想の斜め上どころか花火となって爆散してしまうレベルだ。
ベットは華生ちゃんが使ってる物と同様の品らしいが、これの値段がとんでもない。
ソファーはインテリア用のやつと普段使うもの両方見てくれてたらしいけど、どれも値段がすごく高く値段云々抜きにしてもベット置いたら部屋が狭すぎて入らなかったので却下することに。
次は机だ。見た目素朴なやつで安心していたもののこれまた半端ない数字の大行列だ。
さすがに使いすぎだって愛良先輩に一言報いてやったら『カモする女に遠慮するのは浮気同様』と、神経を疑うガチ恋理論が再び浮上する始末で話にならず。
部屋でポチってからデートを楽しみになっていた当初の目的はいくつかの口論の末【直接見に行く代わりに値段はこっちの裁量に寄る】という形で収束、ここまでやって来れた。
「部屋がそもそも狭すぎでキングサイズ置いたら空間飛ぶぞ」
「確かに、いっそ引っ越しちゃう?」
「余計な出費が増えるだろ?」
「ニコリ」
「そうですね。でもお姉様に負担が寄りすぎですわ」
「今度こそ天に召されたいのですか? 寝取り宣言とはずいぶん生意気な口利きますね」
「孝充様ぁ毒姫様がイジメる~!」
「まあまあ」
またもやいがみ合う二人の間で仲裁しつつ、事の発端となる事情を軽く話す。
「今住んでるところって祖父のおさがりで家賃ゼロだ。引っ越しが余計な出費って言た理由、わかってくれ」
「けど管理費も水道光熱費はかかるのでは?」
「それだけかな。家で食事はしないからガス代はゼロ」
「“自分のお家”でしたら物を増やしてもよかったんじゃないですか?」
「いくつか揃えるつもりだったけどいつしか“家”というより“仮眠室”感覚がでかくなって思考から抜けてた」
「そうですの……」
「まあそれは追々進めますので後回しにするとして」
あれ? 俺の意見スルーされてない?
「だからせんぱ……」
「カモに」
「これ以上言わせたら口ばかり痛くなりそうですので割愛しますがどうしますか? 続き、監禁させてくださるなら耳にタコができるまでたっぷり愛情込めて聞かせてあげるのもやぶさかではないですよ?」
「遠慮します……お気に召すままに……」
普段、決して俺に出したことない冷たのはらんだ口調で制してきた。
ガチ恋理論こえぇ!
「分かればいいんです」
しぶしぶ俺が了承するとぷっくと頬を膨らませたまま頷いてくれる愛良先輩。
「さてと、話を戻しますと」
「軽く見て回りましたけど孝充君的にこれだ!ってピンとくる家具はいませんでしたか?」
「どうだろう、あんま意識してなかったかも」
大型ショッピングモールの家具専門店にまで足を運んで見たものの良し悪しはもちろん何がどう違うのかがさっぱりで返って困る。
これは直接言っとかないと誤解が生まれるかもしれないし、直接伝えたほうがいいか。
「貧困ネタ抜きにしても正直わかんないな」
「見比べって良し悪しの判別のための行為でしょ? 見てるだけじゃわかんないな」
「じゃあ、直接試してみればよいではあいませんの」
パンと華生がお嬢様のリアクションをひとつ挟んできた。
「直接?」
「華生は直接横になってみればいいのでは? と言いたいんです」
「試着でもないしそんなんできるのか?」
「家具も衣服然り直接試してみないとわかりませんわ。ですので先ほどネットで見物した際のものもわたくしや毒姫様の経験を元にしたものばかりでしょ?」
どうりで高い物ばかりに偏るわけだ。
加えて決定的に衣服と違うのは気に入らない時の処理だろう。
衣服などの消耗品は捨てるなり周りの人にお下げとしてあげるなりできる一方、家具は処理に難航してしまう。
払い戻しも一苦労だろう。
「じゃあ、いくつか試してみるか」
「孝充様、孝充様! これやばいわよ。品評会みたいにどこがどういう感じでいいか具体的には無理ですけどすごくいいですの!」
「具体的には言えないけどはしゃぐ気持ちはめっちゃわかるぞ、ここまでしっかり腰が掴められるのか」
確かにいいものとしか言いようがない。
高反発……というモノの中でもかなり上品なモノだそうだ。
ベットのマットレスなんてブカブカで横になった瞬間、身体が沈み込み安らかに眠れるイメージが今までは強かった。
