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第七話 選器の儀

 

「……ちょっと待て、ギルドはハヤトを囲うつもりか?」


 アレックスが怒気を強めて、オレとギルド長の間に割って入る。


「……そうじゃない」


 ギルド長が冷静に答える。


「ただ、ハヤトに英雄としての才が眠っている可能性があれば確かめなければ。今の人類に、優秀そうな若者を放置する余裕はないのでな」


「……くっ、ハヤトを囲うつもりがないのなら……いい……」


 その後、ギルド長がこの世界と儀式について説明してくれた。

 この世界では男女問わず13歳になると、人々はギルドの施設で“選器の儀”を受ける習わしだそうだ。


 その儀式の内容は、()()()()()()()()()


 武器は遺跡から出土し、人類が魔族や魔物に対抗する唯一の(すべ)

 現在の技術水準では到底製造することができない失われた技術(ロストテクノロジー)で創られたその武器たちは、使()()()()()()()()

 武器は、その武器に選ばれた人間にしか扱えず、それ以外の人間が扱っても真価は発揮できない。


 また、ケルベロスの戦闘でも見たような魔法(スキル)は、人間ではなく、武器に備わっているもの。武器は習熟度に応じてレベルが上がり、より強いスキルが解放されていくそうだ。


 そのため、この世界ではいくら身体を鍛えても、武器に選ばれなければ魔法も使えず、強くもなれない。

 レベルアップの概念が武器にしか備わっていないからだ。

 まさに“武器至上主義”のファンタジー世界と言ったところか。


「……本来であれば、どこの馬の骨か分からん余所者に“選器の儀”を受けさせたりはしない」


 これは建前無しの本音だろう。

 現在の技術水準では武器を製造できない以上、武器の供給は遺跡からの出土に頼るほかない。

 必然的に、武器の数には限りがあるはずだ。

 そのためギルドで厳格に管理をしているのだろう。

 武器の保持者の質や量が、その国や街の軍事力になるのだから。


「ただ、ケルベロスの1件で君は才能を垣間見せた。そして仲間を見捨てないことも証明した。そんな君に恩を売っておくのも悪くない」


「あ、ありがとうございます…」


「ケルベロスを武器無しで倒した英雄が満を持して選器の儀を受ける! これは伝説の始まりですよ!」


 受付嬢が興奮して声を上げると、静かだった酒場の冒険者たちも騒ぎ始める。


「さあ! 英雄が生まれる瞬間をみんなで見ようじゃないですか!」


 ──みんなで見る?


 儀式というからにはもっと厳かな行事だと思っていたが、みんなで見るような類のものなのだろうか?

 この世界の常識が分からないオレは戸惑いながらも、ギルド長の案内で“選器の儀”会場へ向かった。



 *



「なんだこの空間は……」


 ギルドの施設内を奥へ奥へ進んだオレたちは、儀式の会場に到着した。

 そこは薄暗く、かなり広い空間で、特に奥は闇に包まれており、どこまで続いているのか先が見えない。

 オレの前にはギルド長と受付嬢、そしてオレの横には共にケルベロスを倒した“銀の竜巻”のメンバー、そしてオレたちを取り囲むように酒場の冒険者たちが陣取る。


「スキル発動。“輝く光の秘術”」


 ギルド長が大剣を抜き、スキルを宣言すると剣から無数の柔らかな光が溢れ、薄暗い会場を照らし始めた。

 やがてその光は会場の至る所に設置された無数の蠟燭に火を灯し、薄暗かった会場は幻想的な雰囲気に包まれる。


「……それでも奥は見えないのか」


 まるで海面から深海を覗いているようだった。

 先の見えない、死を隣り合わせに感じるような感覚……

 オレの背筋に冷たいものが走った。


「大丈夫。あの奥は武器庫に通じてるって噂さ」


 オレの心配そうな表情に気づいたのだろうか。

 アレックスが元気づけるように言葉をかけてくる。


「オレたちはもっとガキの頃にこの場に立ってるんだぜ? 中には怖がって泣き出すヤツもいてよ。でも、武器は今まさにあの闇から、お前を品定めしているはずさ。堂々としてろ」


「……ああ、ありがとう」


「ハヤトさんなら大丈夫です!」


 エミリーの笑顔を見て、気持ちが和らぐのを感じた。

 “武器に選ばれる”というのがいまいちピンと来ないが、覚悟を決めなくてはならない。


「ケルベロスを倒しちまうような奴の武器だ。とんでもない武器に選ばれるんじゃ……?」


「隣町のギルドでは“機関銃”っていう新種の武器が出たらしいぞ」


「オレは“刀”だと思うぜ! アイツみたいな黒髪で好戦的なヤツを好んで選ぶって噂だ」


 周囲の冒険者たちはこの場に慣れているのか、それとも他人事だからか、オレがどの武器に選ばれるか賭けをしてやがる。

 しかも“機関銃”だと?

 電気も普及していないファンタジー世界で、重火器類はチートすぎるだろう。

 しかし、どうやって弾丸を用意するんだ?


