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第九話 ステータス・オープン

 

「……オレの武器の詳細?」


「そうだ。簡単に言えば、君を選んだ武器の能力を知りたい。本当にただの棒っきれなのか……オレにはBランクパーティーにケルベロス討伐を成功させるほどの男が、戦えない武器に選ばれるとは思えないのだ」


 ギルド長はどうやら、オレの武器が()()()()()()()()知りたいようだ。

 “銀の竜巻”リーダー格のアレックスが割って入る。


「ギルド長、知っての通りハヤトは記憶喪失だし、この世界の常識がほとんど記憶から抜けちまっている。抽象的な質問ではハヤトは答えられないだろう。武器について説明してやった方がいいと思うぜ」


「……お前の言う通りだな。よかろう、武器についても説明をしてやる」


 そう言ってギルド長はこの世界の武器について教えてくれた。

 武器の強さや能力は、大きく分けて4つの要素で分析されるそうだ。


 ①属性

 ②固有能力

 ③スキル

 ④特性


 “属性”は以前説明してもらった通り、その武器が持つ魔法特性。

 光や闇、火、水、風、雷、土などの基本属性が存在し、一部これらの基本属性に当てはまらない特殊な属性も存在するらしい。

 ”火”なら火炎をまとって攻撃したり、”雷”なら電撃を飛ばしたり、武器は各属性を活かした攻撃を繰り出すことができる。

 3つの属性を操るケルベロスは特殊な魔物で、基本は各武器や魔物が持つ属性は1つ。

 また、オレのように魔法属性のない“無”も存在するが、特色のない“外れ属性”とされている。


 “固有能力”は端的に言えば、“その武器でできることは何か?”をひと言で表したもの。

 例えば、剣なら「敵を突いたり、切ったりして攻撃する」、銃なら「引き金を引き、魔法の弾丸を発射して攻撃する」といった具合の説明文で、使用方法が分からない武器は()()()()()()()()()()()のが慣例になっているそうだ。


 “スキル”は武器に備わっている特殊能力。

 スキルを行使すれば、武器の属性に応じて、様々な必殺技や魔法を実行できる。

 ただし、スキルを使うには使用者の魔力が必要で、強力なスキルほど膨大な魔力が必要になるケースが多いらしい。


 “特性”は、武器を保持している限り()()()()()()()()()()()

 例えば、「保有者の攻撃力を上昇させる」等、本人の意志に関係なく、常に効果を発揮するものだ。

 中には“呪われた武器”も存在し、「保有者を凶暴にする」等のやっかいな特性も存在するらしい。

 人間が武器を選べる訳ではないので、マイナスな特性の武器に選ばれても、上手く付き合っていくしかないそうだ。


 そして武器は、”レベル”と呼ばれる習熟度に応じて攻撃力や防御力といったパラメーターが上昇。

 さらに、新しいスキルや特性も解放されていくらしい。

 鍛えれば鍛えるほど、武器とその保有者は成長していくのだ。


「……誰か試しに武器のステータスを見せてやってくれないか?」


 ギルド長はオレの後方にいた“銀の竜巻”のメンバーを見る。

 すると、アレックスが申し訳なさそうに口を開いた。


「ギルド長、それはさすがに勘弁してもらえませんか? 知っての通り、武器の情報は大事な個人情報。敵にバレたら、上手く利用して殺されてしまうかもしれない。よっぽど信用した人間にしか開示できませんよ。ハヤトを信用していないわけじゃないんだけど……」


 重たい空気が漂う。

 アレックスの言う通り、敵に武器の情報がバレて、弱点をつかれたらお終いだ。

 この世界はオレが元居た世界よりも()()()()

 そのため、誰もが情報の開示には慎重になっているのだろう。


「……私、お見せしますよ!」


 エミリーが突然口を開いた。

 その言葉に驚く他のメンバーを気にも留めず、彼女は続けた。


「ハヤトさんがいなかったら死んでいたと思いますし、この子(フルート)は戦い向きでないので問題ありません」


「そうか……それならエミリーが手本を見せてやってくれ」


「はい! “ステータス オープン”」


 エミリーが武器(フルート)を机に置いてそうつぶやくと、武器の情報が空中に投影される。


「選択。“属性”、“固有能力”、“スキル”、“特性”」


 すると、投影されている情報が整理され、4つの項目だけに絞られた。


「ハヤトさん、ご覧ください」


 ■属性:無

 ■固有能力:

  フルート…演奏で支援する

 ■スキル:

