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カモ理論~帰り道が同じ友達に養われていた件~  作者: シミネ
カモという沼から抜け出せなくなったらしい
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「ズブズブに依存させちゃいましょう♡」って聞こえた気がする

とは言ったものの、夕暮れから夜の帳が滲み始めたのでさすがに今日ではなく今度俺が奢るという形で解散する流れに。

働き先だったファミレスは商店街の方にあるので家からは徒歩でそこそこ時間がかかるが、愛良先輩は近い方だったらしく次のポイントで別れることになった。


「あ、そうだ。孝充君」

「どうしたの?」

「カード使った履歴、私の携帯に残るように致しましたので」

「はあ……」

「今夜、夕飯買って帰ってくださいね? 買わなかったら明日から陽の光浴びれなくなります♪」

「普通逆じゃね?」

「孝充君の夕飯事情もこれで何とかなりそうでほっとしてます」

「……バレてたのか」

「箸がない時点で気づけない方がおかしいですよ?」


目ざとすぎるだろ毒姫。

ファミレスでたまに余り物譲ってくれるか夕方から工場のシフトだったら飯が提供される以外、基本夕飯は取れない。

俺たちの帰り道では好きな食べ物や夕飯何食べた? などの話題が基本上がってなかった。

この一年で何となく察してたものがこの前の押しかけによってトドメを刺す形になったんだろう。


「次は家具揃えに行きましょう? ではー!」

「ちょっ!?」


軽やかなステップ踏みながら『また後でー!』ってこちらに一回振り返ってはまた駆け出していく。

次第に愛良先輩の姿が見えなくなった。


「……俺も帰るか」


家までここから徒歩で三十分かかる。

温かいご飯食べようとすると近くのコンビニの弁当しかいない。

「まあ、食わないよりマシって認めてくれるか」

基本、ノリが合う話が弾むけど忘れてくる頃合いにお嬢様ムーブしてきて困る。

ヒロインで例えるならそこが萌えポイントになるだろう。

そんなくだらないこと考えながら歩いていると、短いバイブと共に鳴り響く軽やかな通知音。

ルネの通知か。


慣れた手つきでポケットから取り出して画面がついてたので早速確認。

華生ちゃんから、か。

どうしたんだろ?

早速ルネを開くとそこには歩いてる俺の写真一枚と短く「美味しいもの食べてください孝充様♡」って書かれてあった。


「ストーカーこっわw」


今はストーカー兼ボディーガードだっけ?

気配も視線もまるで感じられない。

俺が愛良先輩を見送ったあたりからつけられていたのか?


