ストーカーとわるぅになっちゃいましょ~孝充様ぁ
―ち。
「うん……」
―っちってば。
「ん……?」
―てよ、たかっち。
「たかっち……?」
「起きて、お兄ちゃん」
「……っ!?」
「夢か……」
「ちくしょ」
布団から飛び起きて、反射的に当たりを見渡す。
いつもの何もない四畳半だ。
布団一式と充電器しかない俺の部屋。
「ふーはー」
「くっそねみー……」
「お疲れだったみたいね。学園はお休みになられた方がいいんじゃないかしら?」
「そうしたいのは山々だけどさ……卒業はしたいんだよ」
「勉強の面倒なら見て差し上げますわ。これでもわたくし、一年生のトップですのよ?」
「勉強が上手いのと人に教えるのはジャンル分けされるらしいぞ。ってスマホ何処だ」
「こちらに。耳元でザ~コ♡ザ~コ♡って囁くと何故か皆、上達してたのはなぜかしら」
「ちなみに全員女子だったので誤解しないでちょうだい」
「メスガキが同性にまで通じるのか? しかし残念ながら俺は褒めて伸びるタイプだ。ザコザコ療法は効かないぞ」
「てんさ~い、毎日仕事も頑張れてぇ、えらい、えら~い♡」
「ちょっかいかけんなっ!?」
「……は!!!??」
「わたくしが言うのもあれですが、気づくの遅すぎるのでは……?」
「ごもっともだな、どうやって入ってきた」
「まさか……」
鍵穴にちょこっといたずらして入ったのか……?
「開いてましたので勝手に入りましたの」
「不用心が過ぎますわよ孝充様。ちなみに着替えさせて布団に寝かせたのもわたくしですのよ? 大変だったわ、殿方一人を運ぶってかなり力いりますね」
ムフフっと口元に手を宛がいいかにも“お嬢様”感丸出しのメスガキごと桐生華生が枕元に鎮座していた。
「わっ!?」
「今日はわたくしとぉワルになっちゃいましょー!」
突然布団の中に引きずり込まれて、ぎゅっと抱きしめられた。
まるでそれは、逃がさないと言わんばかりの行動に近い抱擁。
「他の女の子の名を呼んでくるなんて、イケナイ人」
「くっ……」
後ろから抱きしめられたまま片手で器用にスマホを操作した華生ちゃんがある画面を見せてきた。
「しかも毒姫様の名前って傷つきますわ」
「これは……!」
画面に浮かんでるのは明日一緒に帰れそうにないという旨のメッセージだ。
愛良先輩に送ろうとしたものだけだ。
寝落ち寸前。いやほぼ寝てる当然の状態で誤爆しちゃったのか?
「ごめん。わざとじゃ……」
「水に流しますわ。見てましたのでおおよそ予測はつきます」
「今日は一緒にサボっちゃいましょぉ? 疲れた時はぁ、JKの腕の中で長期休暇しちゃうのよ~」
吊り橋効果とかなんとかといえど告ってきた相手だ。
しっかり返事したとはいえ他の女のひ……え?
マテ。
「今なんて言った?」
「JKの腕の中ひいてはお嬢様のわたくしの腕の中が一番と」
「その前の」
「水に流すと言いましたわ」
「その後だっけ? 見てた、みたいなこと言ってたような……?」
あれ? そういえば……。
俺はこの子に、住所教えたことなんかないような……
「ああ。気づいちゃいましたか」
「……!?」
「イケないじゃないですか孝充様ぁ? 一目ぼれさせておいた挙句放置だなんて」
「まともなお嬢様がぁ」
「ストーカーになちゃいますわぁ♡」
ぞくりと内側から鼓動が跳ねあがる。
鼓動が耳元から聞こえては嫌な汗がダラダラ流れようとして熱いはずなのに寒く感じる妙な状態に陥る。
「んふふ♡つっかまえた~!」
「っ……!」
「ねえ孝充様ぁ」
「な、なんでしょ……?」
「敬語はつれないですわぁ」
「ザコザコお兄ちゃんかと思ったらわたくしを救っていただいたあげく放置した王子様にそんな言われ方されると傷ついて泣いちゃいそうですわぁ」
「今まで通りで。お願いしますわ♪」
「わ、わかった」
ちなみに女性免疫は皆無に近い。
消し飛ばしたい過去のいざこざを除いたら周りにいる女の子は愛良先輩と背中で抱きしめている彼女くらいだ。
耳元で囁かれて脳がとろけそうな状態のはずなのに冷や汗が止まらない。
背中に感じるこいつが連日睡眠不足の元凶なのか?