  精霊の踊り(小)…対象の速度を上昇させる

  聖なる響き(小)…対象を回復させる

  女神の加護(小)…対象の防御力を上昇させる

  光の賛歌(小)…対象の攻撃力を上昇させる

 ■特性:無


「……弱いように見えるけど、楽器にしては珍しく、戦い向きの固有能力とスキルなの」


 女剣士・アリスがオレに補足してくれる。


「楽器の固有能力と言えば“大きな音を出す”とか“綺麗な音色を奏でる”とかふさげたものばっかりよ。スキルや特性も無い場合が多いの。戦えないからレベルも上がらないし。エミリーは本当にレアケースなのよ」


「“銀の竜巻”は前衛がオレとアリスの2人、盾役がブロック1人の3人パーティーだったんだ。ちょうど支援役が欲しかったので、ギルドに応募を出していたらエミリーを推薦されたのさ」


「武器が楽器だと伝えると、誰もパーティーに入れてくれなくて……こんな私を仲間に入れてくれた“銀の竜巻”のみなさんには本当に感謝しているんです」


 “銀の竜巻”はエミリーにとってようやく見つけた居場所だったのだろう。

 エミリーの言葉から、彼らへの感謝の思いが伝わってきた。


「次はハヤトの番だな。ハヤトの武器について教えてくれるか?」


 ギルド長が話を本題に戻す。


「ステータスを見せる前に、オレの話を聞いてもらっていいか?」


「……なんだ?」


「オレはこの棒の正体を知っている」


「なんだと!?」


 ギルド長が身を乗り出す。後方にいた“銀の竜巻”のメンバーもオレを囲んだ。


「これはただの棒ではない。“指揮棒”というんだ」


 そう。オレは初めから分かっていた。

 右手にフィットする感覚。

 少し膨らんだ取っ手と、しなやかで洗練された切っ先。

 元居た世界でのオレの相棒。


 オレを選んだ武器は“指揮棒”で間違いなかった。


「……指揮棒? それは何につかうんだ?」


 ──オーケストラで指揮者が使用する棒


 そう説明できればどれだけ楽だろうか。

 しかし、すでに判明していることだが、この世界は音楽が未発達だ。

 楽器を重奏する(アンサンブル)文化すらない音楽未開の世界。

 元居た世界の知識を披露するのはできるだけ避けたい。


「……エミリーたちは体感しただろう? オレが腕を振りながら皆に指示を出すのを。指揮棒はそれを強化するアイテムさ。これがあれば遠くからでも、オレの意図がしっかりと伝わるんだ」


「そうなのか?」


 ギルド長がエミリーに尋ねる。


「はい。ハヤトさんが腕をこんな風に振ると、言葉はないのに、なぜかハヤトさんの指示がすっと頭に入ってくるんです!」


 エミリーが懸命に腕を振りながら説明するが、ギルド長には伝わらない。


「なぜ腕を振る必要があるんだ? それに何の意味がある?」


「え、えっと……」


 エミリーが言い淀む。

 どうやって説明したらいいのか分からなくなってしまったようだ。


「正しいか分からないけれど……」


 オレとエミリーが上手く説明できずにいると、アリスが助け舟を出してくれた。


「戦場で言葉を使ったら、敵にも聞かれるでしょ? それにケルベロスとの戦闘では、エミリーと私たちは叫んでも言葉が届かないくらい位置が離れている局面もあった。そこでもハヤトが間で指揮をしてくれることで、お互いの考えを統一できたの。あんな感覚は初めてだったわ」


「なるほど、敵に考えを読まれないのは重要だな。人の言葉を喋る魔物もいるというし、戦場で言葉なく意志を統一できるのは大きい」


「戦場でアタシたちにやった“指揮”を、強化するアイテムってことでしょ? その指揮棒は」


 やっぱりアリスは聡い。

 オレでも難しい言語化をいとも簡単にしてしまう。


「ありがとうアリス、その通りだよ」


 オレはアリスに礼を言ってから、ギルド長に向き直った。


「だからこの武器はあくまでオレの個人的な技術をサポートするためのアイテムであって、戦い向きじゃないかもしれない。それを念頭に置いて、ステータスを見てくれ」


「……わかった」


「オレたちも見ていいのか?」


 アレックスが心配そうに聞いてくる。

 どうやら、自分たちが開示していないのを気にしているようだ。


「大丈夫。アレックスたちは記憶のないオレを助けてくれた。このくらい問題ないよ」


 そう言ってオレは、指揮棒を机の上に置いた。


「“ステータス オープン”!」


 ブゥンというお馴染みの駆動音が聴こえたかと思うと、空中に情報が投影される。

 オレはエミリーに倣って呟く。


「選択。“属性”、“固有能力”、“スキル”、“特性”」


 空中に乱雑に表示されていた情報が整理され、4つの項目が表示された。



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