「でも、これはこれで心強いな」


ありがとう。だけルネで送っとく。

つけられてるかもという不安も、いつも通りの華生ちゃんの奇行に帳消しにされる。

多分不安が拭えないと見込んでワザと俺の画像送ってきたんだろう。

いつの間にか家近のコンビニの前まできた。


「いらっしゃいませ~」


コンビニ飯は久しぶりだ。

おおよそ約二年ぐらい食べてない気がする。


「ふむ……」


長い長い熟考の末、やっと決めることができた。

商品を手にレジに進む。


「いらっしゃいませ~あっためますか?」

「お願いします。あと唐揚げ棒一つお願いします」

「かしこまりました、少々お待ちください」


肉がぎっしり詰まってる弁当に唐揚げ棒という禁断の組み合わせ。

歳でカバーする背徳の二重奏が本日の夕飯だ。


「743円です。お支払いは……」

「……カードで」

「かしこまりました。ではこちらにお差しください」


やっちゃった。

ヒモへの一歩、踏み込んでしまった。

他人の、帰り道がたまたま一緒の友達の金で夕飯を買っている。

申し訳なさと同時に込みあがる謎の優越感。

このままずぶずぶと依存して行って、終いには家に上がり込んで居座ったり、こんな身体にした責任取れ!などクズ男の定型文が言えるようになってしまうのか。

妄想の世界へ羽ばたき始めようとすると、強い既視感に苛まれる。


「ありがとうございました」


カードと飯を回収して素早く外に出てきた。

今の既視感は間違いない。


「夢で見た光景だ……」


数日前、電話で言いそびれた景色。

あれは愛良先輩の金で夕飯買う夢だったのか。


「電話したら話してやるか」


心持ち重い足を引っ張り家へ向かうことに。

まず扉の施錠からして、買ってきた弁当と唐揚げ棒にかぶりついてる時にあることに気づく。


「飲み物忘れた……」


ご飯の最中、飛び起きて喉潤すことになってしまった。

部屋で夕飯食べるのは久しぶりがすぎた。

次から飲み物絶対買ってこよう。


「ご馳走様」


手を合わせ感謝の挨拶が口から自然と出た。

時計の針はいつの間にか九に迫っている。


「ふぁ~」

「ん?」


ブルルルルルとふいに鳴り響く着信音の元に視線をやる。

液晶には【愛良♡】と浮かべていたのですぐ青ボタンにタッチ。


「もしもし」

「もしもし? あ、ワタシワタシ。いや~頼んどいたやつどうなった?」

「ごめん、明日結婚するから無理」


プチッ。

すぐさまかけなおされたのでまた青ボタンにタッチする。


「もしも……」

「学生結婚なんかあなたの歳で出来るわけなくてそれならすなわち将来を誓った幼馴染とか昔仲良かったやつがいるのね教えなさいさもないと陽の光と絶縁させてしまうけどいいの私あなたに……」

「冗談! オレオレ詐欺女バージョンのカウンターだから!? 道踏み外してギャングになったお嬢様のヤンデレムーブやめて怖いわ!」

「禁止ワード、わかりましたか? ヒモしている側の女性はガチ恋のおめでたい思考が多いので以降発言にはお気を付けを」

「自分のことめっちゃディスってるじゃん……前から気になってたけどそのVオタっぽい例え、どっから出てくるんだ?」


俺の知ってる限りじゃあ、愛良先輩はぶいつーばーは見てないはず。

それに詳しいクラスメイトの数人の会話がたまたま耳に入ったことがあって、話によると中の人の恋愛や結婚などはNGワードと暗黙の了承になっているらしい。

中には『中身とVの姿は別』を唱えて受け入れる超越者もいるようだが、いわく基本スパチャに金かけてる反動かNGになるらしい。

しかし先輩は『見てるVはいる?』って聞いてくる側ではあるものの自分から進んで何にハマってるとか言ってこなかった。

互いの身の上話はやたらしないがなぜか趣味の話には一向に熱狂するし、勧め合ったりするのがいつしか暗黙のルールとなった俺たちだ。

女の子なのに堂々と『百合、いいですね』と楽しそうに口頭にあげるほど。

つまりは見てないことになるが、愛良先輩の発言はガチ恋の盲目そのものだ。


「お母様の教えです♪」

「は?」


今、なんつった?

オカアサマノオシエ?


