沼への影、再び
「やっぱり……なきゃ……」
「愛良先輩……?」
「毒姫姉様、まさか」
ピタッと立ち止まってまた何かブツブツ呟きだす愛良先輩に様子からして何か勘づいたらしき華生だけど、それ以上は敢えて口にしなかった。
タイプは違えど何か通じるところがあるのだろう。
「決めました。私達三人、帰宅部ということにしましょう」
「警察は直接的な被害が出ない限り動いてもらえないと見ていいでしょう。特に男の子である孝充君でしたらなおさら可能性は高いかと」
「掲示板に上がってたものって真実だったのか……」
ここ一週間ほど、それこそ睡眠が浅すぎたせいでネットに耽溺してることが多々あった。
愛良先輩と電話の終了後、視線のため寝付けずネットか動画の海を彷徨い続けていた。
その際うっかり自分の置かれた境遇に似た人がいるかいないか調べてみたくなるのも人間の本能というわけで。
動画サイトも掲示板サイトも『ストーカーされた 男』とワードいれて検索かけてみたら案の定、男性だと予測されるの十の中の九は『警察って案外頼りにならない』という口コミばかりでかなり驚いてたのが記憶に新しい。
「女性は比較的マシみたいですけど男の方はあしらわれがちです。ご両親がそうおっしゃってました」
「災難だったのですね、お姉様のご両親にもそのような過去が」
「お父様がお母様の好感度限凸させといた後に放置してたらしくてストーキングした挙句他の女性と歩いていたお父様をさらった話、いりますか?」
「こ、今度にして」
ヤダ怖い。
そんなご両親の実体験聞かされたら夜、マジで眠れなくなっちまう。
「寝落ち通話に依存しちゃう体質にはなりたくない~」
身の置かれた状況がどれほどヤバいか今の一言でハッキリわかった。
「わたくしは大ありですが……こほん。要はそれほど危ういんですよ? 今週からゆっくりガチャゲーとかに沼らせて金銭的にも頼らせるつもりでしたが……」
「ん? なんか言った?」
「いいえ、孝充君の部屋が現状最も危ないと」
「毒姫という呼び方に不服でも納得してる理由が垣間見えましたわ……」
「ふふっ?」
「ヒモっていいのかしら……」
「大和撫子の現代バージョンというのが私の見解です♪」
「絶対違うと思う」
華生ちゃんは“ヒモして何がいいのか”で、愛良先輩は“カモになる魅力”について言ってる。
違ってても現代の大和撫子はマジでない。
「そろそろお別れポイントですね」
「いつものゆったりした空気感が恋しい」
「かしこまりましたわ。たおやかな雰囲気になれるようこちらで用意いたします」
「そこは穏やかとかで合ってるかと」
出来の悪い妹でごめんなさいと愛良先輩がペコペコしてきた。
何が言いたいのかニュアンスでなんとなく察せるからそこまで謝らなくてもいいと思うけど……。
「普通に合流して普通に帰るだけだから」
「今日までの成り行きからすると確かに」
「ではまた明日、孝充君。華生はこっちでしょ? 行きますよ~」
「やめて、離して毒姫さまぁ! 耳千切れる~」
「はいはいエルフにしてあげましょう」
二人が見えなくなるまで見送ってから反対側へ。
いつもの帰路につく。
「今日は早めに出て来たからよかったけどなぁ」
ストーカーか。
一度くらいなら、と夢見たこともある。
愛良先輩にもさりげなく言ってた覚えがあるくらいには興味があった。
「華生ちゃんがあんまり気にならないのは純粋すぎるからか」
彼女はストーカーだけど何故かあっさりと許してしまった上に結果的には助長させる言動まで取っていた。
ザコザコ言ってくる割には行動がいちいちピュアだからか。
はたまた睡眠不足とかつけられる感じがして気になるとかではないのもあるのか。
眠たさが取れてないらしい、頭こんがらがってきた。
最初は愛良先輩が疑わしかったけど、よく考えてみるとあまりにも場当たり的思考だろう。
先輩に限ってそれはない気がする。
「なんで自然とそっちに繋いだんだろ」
疑問の波紋が浮く河内に肉声という石ころを投げ捨てても帰ってくることはない。
波紋か……。
「とりあえず、バイト終わったら聞いてみるか」
感情に引っ張られたままでも仕方ない。
見た目的に何も変わってない我が家へ向かい早めにバイト先に向かうことにした。




