毒姫の苦手とする物と毒姫とストーカーで三人デート(1)
孤高のイメージがあると噂されるらしき(詳細は知らんけど)愛良先輩が?
定番のオタネタならいざ知らず、意外な一面が見れた気がする。
小説の中だったらここで『不摂生は仕方ないので私が作る』と有無を言わさぬ物言いされた後、半同棲状態に片足突っ込む場面だ。
だが現実は心底悲痛な声で料理できないと告白するギャップのお披露目会。
「言っちゃった。孝充君に情けないとこ、晒しちゃった。うぅ……」
「か、カモするのに相応しい女性になれるようこれからも精進しますので、きょ、今日はここで切らせていただきます……!」
「ちょ、せんぱ!」
プチっという音が響きスマホがメイン画面に切り替わる。
「愛良先輩の新たな一面、か」
切る直前の声に乗るあの慌てよう。
「ルネ?」
通知に伴い点滅した画面に視線を辿ってみると先ほど電話切った本人からメッセージが届いていた。
『明日はお昼ご飯の前に迎えに行きます』という用件だけのメッセージ。
こちらもシンプルに了解とだけ書いて送り返す。
「ふあ~」
ここ数日はろくに眠れていない。
本来なら労働による緊張で紛れていた疲労感が何もしないことによって顔を覗かせたのだろう。
「ちょっとだけ、休むか」
ストーカーされていると自覚した精神的疲労もあったんだろう。
珍しく視線が感じられない今、一気になだれ込む疲労感。
「今日はて言ってたっけ」
じゃあ今日はお役御免か……。
熟睡を考慮してとりあえず電気だけ消しとく。
一週間以上苛まれていたねっとりとした視線は感じない。
つまり、今日は盗聴器と盗撮がされていないことになる。
ストーカーも休業日ってあるのか?
「永休して欲しい……」
どこの誰か知らんけどつけるならもうちょい金に恵まれて性格も背丈も抜群なイケメンにチェンジして欲しいもんだ。
華生ちゃんが見守っているだろうけど、逆に心強いと感じてしまう分には追い込まれていたらしい。
意識次第で人の感覚がガラッと変わるという話が不意に脳裏についた。
気づかぬうちに瞼というカーテンが閉められて、いつしか朧気だった意識は夢の世界へ引きずり込まれていった。
・・・
「ん……」
カーテンの隙間から差し込む日差しに徐々に意識が覚めていくのがわかる。
「ふぁ~」
「大きな欠伸。んふっ、無防備すぎるダメダメな孝充様ぁ~攫われちゃいますよぉ?」
「同い年のストーカーにぃそのようなお姿。カッコウの獲物ですよ? いいんですかぁー?」
「お前になら……いいかも」
「ほぇっ?」
「華生だけ享受するのはズルいです。処します」
「理不尽じゃありませんの!? 夜な夜な長電で拘束している毒姫には言われたくありませんわ」
「誰が重いメンヘラ女ですか。ええ? 部屋に監視カメラ仕込んでプライバシー侵害して優越に浸るあなたがよっぽどイかれている自覚はおありで?」
「来世も共に歩みますわ。愛情拗らせた挙句、金銭面から崩してモノにしようとするお姉様とは……」
「へえ、私とは違ってあなたは使わないとおっしゃるのですね?」
「……使いますけど?」
「うっせ……」
耳元でギャアギャアと騒がれて心地よい朝が台無しだ。
「おそようございます」
「おはよ、ふぁ~~っ」
もう少し寝たかったが、気配が一つではなく二つ感じられたのでなんとか意識が落ちないよう踏ん張って耐える。
「大きな欠伸ですのね。わたくしが誰かわかりますか?」
「メスガキ」
「違いますわ! 一途に慕っている乙女に向かって失礼ですわよ?」
さっき耳元でメスガキ臭の染み込んだ言葉が聞こえたような……。
幻聴か?
