ストーカーと迎える朝って新鮮だな
「ま、……さま!」
「ん……?」
「孝充様ってば!」
「まぶしっ……」
「おはようございます孝充様! 朝食をお持ち致しましたの」
「ねみ……」
「昨夜はいつもより早くお眠りになられたのではございませんか?」
「視線めっちゃヤバくて無理」
「ご愁傷様です。とりあえず着替えましょう?」
「今は?」
「午前7時十分ほどですわ。今から支度が整えれば朝ごはんも余裕で取れますわ」
「7時……」
寝られない。というか深い寝つけが出来てない。
全身舐め回されるような感覚から逃れようと反射的に瞼が開いてしまうことを数回。
結局昨夜も4時近くまで動画アプリの世話になってからやっと眠りにつけられた。
この前まで使っていたものなんか映像が途切れ途切れでまともに動画も見れなかった。
さらに耐えられなかったのかバッテリーはあっという間に底つく始末であること。
おかげさまで近頃話題にあがる『ショート中毒』だっけ?
俗にいうアドレナリン漬けにならずに済んだ。
動画アプリの面白さにすらも気づけてなかったがお揃いにされたスマホ&ストーキングのコンビでその面白さが学べられた。
『動画漁ってたら寝落ちしてたw』って言ってた顔も覚えてないクラスメイトの気持ちがやっとわかった気がする。
愛良先輩に聞かせるやつが増えて嬉しいようなストーキングされて睡眠不足になってる現状が嘆かわしいような。
「お辛いでしょうけど顔洗ってきてください。朝食にいたしますわ」
「あーぃ……」
顔洗いと歯磨きだけ済ませては制服に着替える。
「テーブルも箸もないからなんも食えんぞ」
「くっ、床の上で食事させてしまうこの体たらく……」
「刺さるからやめて?」
ヒットされるのは俺ぞ? 侵入してきたお前じゃなく家主の俺だからな?
一緒に食卓囲えるような家族は今ここにいない。
なんなら囲む食卓が文字通り無いし一身の都合上こまめに朝食も取れない。
連日のバイトの疲れを癒すためには朝食抜いてまで寝るしかないのだ。
昼からの授業もおじゃんになるが、生きていくためには仕方ない。
テーブル、ましてや箸一膳備えとく心の余裕すらない俺に彼女の言葉はグサッとくるものがあった。
「バイトの余り物やタイミング次第閉店間際のお惣菜で腹ごしらえしていることぐらい伺っておりますわ
「そういうの込みで手ごろなおにぎりにしましたの」
「召し上がれ、孝充様♡」
「お、おう。ありがとう」
いただきますと両手を合わせ弁当箱の上に乗っているおにぎりにかぶりつく。
これは!?
「お口に合うのでしょうか?」
「こへ、うっまあひ!」
「えへへ。よかったぁ」
安堵の息とともに顔が綻ぶ彼女だが、あいにく気にしているほど余裕がない。
早朝からの炭水化物の集中砲火だ。いつぶりだこれは、全身に甘い痺れが走る……!
昨日は食事ごと抜いていたっけ?
すとんと胃袋に吸収されていくおにぎりのおかげで思い出せた。
「まだ時間はありますよ? ゆっくり召し上がってください♡」
「もぐもぐ」
室内に呼吸音と時々『仕方ありませんわね』と、頬っぺたについたご飯粒を取るためのハンカチの音だけがちまちま響くこと数分。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。いかがかしら? わたくしの朝食は」
「とっても美味しかった。毎日食いたいくらい」
「せっかく来てくれたのになんももてなせなくてごめんな」
「いえいえ、その言葉が耳にできただけでストーカーとして身に余る光栄ですわ」
「では学校に参りましょう」
「ああ。ありがとう」
玄関先で靴を履き、しっかり施錠してから学校へ。
「たまにはこういう朝も悪くないな」
「ですわね。ほんの少しだけ行動起こしただけで同じ景色がまったく違って見えますわ」
「不思議なもんだよな」
クスクスと笑い合い、いつもの待ち合わせポイントへ。
隣を歩くこの子に侵入されてよかったと思う自分がいた。
ストーカーに抱く感想としては間違ってる。
華生ちゃんが今朝起こしに来てくれていつもと違う朝日が迎えられた。
誰かの一緒に囲む朝飯なんて数年ぶりで、忙しい中あえて食事をする理由も思い出せた。
たったそれだけでとっても楽しい一日になれるって思っちまう。
「そうだ。しばらく登校道はわたくしがいただきますわ」
「ストーカーから通い妻はジョブチェンジできないんじゃね?」
「狙ってない!……ことはないですけど、心配ですもの」
「本音は?」
「登校中、つけられてる可能性もゼロではないでしょう? わたくしがいれば気休め程度にはなるかと」
どこか不器用で真っすぐな、言葉にすると純粋な狂気をはらむ恋。
裏がない分、暴走しちまうけどどれも相手を想っての行動、か。
隣に歩く純情ストーカー、華生ちゃんについて考えてたらいつの間にか待ち合わせポイントにたどり着く。
「あなたの一日に幸あらんことを。では孝充様、また放課後に」
「ああ、また後でな」
それぞれの学校へ向かい歩き出す。
学校にいる間は視線にさらされることはない。
つまり午後まではどこかに時間が取られているとみられる……のでは?
グルグル回り回る思考を吹き飛ばそうと両頬を叩いて喝を入れる。
「今日もがんばるぞー」
珍しく柄にもないセリフが口についた。
今日も頑張って授業乗り越えてみせますか!




