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「寒っ……ん?」


 目を覚ますと知らない場所にいた。


 辺りはビルに囲まれていて、そのどれもがツタや苔に覆われている。停まっている車も傷と錆だらけで、窓はフロントガラスなども含め、ほとんど割れてしまっていた。

 

 目につくものがすべてが荒廃しており、とても人がいるとは思えない。人類が丸ごと滅んだような……まるで世紀末だ。


 ――いや、実際世紀末だ。


 自分が知らないうちに世界は終わってしまったのだろうか?

 

 今の状況を整理してみる……

 まず目を覚ましたらなぜか知らない場所にいて、そこは何もかもが荒廃していた。


 さらに、全身どこを探しても携帯が見つからない、なので当然ここがどこか調べられない。もしもの事があっても助けを呼べないだろう。


 それに加え、寝起きだからかのどが渇いている――そこそこの非常事態だ


 最期の希望にかけて頬をつねってみる、その希望はあっけなく砕かれ、痛みだけが残った。


 現在の装備は生地の薄いパーカー、その上に羽織ったカーディガンにジャージのズボン、コンビニの靴下と誕生日に友達からもらった靴、そして切るのを怠った髪を縛っているヘアゴム――のみ。

 ちなみにほとんど黒色で統一されている。


 記憶を遡っても最後の記憶は飯とゲームを繰り返した後にベッドに入る所で終わっている。まぁ要するに寝て起きたらここにいた――ということらしい。


 ――なるほど。

 

 整理してわかったのは何気ない日々を過ごしていた自分が、突如として窮地に立たされたという事実のみ。

 

 じゃあ次に行こう。――改めて、ここはどこだろう? 少し歩きながら、当たりを散策し始める。


 見渡す限り、廃墟と草、そんな光景が果てし無く続いている。当然のことながらこんな場所知らない。よく知らないが、多分そこそこの都会、50m~70mほどの高さのビルが多く並んでいて100mを越えている物もぽつぽつと見受けられる。

 というより他の100m越えの建物はほとんど倒壊してしまっているようだ。ドミノのように別のビルを巻き込んで瓦礫の山と化している。

 そしてそれを覆うとんでもない量の苔とツル――ではなくもはや木。道路や壁は亀裂が走り、雨水等によるものか、錆が目立つ。


 数百年から数千年はかからないと作れない光景じゃないだろうか。

 ――いや、数千年は言い過ぎか、さすがにそれだけあれば原型がなくなるまで文明を破壊できるはずだ。


 建物の寿命は確か50~60年と聞いたことがある。いや…鉄筋コンクリートのビルなら100年くらい以上持つとも……

 まぁだとしても寿命を迎えた瞬間、即倒壊なんてことは起きないか。


 なら考えられるのは地震や、その他自然災害、ここの建造物が現代と同じレベルだとすれば数棟ならまだしもこの数のビルが1度の地震でここまで壊されることはないはずだ。

 何度も巨大地震が起きたか、老朽化で長い時間をかけてここまで滅びたか。

 ここは間を取ってある程度老朽化が進んだ所を巨大地震が襲ったということにしておこう。


 それによってこの景色が作られた……


 ――500年と言われても1000年と言われても納得できる。――だがそんな昔に車や自販機なんてものないだろう。アイディアならまだしも原型……形となっているはずがないのだ。


 ならこの場所はなんだ? この場所が現代に存在している理由は?


 いや、逆なのかもしれない。むしろ自分がいるはずのない場所に存在しているのではないだろうか。

 これは未知の文明ではなく、よく知っている、既知の――自分が本来いるべき時代の物、だとしたら――。


「えー……? タイムスリップした?」


 今の所、そう考えるのが妥当だろう。教養に関しては怪しい部分があるが、一般的な知識はある程度身につけられているはずだ。この規模の廃墟、世界遺産に登録されていてもおかしくない。だが自分はここを知らない。

 

 恐らくあの時代にはなかったのだろう。


 結論としては、原因は不明だが家で寝ていたところなぜか未来、それも人類が滅んだ後の時代に飛ばされてしまったという事か。


 ――いやまぁ、それだとなぜ靴を履いて髪も縛っているのかという疑問も出てくるが……


 今はタイムスリップということにしておこう。『寝て起きてここにいた』というのも自分が思ってるだけで記憶に抜け落ちているところがあるかもしれない。


 よし、状況は理解できた。次は何をすべきか考えよう。


 第一目標は――人だ、人に会う。


 世紀末といってもパンクな髪型の連中が出て来そうな雰囲気ではない。地球が本来の姿を取り戻そうとしている捉えようによっては理想の姿。そんな場所に奴らのような荒くれた連中がいる可能性は低い。