「まあ無理もないですよね。身の上話を少々することになりますが……」

「あ、後で聞くよ。そういう大事な話、電話よりもさ、直接聞いた方がいいだろ?」

「私の気持ちを汲んでくれるんですか?」

「あ、ああ」


ラインは同じだけど妙にズレている。

聞いてしまったら戻ってこれないと得体知れぬ恐怖の前から逃げただけだ。


「今度じっくり話させていただきますねぇ。NGワードの概念とカモに愛され続けるコツも添えちゃいます♡」


スピーカーから聞こえる愛良先輩の声から病の波動が感じられる。

おかしいな、先輩病んでないはずだが……。


「ではここで問題です」

「はあ」

「むっ、興味なさそうな返事。拗ねますよ?」

「拗ねたらどうなるんだ?」

「……孝充君のスマホに電話かけて切る意地悪な小学生ムーブ繰り返しちゃいます」

「可愛い拗ね方よ」

「具体的には百通ほど」

「すごく怖いけど今ならむしろありなのでは?」

「私のヒモが狂っちゃった?!」


脳がしっかり働いてるか疑わしくなる発言がしばらく飛び交う。

けど仕方ない。

帰り道の友達からスマホにクレカまで渡される一方。その妹を名乗ってた娘に何故か惚れられて純粋という名の元ストーキングされている身だ。

おまけにストーカーはもう一人いる怒涛の展開。

妙なサスペンスが続いたから狂った発言が少しはしたくもなるものだろ。


「で、なんの問題ってなんだ?」


このまま脱線しまくり余韻に浸るのも乙なもんだけど、ここ数日の学びで何となく察している。

今日もどっちらかる会話の連続で電話はきっと長引く。

それならシャワー浴びてから続けたい。

ささやかな俺の願いが届いたのだろう。愛良先輩はごほんっと咳払いひとつ入れて口を開く。


「孝充君が仕事から解放されたので放課後はもう私で予約がいっぱいのはずです」

「華生ちゃんもあるぞ」

「気持ちの問題です。ヒモしてるなら頷きなさいー」

「ははー!」


ヒモにさせて養いプレイ始めてんのお前だがなという言葉が喉先まで出かかったがなんとかグッとこらえる。

これ言ったらシャワーから遠ざかってしまう。


「とにかく私で“予約いっぱいの”孝充君なら寝る時以外、いつ電話してもOKのはずですが、今日は早めに電話かけちゃいました」

「ぼんやりとしてて何が言いたいのか要領を得ない」

「つまりですね」

「コンビニ弁当は身体に悪いから以降気を付けるようにと言うためだけに敢えて電話かけました」

「やはり筒抜けだったのか……」

「私の残高ですので。一応はチェックする必要があるかなと」


メニュー名まで言われたら何かが堪えて悲しくなりそうだったのでそれだけは全力で阻止する。

週6の連勤に蓋を開けてみれば食事もまともに摂れてない有り様。

しかもストーカーの弊害も重なってストレスと睡眠不足がもろに出てるはず。

心配で仕方なかったのでカード渡したらコンビニ飯食ってた。


「そりゃ心配にもなるな。うん」


恋人ではないものの自称カモされたいと立候補した女の子だ。

小言の一つや二つ言いたくなるのが普通だろう。


「私は人の食事に口うるさく言いたくはないんですけど」

「てっきり口挟む派だと思った」

「急かさないで。異常事態は論外に決まってるでしょ?」

「最近読んでいる【貞操逆転世界で百合夢想~ドМの私に施される数多の軌跡~】について語りたかったんたのが本音ですよ?」

「家具一式の見物に併せて食材も見に行きましょう。たまに出前で取るのは別に構いませんがコンビニ弁当だけは厳禁です」

「なんでだよ、むしろそっちが悪いのでは……?」


「栄養偏ってなお手頃に済ませられて気づいたら依存してるやつとたまに食べてハッピースパイラル起こす物、どちらがいけないと思いますか?」

「ぜ、前者一択です」

「せいかーい。また敬語使いましたよね?」

「ご、ごめん」

「私も少々口うるさくなりすぎました。今回は不問にしましょう」


ふぅーと、マイク越しに聞こえないほど小さく安堵の息が自然と漏れ出た。

たまたま通知が目に入るほど離してたのでついでに確認しておくか。

華生ちゃんから『自炊できないダメダメな孝充様の胃袋掴ませるため夜も参りましょうか?』というルネが来ていた。

夜は自由にさせてと返信っと。


「今日もしっかりと盗聴されてる」

「華生からルネ来ました? まあ今回ばかりはあなたに非がありますので」


猛省してくださいと追加された。

ストーカーまっしぐらの華生の味方につくくらい今回は全面的に俺に非があるのか……。


「ヒモにさせていただいている立場としては夕飯作りに行きたいのは山々ですけど……」

「門限があるとか?」

「一応ありますけど、あなたのためにって言いましたらなくなりますので違いますけど……」

「?」


お嬢様物あるあるのチートレベルワード。【門限】の発動かなと思ったけど、反応が微妙だ。

毒姫というあだ名にふさわしく普段ハッキリとした物言いの愛良先輩には珍しく「あの……」とか「その……」とかどもっている。

やがて静寂の帳が俺たちを包み込み、しばらく無言状態へ突入。

初めて出会ったあの頃以来の気まずさが愛良先輩から感じていること体感数十秒の後、意を決したような声がスピーカー越しから聞こえてきて、意識を向ける。


「……です」

「は?」

「……りできないんです」

「なんて?」

「料理、苦手で作りにいけません!!」

「……マジ?」

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