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カモ理論~帰り道が同じ友達に養われていた件~  作者: シミネ
カモという沼から抜け出せなくなったらしい
19/34

攻めのターン、沼らせ術が発動

「……やべ」


夕陽のキラメキにまどろみから意識が徐々に浮き上がる。

気がつくとまた放課後になっていた。

ウトウトと舟こぐうたた寝ではなく机につっぶしてるガチの方だ。


「やっべ、また落ちてたか」


慌てて時間を確認してみたら案の定、また遅れた。


「最近こういうことばっかだな、クソ!」


教室から飛び出して下駄箱まで早歩きで移動。

履き替えて待ち合わせポイントへ即ダッシュの二段コンボを決める。


「はぁ、くっ……!」


寝起きにはしんどいけど致し方ない。

今度こそ愛良先輩を怒らせてしまう……!

やっぱ昨夜の疲れが尾を引いてたか……!

ダッシュで揺れる視界の先の待ち合わせポイントには既に二人が着いていた。


「はぁ、は……! ごめん、潰れてた」

「こうなると思ってました。むっす~!」

「案の定ってとこかしら」


お疲れ様。と苦笑浮かべる華生ちゃんに、いつもの『むっすー!』を口に抱きついてきた愛良先輩の様子がどことなくおかしい。

どこか虚ろな目と行き場をなくした表情筋。


「愛良先輩?」

「ねえ、孝充君」


いつものはつらつさは何処へやら。

有無を言わさんばかりの圧が効き馴染んだ透き通るソフラノトーンに乗っていた。


「カモにしてる女に一番やっちゃいけないことはなんでしょう?」

「そう、だな……」

「既読スルー?」

「正解。けどそれは副次的産物に過ぎません」

「『正論掲げて放置する』です」

「日本語になってないな」

「はい。どう見ても文章になっていません」


初めて見る先輩の不思議な雰囲気と声のトーンが相まって全身に鳥肌が立つものの、喋り方はいつもの愛良先輩そのもの。

冷静な一面が伺える姿勢にどこか不気味とすら思えてくる。


「もっと距離縮めてからしたかったんですけどね」

「?」

「今日から当分の間、仕事休んでいただきます」

「まったまた~」


ただならぬ雰囲気でたまに飛ばしてきた常套句が飛んできた。

いつもの冗談にいつもの躱し方で対処する。

先輩の言い分はなんとなくわかる。

得体のしれない何かにストーキングに身体の疲れが取れない負のスパイラル。

けど仕方がない。

両親からの仕送りなしの高校生の頼れる先は丈夫な己の肉体しかないのだ。

身の置かれた立場がほんの少しわかるからこそそんなジョークで肩の力抜けようと図ったんだろう。


「冗談に見えます?」

「え?」

「連日の過労にストーカーによるメンタルに来る鳴らしちゃいけない二重奏ですよ?」


抱きしめられた右腕が痛くなるほど手に力がこもっている。


「前回、何かひとつ言うこと聞くって言いましたよね? では、これを」

「これは……?」


何かのカードが無理矢理握らされた。


「クレジットカード?」


両面真っ黒のシンプルな柄のそれはファミレスのバイトする際によく目にするそれだった。


「あなたのクレジットカードです。渡しそびれておりました」

「え?」

「名義譲渡の際、こっそり作っておきましたあなた名義のものです。さすがにまだ学生ですのでひと月三十万が上限らしいんですけどね」

「三十て。これも愛良先輩持ちか?」

「当り前じゃないですか。私持ちになります」

「さすがにもらえないよ。申し訳なさすぎる」

「孝充君。忍耐力にも限度というモノがあるとご存じですか?」

「急にそんなこと言われてもな……」


突飛すぎた質問、困惑がいつの間にか言葉の形を成していた。


「今のそれ、他の女性でしたら大正解かもしれませんけど私からしたらアウトです」

「カモになると名乗り出た女性から受け取らないのってお前いらないって切り捨てるのと等しいんですよ? モラルとかふざけたこと考えてないでとっととそれ握って贅沢ひとつしてきてください」

「やれ仕事だストーカーだこちらは心配で気が気じゃないんですよ。それでも申し訳ないとかクズ発言の取り繕いばかりのたまうつもりでしたら二択差し上げます」

「ストーカーが駆除されるまで私の家に監禁されるか、仕事やめてカモに立候補した女の脛齧って自由に暮らすか」

「どちらにいたします?」

「お姉様……」


愛良先輩に反感持ってるはずの華生ちゃんですらなんのツッコミない。

そこで愛良先輩に頬を両手で掴まれて強制的に目線が合わせられる。


「他に視線向けちゃダメ。どちらにしますか?」


ほの暗さの中に隠された表情は初めて俺の部屋にやってきた時と同様、どうしようもない悲しみの色が伺えるもので。

愛良先輩にここまで面と向かって言われるのは初めてな気がする。

考えてみれば俺が蹴り飛ばされた時もここまで感情露わにしてなかった、気がする。

無理し続けたのは自覚しているし、二人に心配かけているのは熟知しているつもりだ。

が、米良先輩の様子からしてどうやらそれは俺の勘違いで、予想を上回るほど心身ともにがボロボロになっているらしい。

返答にためらう俺にしびれを切らした愛良先輩の口からトドメの一言。


「ちなみに思考放棄したら問答無用で閉じ込めます」


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