メスガキお嬢様って微妙の極み
「オマタセシマシタ! ユックリクツロイデネ」
「あら、可愛いロボットさんですね」
オーダーしていたメニューがタイミング悪く到着したものの気にする必要はなさそうだ。
店員ではなく可愛いネコ口のイラストがヘッド部分のモニターに浮かんだロボットが品物を運んでくる。
話の最中、唐突に運ばされたらなんとも言えない空気になりがちだ。
特にカフェのような話に花を咲かせるのがメインとなる場所では打ち切られたことが不快に思い、そのせいでクレームに繋がることもしばしばあると聞く。しかしロボットは逆にきっかけにもつなげられる。
ロボットの持ってきたトレイからひとつずつテーブルに乗せていく愛良先輩。
単純な仕草ひとつひとつに品の良さが伺える、正真正銘のお嬢様だ。
俺の前にコーヒーと愛良先輩おすすめのプリン。
華生ちゃんの前には生クリームの上にメープルシロップのダブルパンチが効いたパンケーキとアールグレイティー。
愛良先輩の前には件の巨大パンケーキと俺と同じブラックコーヒーがおかれた。
「デカいな……」
「実物はさすがにインパクトがありますね」
先ほどの仄暗さはどこへやら、すっかり上機嫌な猫なで声になった。
口実とかではなくマジで食べてみたかったらしい。
「写真、取らなくていいの?」
「はい。今度にしようかなと」
「ふ~ん」
適当に相づちひとつ飛ばして写真撮りに集中する。
パシャリ。
「どうですか? カメラの性能は気に入りました?」
「ヤバいぞ愛良先輩」
「え、どうしました? もしや不具合が……」
「いや、そうじゃない」
「画質がヤバい……食べ物ってわかるレベルだ」
「満足したみたいでなによりです」
ふうっと息を漏らして胸を撫でおろす。
おおよそ俺の態度で心配になったみたいだが、悪いとは思うけど仕方ないんだよこれが。
つい数日前まで使っていたスマホでは写真が撮れなかった。
いつ頃からか知らんけどカメラセンサー辺りが壊れたみたいで写真撮ると心霊写真っぽくなってた。
血液流れるタイプの呪怨系?みたいな感じの不気味なやつ。
しかも近頃はアプリの様々なシステムの導入による容量の増加傾向も相まって、基本アプリでも数個入れると容量が底をついちまうから綺麗だと思ったものもろくに撮れなかった。
容量的に撮れない悲しさに撮ったら特急呪物という即死の二択。
だが今は容量もバッチリで綺麗に映り込む。
SNSやってたなら絶対タグ付け定期アップするレベルの映えっぷりだ。(俺目線)
だから今むちゃくちゃ嬉しい。
「そうだ。これも一口食べてみますか?」
「え、いいの?」
「恥ずかしいですけど……」
「?」
「ま、まあ。これから死ぬほどやりますから問題ありませんよね、そうですよね」
またなんか呟いて勝手に納得してるけどあれ大丈夫なのか?
ここ最近、ブツブツ言う頻度増えたような……。
「は、はい。あーん」
「あーん」
「!!?!?!?」
「ん、むっちゃ美味い。これも食べて見るか?」
「いいですね、あーん」
「もぐもぐ。んぐ、相変わらずプリントは思えないさっぱりした口当たりで美味しいですー。ささ、私の奢りですので遠慮なく食べてください」
「もぐっ。ん、確かに見た目によらない口当たりだ」
「不思議ですよねー味だってシロップかけられてて一見甘すぎてばえ狙いかと思われますがそれがまた……」
「ちょ、ちょっと! なにしてますの!?」
「あら、いたんですか?」
「あーんなんかして……わたくしの王子様がいるところがわたくしの居場所ですの」
グイっと腕を抱かれたので逃れようと隅の方に移動。
「ああんつれない、けどそれも燃えるものですわ」
「孝充君にメスガキが移ったら大変ですよ? 席替えましょ? ほら離れた離れた」
「やーですわ! 王子様ぁ、スキィ、付き合ってぇ♡」
「メスガキムーブの告白か?」
うわ、ないわー。
メスガキお嬢様もかなり微妙なラインイってると思ったけどこれはもっとない。
しかも唐突すぎるのでときめくどころか困惑の感情しか浮かばない。
先入観のせいかな?