どころがそれは個人差の領分。
いくつか横になって試して見たものの、羊雲の上にダイビングするイメージ通りのマットレス。いわゆる低反発は俺には合わないことが判明する。
沈みゆく感覚がナチュラルにキモかった。
腰の感覚もおかしい。短時間楽しむ分には問題ないだろうけどこれから世話になるって考えたらげんなりしてくる。
だったら逆に高反発はありなのでは? という二人の提案に理想との折り合いをつけて挑んでみたらなんと身体にピッタリあったのだ。
「今すぐ抜け出せないとベットナシでは生きていけない身体になりゅぅ……」
「あら、そんな喜ばしいこと言っちゃっても高品質のベットと私の愛情と言う名の現実赤スパしか出ませんよ?」
「たかみちさまぁこれ欲しいわ」
「お前んちのベットの方が数段上だろうが」
「毎朝起こしに行く役目のわたくしにもお情けをぉ」
「朝っぱらからなんて破廉恥です……!」
「どこ行ってきた?」
「店員さんに色々伺った結果、ここにはこれより上の品質のマットレスはないらしいのでひとまずこれを」
領収書をそっと差し出されたので決済された金額を確認。
「八万五千円……?」
「下のフレームはサービスらしいですよ? フレームだけでももっと品のあるものにしたかったのですが……」
「コスパ最高だわ~よいっしょ」
コスパいい方なのか?
俺より幾分かいいベット使ってるはずの華生ちゃんがこう言ってるし、疑いの余地はない。
先にベットから降りた華生ちゃんがとんでもない数字に考えあぐねている俺の手を引っ張り無理矢理地面に立たせた。
「まぁまぁ孝充様。考え込んでても仕方ないわよ」
「こういう時はめいっぱいの笑顔で『ありがとう』って言った方が上げた側は嬉しくなるものですわ」
とんでもない数字に目が眩みそうになっていて忘れかけていた。
これは愛良先輩からの気持ちのひとつだ。
くよくよしてるままじゃそれを蔑ろにするとの同じ。
「ありがとう愛良先輩。何から何まで気遣ってくれてすごく嬉しいよ。これで毎晩、先輩と寝落ち通話する時より間近に感じられる」
「はぐぅっ」
「だ、大丈夫か? 急にどうした?」
「孝充様それわざとやってるのかしら」
「何が?」
「これからもガンガン貢ぎましゅぅ……」
「ドツボにハマるとはまさにこのことね……羨ましくなったわ」
「?」
幸せそうな顔で今から天に召されるかのような両手合わせて拝め始める愛良先輩をしり目に訳知り顔でうんうんと頷き始める華生ちゃん。
置いてけぼりにされたけど、直感的に俺だけが共感できそうにないモノだってピンときた。
それからおよそ十五分くらい後、復活した愛良先輩ではなく今度は華生ちゃんが仕切って次の家具の見物にやってきた。
「次は机ですね?」
「要るの? それ」
「すごい頻度で使いますよ?」
「孝充様のデフォが“無し”ですので感覚が麻痺ってる可能性が高いかなと」
今までの生活を振り返ってみることに。
寝て起きて学校で睡眠補給して働き先に向かう生活の無限ループ。
特に家でご飯は採らず、余裕があれば働き先で取るかどうしてもダメそうって時はコンビニのおにぎりで済ませるてた。
……うん、確かに不便が全く感じられない生活だ。
「椅子は座り心地重点にして机は部屋の都合上少々狭くなるかもしれません」
「くっ、こればかりは仕方がないので妥協するしかありません……」
「机はさっぱりだからお任せするよ。俺のためにありがとうな華生ちゃん」
「キュン」
「華生ちゃん?」
「毒姫お姉様の財布ばかり負担を強いるわけにはいけませんわ。ここはわたくしも……」
「ライン越え。殺しますよ?」
「ひぇ」
「同担拒否です♪」
いつものガチ恋に脅迫されるストーカーの図を横目に机と椅子を一通り見て回る。
特にこれといった好みはなかったので華生ちゃんの言うことに全肯定することにした。
簡易収納スペース付きの机に柔らかそうな椅子の合計二点で値段もそこそこ張ったものの、今度もまた見事脅迫に撃沈。
ちなみにベット含め三点組み立てサービス付きで翌日には業者が家に来訪するらしい。
他の家具も一通り見て回ったけど特に必要に感じるモノはナシ。




