純情ストーカーは本日よりボディーガードになりました
「今日は早いですね。えらいです!」
「RPGの最初の村にありそうな受付のセリフやめて」
「今日は私、お家に父と母しかいませんよ……?」
「やだ結婚されちゃう~」
「……ちっ」
「なんで急に舌打ちするんだよ」
「いえ、どうして二次元の主人公は皆年上なのかわからされまして」
「はあ……?」
「ごほん。この話題は後ほどじっくり話し合いましょう……?」
「はっ……」
「……ふふ」
「は、はしたないよ先輩~!」
「め・ら♡」
「愛良先輩」
「ちぇ~」
「で、ストーカーが二人であることとうちの学園のメス豚にどういうご関係が?」
「メス豚ではありませんわこの毒姫!?」
「まあまあ」
いつもの待ち合わせポイントである俺の学校と百合園学園の中間ポイントに毒姫ごと愛良先輩と一緒に華生ちゃんが姿を現した。
合流して早々、また間に入って二人まとめてなだめ始める。
「あのさ、愛良先輩」
「はーい。あなたの愛良先輩ですよ?」
男子の一度言われてみたいNo.5がここで来たかー!
時々怖いけど基本は優しいから破壊力がパなくて困る。
どういう顔すればいいかわかんねー。
「抱きしめますか? メスガ菌の浄化には効率倍増です」
「人をウィルス扱いしないでいただけます? たかみちさまぁぁ」
「わかったわかった」
鋭い眼つきの愛良先輩は敢えてスルーだスルー。
応じてくれないと話がまた進まなくなる、今だけは仕方ない。
後ろから握られた手を握り返しつつ、愛良先輩に話始めた。
「華生ちゃんが俺たちと一緒に帰りたいらしい」
「個人的にはちょっと思うところがありますが……」
「今朝、彼女に頼まれた」
「今朝。ですか、そうですか……ふふ」
「ひぃっ」
「愛良先輩が心配してくれるのは嬉しい」
「でも最後まで聞いてくれないか?」
「むっす~」
「今度、要求ひとつ飲んでもらいましょう」
「約束するよ」
「では、どうぞ」
すうっと一度深呼吸して今朝の出来事をひとつひとつ述べ始めた。
「実は昨日、仕事上がりに愛良先輩にルネしようとしたのが誤爆しちゃって」
「むっすー!」
「華生ちゃんに送っちゃったけどさ、今朝起きたら彼女が家にいたんだよ」
「……ふふっ。なるほど、そうですか」
「最後まで聞くまでもなく片方のストーカーはそちらの薄汚いメス犬だったということですね」
「脅されたのですか? それでしたら話が早い。今度は……」
「いや、純粋にお願いされた」
「はい……?」
「そ、その、毒姫姉様と孝充様がご一緒するのが羨ましくてたまりませんでしたのでずっとつけておりました」
「は、はあ……?」
「部屋に盗聴器と監視カメラ仕掛けて夜中眠っているお姿を拝借したりお姉様と電話してる様子見てわたくしに一切連絡してくださらなくて落ち込んだりしておりましたの」
「ストーカーが純情系……?」
最初のとげとげしさのある言葉遣いが色褪せ始め、徐々に困惑の色が滲む。
わかるぞ。未だ信じられないのは俺も同じだ。
「前回三人で食事した日から登校と下校、挙句は出勤するまで見守っておりましたの」
「ネバネバしてますけど純粋ですね……なんでしょうこれ、透明スライム系?」
「ダンジョンで荒んだ心の癒しポイントみたいな扱いか」
「私に執心してた時もまさか同様なことを?」
「いえ、惚れたのは孝充様だけですの」
「そうですか……」
「けど残念ですね。敵わない恋に手を染めるなんて」
「叶えて見せますわ。わたくし、生涯の伴侶なんて一人で十分ですもの」
「奇遇ですね、私も一人以外論外ですので」
初めてまともな会話が聞こえた気がするというのが素直な感想。
俺が蹴り飛ばされて以来、三人で顔合わせするのが初めてということももちろんあるけど、ゲームで例えるなら愛良先輩のキレ差分と怯え切った華生ちゃんの顔差分しかなかったからな。
実際やったことないから詳しくはないけどこれで合ってるだろう、たぶん。
「寝顔は共有してもらえますか?」
「三人でする前提でしたらいけますわ」
「おーい、せめて本人ないとこでしてくれ~」
たしなめるとはっと同時に顔をあげる二人。
元々仲良しだったからだろう。
ぴたりとパズルがハマった感に満たされてなぜかほっとする。
愛良先輩の同意も得たし、本題に進めるか。
「ここからが本題だ」
「はい」
「前に視線を感じて寝れないとか言ったことあるだろ?」
「華生ではないんですか?」
「わたくしは真夜中につけたことなど一回か二回程度ですの」
「それに寝顔なんてお家からいくらでも拝められますの。わざわざリスク犯してまで見に行く意味がありませんわ」
「現物のみたさという可能性もあるでしょう?」
「現物の前でしたら思わず抱きしめてしまいますわ」
「えいっ」
「なんで急に抱き着くんだ?!」
「実演しただけですよ? にししっ」
「きょ、今日は我慢して差し上げましょう……」
「朝はわたくしがいただきますわ♡」
「ちっ」
悔しそうに毒づく愛良先輩と満たされた感が帯びた顔になる華生ちゃんに説明の続きのためごほんと咳ばらいをひとつ入れて続ける。
「要はストーカーがもう一匹いる。それでしたら話は早いじゃないですか」
「監視カメラの映像、確認すればいいのでは?」
「それが……」
そこで語尾があやふやになってしゅんとなる俺の公認ストーカーごと華生ちゃん。
彼女曰く、真っ先に確認してみたもののどうやら捉えられてないらしい。
俺が妙な視線を感じたって言った日に限ってピンボケがやたら激しい上、盗聴器の調子も悪くなっていた。
「念のためもう一度確認しますけど」
「ああ」
「視線を感じたのは主に真夜中の帰り道と寝付く間際で合ってますか?」
「正確にはウチ帰って来てからずっとだ」
「となると……」
「これはあくまで推察ですけど」
「元々部屋に盗聴器と監視カメラがあったのではないですか?」
一番考えたくない可能性が華生ちゃんの言葉により水面に浮上する。
ありえないと捉えていた。
なんならどうか外れてって自意識過剰気味に願っていたくらいだ。
「元々つけられていましたが、わたくしの愛の深さ故に偶然水面に上がったんですね」
「認めたくはないですが華生のストーキング化が功を奏したことになります」
心底不服ですけど。と、被害者の俺より悔しそうに下唇まで噛んでいる。
元々つけられていたけど気づけるすべが皆無だったので気がつかなかった。
期間と動機なんてさっぱり。そこはマジで予想の域を越えられない。
が、そこで華生ちゃんが立てた仮説によると家のどこかに仕込まれていた盗聴器と華生ちゃんが仕込んだ盗聴器の周波数同士がぶつかり合い、違和感としか言えない何かが生み出された。
よって神経過敏となり睡眠不足に陥ってはつけられていたことに気がついた。
禍福は糾える縄の如しとはまさにこのことか。
寝つけられなくて適当にネットの辞書漁ってたら偶然見つかった言葉がそのまま転じるとは。