「それはないか~」
「心の声漏れてますわよ? さすがにへこみます」
「孝充君おはようございます。私が誰かわかりますか?」
「拗らせ系カモ……?」
「ほら孝充君もこう言ってますよ」
「褒めてるのかしらこれ……? リアルに課金して悦に浸る立派ななダメ人間製造機じゃありませんの」
「自分と言う檻に閉じ込めてズブズブ依存させてうふふふ……」
「ふぁ~!」
朝ボケしてる脳みそからやっと目が冴えてきたと思ったら、ブツブツとなにか呟いている愛良先輩の姿が視界に飛び込んでくる。
月に俺の隣に陣取って何故か威嚇している華生ちゃんが認められる。
「なあ華生ちゃん」
「なんでしょ?」
「愛良先輩どうしたんだ? 瞳からなんか……狂気が感じられるけど」
「いつもの発作ですので悪しからず」
「気づいてたの?」
「そりゃあもう飽きるほどには目にしております。時々学園でもああやってトリップになりますので心配で後をつけたのがきっかけでしたの」
「まともな理由からだったのに驚きを禁じ得ない」
携帯ショップから離れたとこから尾行だったと思ったけど、ただ先輩想いの優しい後輩だったという衝撃の事実。
先輩は時たまこうしてトリップすることが多々ある。
主に俺の話メインで。
通称トリップ状態となった愛良先輩が戻ってくるには少々時間がかかる。
このまま放置してもいいとは思うが後が怖いんで早めに戻すに越したことはないか。
「あれ、使うしかないか」
「あれとは?」
はてなマークが浮かんだように華生ちゃんが首をかしげる。
ドジっ子っぽくてこれはこれで可愛いな。
っと眺めてたらマジで何言われるかわかんない。
愛良先輩と間合いを近づけて。
綺麗な黒髪ストレートの髪にそのままチョップを入れた。
「あたっ!?」
「はっ、私はいったい」
「戻ってきた?」
「チョップはひどすぎます~! いつもの抱きしめて耳元で『起きて俺のために働けこのカモ女』ってガチ恋悶絶発言はどこ行きました!?」
「言っとらんわ! やり捨て上等ホスト野郎だろうがそれは」
「ちなみに“働く”というのは至極健全な意味ですのでご安心ください。才気を持ってあなたを養わせてみせましょー」
「ダメだこりゃ。いつもよりすんぶん飛んでる」
「いつものお姉様ですのね。安心しました」
「は?」
「え?」
すれ違う感想に目が丸くなりそうになる。
俺の前で見せるトリップの上を行ってたのか……。
「おっほん。で、ではお昼ごはんに参りましょう? 腕によりをかけて作ってきましたの」
ちょっと待って。
「朝じゃないのか……?」
「昼前ですのよ? ちなみに押しかけたのではなく孝充様のお家の前で合流させていただいてから入ってきました」
ひとつひとつ発言がおかしいけど彼女は愛良先輩公認のストーカー。
昨夜、俺が寝堕ちた後なにかしらの会話があっただろう。
そこは今更問題にならない。
「ついに授業どころか学校ごと蹴ったのか……」
はあぁ……。
ため息が自然と口をついた。
学費のため働いたものの学校に行かず寝込むという体たらく。
完全に俺の落ち度だ。
仕事もやめたのでストーカーと疲労のダブルパンチという免罪符も何も言わないままじゃ情状酌量の余地は皆無に等しい。
普段ほぼ学校で寝て過ごしている罪悪感に尾を引かれ数日休むと言い出せなかった。
微かな罪悪感が学校抜けたという肉が付き徐々に肥大化していく。
「自分を責めないであげてください。すでに連絡は入れております」
「いつの間に……?」
「ストーカーされているという所は伏せつつ体調が優れないていで装って送りました」
「昨夜は22時以前に寝落ちしましたけど今はほぼ12時間近く。体調がよほど優れてなかったのも事実でしょ?」
「そりゃ……」
今の俺は目の前に食らいつくのに必死で、己の置かれた状況どころか体調すら視野に入らない状態。
いつの間にかトリップから帰還した愛良先輩もストーカーまっしぐらの華生ちゃんも俺を想って朝っぱらから来てくれている。
元を辿れなくともまともな生活とは程遠い人生歩んでいたんだ。それに勘づいていたから尚のことカード渡したりストーカーしてたりしているのだろう。
「ありがとう」
感謝の言葉がおのずと口からこぼれ落ちていた。
自分より自分の境遇に案じてくれるカモとストーカー、か。
捉え方を違えど途端に愛おしく思えてくる。
「もっと依存してくださってもいいですよ? 張り切りすぎです」
「自我ザコザコ状態の孝充様のためですよぉ♡依存しちゃえ」
傍から見ると明らかに沼らせにかかる言葉。
けれど今の俺の胸にはスッと染み込む輝きを放っている。
「まずはお昼ごはんにいたしましょう?」
「それから家具揃のデートです」
「後ろ向きが過ぎてた。飯食っていくかー!」