「これが噂の吊り橋効果なのでしょうか……」
「だろうね。ってかさ、食べづらいからせめて食べてからにしてくれない?」
「抱き着いて食べたいですわ。ふらっとどっか行っちゃいそうで怖いんですもの」
「やたら感のいいところがさらに厄介です」
「毒姫様にお褒め頂き恐縮ですわ。わたくしたちこれからデートですので帰っていただけません?」
「っふふ」
「ひぅ……」
「なんですぐ煽ってビビるんだよ……」
学習能力ないのか疑ってしまう。
いや、それはないか。
ゼロではないだろうけど……メスガキの本能?のようなやつか?
「そ、そういえば先ほどから気になっておりましたけれど」
「ん?」
「先ほど携帯ショップから出てくるところを目撃致しまして、お姉様がさらわれたかのような走り方でしたので追いかけて来ました」
コロコロ変わる会話の数々の中、華生ちゃんが違和感の正体について話してくれた。
そうか、さっき十字路で聞こえた明らかに違った反応の声。
突然現れたと思ってたけど、どうやらたまたまその場にこの子が居合わせていたらしい。
ドロップキック食らった直後の百合百合しい発言のせいでストーキングしてるヤバいやつなのではと思ってたけど、俺の思い込みだったみたいだ。
「それに先ほどお姉様の『スマホはいかがですか?』発言、もしや……」
「まさかとはお姉様からプレゼントというていで脛を……」
「ねえ、華生」
「は、はひっ」
「あなたには関係ありますか?」
「っ……」
「私が送りたいと思いプレゼントした。それにあなたに首突っ込まれる筋合いがどこにおありで?」
「それにひと様の事情に土足で踏み込もうとする真似、不躾がすぎるって」
「知ってますよね?」
「躾がもうちょっといりますか?」
「ひっ、ご、ごめん……なさい」
「ふ、ふたりが羨ましくて、調子乗りました……あわよくばを、狙ってご˝め˝ん˝な˝さ˝い˝ぃぃ」
「まあまあ、お姉様が心配だった可愛い妹の気づかいだろ?」
「ひっぐ……怖かったですわ。慰めて」
「はいはい」
「ちっ」
面白くなさそうにやけ気味に一口大に切って頬張る愛良先輩。
それすら品があるように見える。
俺の帰宅友達はほんとすごいな。と心の底から感心した。
一方の華生ちゃんはメスガキ定番が炸裂中だ。
事実は時として一番人をえぐる武器となる。
華生ちゃんはただ心配性からの行動だろうけど、それが俺の事情に踏み込むことになると気を遣った愛良先輩に冷たく言い放たれた。
結果的にはダメダメだけど、不器用ながらも気遣いができる例なのだろう。
抱き着いてきた華生ちゃんの頭をそっと撫でてあげる。
「ごちそうさまでした。いい加減、手も止めてください」
「はいっ」
「もう少しだけ時間もらえますか?」
「んーもう少しはきつそう」
「そうですか……やはり……」
「?」
「たまに学校でもお姉様がブツブツ言ってたりしてましたけどそういうことでしたの」
「何かに気がついたのか?」
「これ以上口にしたら本当に殺されますわ。そうだ孝充様」
「なに?」
「連絡先、教えていただけますか?」
「いいの?」
「ドロップキック食らわせた挙句調子乗ってごめんなさいどうかお願いしますぅぅぅ」
「いやそういう意味じゃないから泣かない縋りつかない。はいこれルネ」
「あっ……」
「ありがとうございます……はぁ……♡」
「むっすーなんでしょうこの言いようのない不安は」
「奇遇だな。俺もなんかゾッとしてる」
隣でスマホ見つめたままうっとりしている華生ちゃんを見て同じ感想が浮かぶ俺たち。
俺のバイトの都合上、この日はいったんお開きとなった。
なんだかんだ友達(?)が増えた喜びを胸にバイト先へと急ぐ。
だが、この時の俺は決してわからないだろう。
この一連の流れが後ほど壮大な物語の伏線になっていたことを。