 そんなことを考えていると、ギルド長が大胆に刀を掲げる。

 それを見て、周囲の人は一斉に口を閉じた。

 どうやら儀式の準備ができたらしい。


「……覚悟はできたか? ハヤト、前に出ろ」


 オレは言われた通り前へ進み、祭壇を登った。


 ──まるで指揮台だな


 思わず後ろを振り返り、ついて来てくれた皆に一礼する。

 そして奥の闇へ向き直り、大きく息を吐いた。


「……では“選器の儀”を始める!」


 ギルド長のひと言で、オレとギルド長以外の面々は膝を折り、首を垂れた。

 そしてギルド長は剣を胸の前で構えながら、祈りと詠唱を始める。


「……失われし(いにしえ)の技術よ、彼の者の闘志と融合せん」


 会場の空気がうねり、蝋燭の火がゆらめく。

 奥の闇は深さを増し、魔力の増幅を感じさせる。


「……未だ眠りし武器に命を吹き込み、運命を刻め。選ばれし者に相応しい力を授けよ」


 大気が震え、施設も小刻みに振動する。

 そして、正体の分からない何かが、闇から近づいてくる。


「……神聖なる武器よ、彼の者と共振せん。彼の者の魂と一体となり、未知なる力を呼び覚ませ。武器よ、選べ(アルマ、シェリ)!」


 詠唱が終わると同時に、奥の闇は突然真っ白で強烈な光を放った。

 周囲から人の気配が消え、自分だけが光に包まれた世界。

 しかし、不思議と眩しさはなく、目を閉じることも、()()から背けることもできなかった。


 そして、()()がオレに迫ってきたかと思うと、そのままオレの身体と融合。

 その反動なのか、オレの意識はそこで途切れた。



「……嘘だろ? なんだよアレ?」


 周囲がざわついている。

 目を覚ますと真っ白な世界ではなく、元の会場に戻っていた。

 そして右手に重みを感じ、オレは視線を下に降ろした。


「……こいつ、”棒”に選ばれてやがる!」


 そうオレが握っていたのは“細い棒”。

 長さはだいたい40cmってところか。

 周囲に目をやると、棒に選ばれたと笑っているヤツらもいれば、明らかにガッカリしているヤツらもいた。

 そして、“銀の竜巻”のメンバーは申し訳なさそうに俯いている。


 フルート奏者のエミリーが、オレをかばうように口を開く。


「だ、大丈夫ですよ! きっと何か素敵なスキルがありますよ!」


「…アハハハ! “楽器女”に慰められたらテメエもおしまいだな!」


 エミリーの言動は逆効果だったらしい。

 一部の冒険者が醜く笑う。


()()()()()()()()()()()()、底辺同士で傷のなめ合いか!?」


 エミリーはバツの悪そうに下を向いた。

 しかし、この時のオレには冒険者の悪口は何も耳に入ってこなかった。

 それより感じていたのは、右手にしっかりと馴染む感触と不思議な高揚感……


「いや、エミリーの意見ももっともだ。強力な魔法を使用できる“杖”も存在するのだから」


 ギルド長がエミリーとオレをかばうように割って入る。

 武器と言えば剣や槍、銃を想像していたが、魔法使いのような杖も存在するらしい。


「ハヤト、武器のステータスを見てくれるか?」


「……ステータスはどうやって見ればいい?」


「武器に向かって“ステータス オープン”と唱えるだけでいい」


「……分かった。“ステータス オープン”」


 ブゥンという低い起動音がしたと思うと、武器から文字情報が投影された。

 そこに武器の情報が書いてあった。


 ──つくづくオーバーテクノロジーだな


 しかし、習熟度が足りないためか、ほとんどのスキルが解放されておらず、閲覧できなかった。


「……属性はあるか?」


 アレックスがおずおずと声をかけてくる。


「強いスキルにはたいてい”属性”が付く。お前さんも戦闘で見ただろ? オレの斧は“風”の属性を持っているから、竜巻みたいな風魔法を付与して攻撃できる。ブロックは“光”だな。大盾が光を放っていたのは光属性だからだ。光は魔物の攻撃に滅法強い」


 何か属性があれば、弱そうな武器でも使いようがあるのだろう。

 オレがバカにされないように、助け舟を出そうとしてくれているのが伝わってきた。


「ありがとう、アレックス! 属性は……」


 オレは武器から投影された情報を辿る。


「……“無”属性だな。これはどういう意味だ?」


 アレックスが口をつぐむ。

 オレの言葉を聞いて、バカにしていた冒険者たちの笑い声がさらに一段階ボリュームを上げる。


「文字通りの意味だよ! 無属性は()()()()()って意味だ! お前は魔法がなんにも使えない”ただの棒”に選ばれた落ちこぼれた!」


 アリスはオレが武器に選ばれてから、ずっと俯いたまま微動だにしない。

 さすがのエミリーもオレにかける言葉がないようだ。


 しかし、オレはまたもや周囲と全く異なることを考えていた。


 ──無属性。()()()()()()()()()ってことか



 オレは右手を強く握りしめる。

 そして得体のしれない高揚感が、さらに高鳴るのを感じていた。


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