 もしかしたら残りの人類で集まって生活しているかもしれない、その場合は盛大な歓迎も期待できる。


 だが、もちろん自分が最後の人類という可能性もある、その場合は……その場合はどうしようもないので静かにくたばるしかないだろう。


 ……不安になってきた。


 ――とにかく、探すのなら早い方がいいだろう。電気一つないこんな場所によるが来たら、恐らく今まで経験した中でもっとも暗い夜になる。ただ、きっと星はきれいに見えるのだろう。


 星――あぁそうだ、高所から探してみよう。もし集団でコロニーか何かを作っているのなら遠くから見えるはずだ。


――しかし、そううまくはいかなかった。


 何棟かビル中に入って確認したが、階段や床が崩落していたり、植物に塞がれていたりと、屋上まで行けそうにない、というより行きたくない、知らない色をした水と知らない虫だらけだからだ。


 なるべく状態が良く、見渡しのいい建物が理想。なかったら最悪、高さはなくとも状態の良いところを住居として使うことになるだろう。そこで一人でサバイバル、それだけは避けなくては。


 そんなことを考えながら少し歩みを早め進んだ。ある程度まっすぐ進んだ後に、月当たりの角を曲がった。その時、それは突然現れた。


「え……」


 思わず声が漏れそのままフリーズしてしまった。

 目に映ったそれは、約20m先、ここにきてからから幾度となく見てきたただの廃ビル、それにまとわりつく、幾本もの針金のような何か。

 ビルの高さは30mほどで、それを針金が根を張るように覆っている。自分の時代、いや、どの時代にもなかったであろう異様な光景。


 開いた口を塞ぎきるのと同時に、そのビルの前に立つ、よく見ると外から覆っているのではなく、中から出てきているような――


「あ、動いた。」


 動いた


 恐る恐る、1m程まで近づいて再度確認するがやはり動いている。その動きは針金らしくない、カクカクとした、関節があるかのような動き。

 どうやら一本一本、針金のサイズは異なるようだ。最小で髪の毛程度、最大で携帯の充電ケーブル程の大きさと、少しばらつきがある。


 一応……人工物? ではあるのだろうが、何を目的として造られたのかは検討もつかない、しかしこれで一つ分かった。これがあるということは、これを造った人間もいるということ、こんな世紀末になっても人類はしぶとく生き残ったようだ。


 というか、ビルの高さと窓の数を見るに恐らく7階建て。全ての窓から針金が出ているところを見るに、これ、かなりの質量なんじゃないだろうか。

 今までのビルであれば崩壊していてもおかしくない、これを作った人間が管理していたのか――ともかく、ここならいけるかもしれない、高さ的に辺りを一望できるかは怪しいが……


 扉はガラス、自動ドアでできていたようだが、そこに関しては他のビルと同じく、バリバリに割れている。中は薄暗く、少し先に階段が見える。そして床、壁、天井に至るまで全て針金に覆われている。


 かなり異様で不気味な光景ではある。それにこれだけの針金、いや……なぜか動くし、本当に針金なのか定かではないが、どうやってこれだけ集めてきたのだろう。そう思い、地面に張られた針金を数本拾い上げた。


 ――その時だった。


 触れるれた針金5本の動きが止まり、一瞬波打つように揺れたかと思うと、とてつもないスピードでビルの中へと入っていった。というより、戻っていった。

 数秒後――上階、おそらく7階の若干右の部屋から、甲高く、金属同士が激しくぶつかるような音が同時に5回響いた。


「おぉ……!?」


 触れていない針金に変化はない、触れた針金のみが、引き込まれるかのように戻っていったのだ。本来であればこの光景を見て、中へ入ろうとは思わない。音はかなり大きかった。もしあれが体に当たれば金属製の鞭で打たれるようなものだろう。

 しかし、あまりにも興味深い未知が、好奇心を増長させ、警戒心を殺した。


「いってみるか!」

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