好きって理由でストーカーする連中はまともじゃないと噂でよく聞く。
何されるかわからない状態だ。
「ふぅ~」
「くっ……!」
本当だ、息吹きかけてきやがったか!
「緊張解かしてあげようと思ったのですが逆効果かしら」
「す、ストーカーなんだろ?」
「ですわね。大体は把握しましたの」
「わたくしのお願い、聞いてくれますのね? た・か・み・ち・さ・まぁ♪」
「こういうワザどこで仕入れたんだっ」
「そうですね、あえて言わせていただきますと……」
「あなたが数日前、安眠するため閲覧した動画で。かしらね」
「……!!」
「お願いの案ですが」
「わたくしも放課後の仲間に入れてください♡」
「くっ、殺せ……! 身体は許しても心に決めた人が……って」
「それにした方がよかったんですの? んふっふっふ」
「言っときますけどわたくし、つけたり監視カメラ仕込んだりはしてましたけどさすがに夜はカメラ越しで見てましたのよ?」
「立派な犯罪やんけ」
慌てた様子でさらに罪状述べてきた学年一位らしいお嬢様。
ストーカーしている自覚がある。つまり、後ろめたさがなくはない……のか?
これが本当なら人間慌てるとぼろが出るってマジみたいだな。
ルネアプリのたまたま無料で出てきた自称リアリズムマンガでそんなシーンがあって『ヤラセだろつまんねーな』って愚痴っててごめんなさい作者さん。
「でもわたくしはお姉様ほどドロッとはしてませんわ? ネバネバしてる自覚はしておりますが」
「ニュアンスが違うだけでどっちも絡み取られたら終わりだろ」
どうしてそこで愛良先輩が出てくるんだろ?
何言ってんのか理解にちと苦しむぞ。
それにどうして俺はストーカーとこんなのんきに会話してんだろう?
「とにかく、わたくしも帰宅の仲間に入れてください!」
「いや、脅迫しているわりに要求が地味すぎて反応に困る」
「脅迫などしたことありませんわ」
「え……?」
「え?」
「ストーカーからお願いするって変なのかしら?」
「うん、めっちゃ変。なんならどうしてキミの中でお願いになってるのか聞きたいくらい」
心証ではなく勝手に自白した内容はどこからどう見てもストーカーそのものだ。
しかも創作であるあるな機械系に強いタイプの。
住所も特定されているし先ほどの言動から察するに大まかな事情は把握済みとみていいだろう。
ストーカーは大なり小なり思い込みが行動のきっかけだと聞く。
今し方自分のやった行動の元、お願いするのが脅迫って自覚がないのか?
という俺の思い込みに近い思考も彼女の次の言葉によって見事破られた。
「だって、嫌われたくないんですもん」
「は?」
「あの野蛮な毒姫姉様に殴られたくないのもありますわ」
「けど一番はあなた様に嫌われたくないんですもん……」
「え?」
この子何言ってんの?
畳みかかる現実の理不尽さに遂に脳か耳が抗議してるのか?
「だって、気配消してストーキングして住所特定してカメラと盗聴器仕込んでも、少々ずるして過去調べても、孝充様と一緒に帰って時間重ねないと意味がありませんもの」
「たった今並べたヤバい行為は元に脅迫したら一発で叶ったんじゃないか?」
「好きな人脅迫して手に入れて、それにどんな意味がありますの?」
「じゃ、じゃあ、一緒に帰って欲しいって言ってるのは脅迫じゃない……?」
「ええ。後ろから抱きしめて丁寧にお願いしているではありませんの」
「おまけに脅迫は立派な犯罪行為ですわ」
「ストーカーも犯罪行為だよ? 既にアウトだぞ?」
「好きな人の姿は四六時中目に留めて置きたいものですよ?」
「えぇ……」
暴論が過ぎる……。
もしかしなくてもこの子、ストーカーって何かしらの称号って思ってるんじゃ……。




