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暁のグランツ  作者: 桧本未相
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第11話 暁に

 屈強な体をもち、茶髪で淡白に整った顔立ちのその男、ガスタル・サキナの住むこの家で、僕は居候をすることになった。

 このように言って終えば、それこそ物語さえ感じられるように劇的に聞こえるかもしれないが、事の顛末もマンネリ化してしまえば劇的に非ざる事象の塊だ。

 普通に薪を割って、洗濯をして、食料を調達する(これは主にガスタルの仕事)という、人間生活において何の遜色も無い生活を送るだけであった。


「ガスタル、薪はこのくらいでいいか?」

「ああ、終わったんならカラトに行くぞ。準備しろ。」

「カラト?」

「例の下町だ。生活物資が足りんから調達する。」


 身支度も程々、ガスタルの家からかなりの距離を降りたところにあるその町は、人口で言えば8千人程。

 1、2階建ての煉瓦造りの棟が立ち並ぶ、落ち着いた街並みが広がる集落であった。


 以前初めて来た時は、僕の身元を知る人物がいないかと、少々の捜索を行ったこともあった。

 その際、ガスタルから


「お前、話した相手が明らかにお前と初対面の様相を見せたら、そん時は私の親戚の子供だと言え。」

「うん。うん?」


 という謎の達しを受けた。

 何とも変な話ではあるが、結果として僕の身元を知る人間はカラトにはいなかったため、僕の属性はここでは「ガスタルの親戚の子」という扱いを受けている。


「お前さん、親戚なんていたのか?」

「い、いやぁ〜、何言ってんですか。いるに決まってるじゃないですか!!」


 町の住人に聞かれたときは何故か濁していたが…。


 この町に関して、もう一つ特徴があるとすれば、この町が崖に面した土地になっているということだろうか。

 しかもそこに到達した者はいないとかなんとか、ガスタルからも端へ行きすぎないよう忠告を受けている。


「私は自治会に挨拶に行ってくる。金をやるから、その間に香辛料をいくらか頼む。」

「分かった。」


 「ほい。」とガスタルから金銭を受け取り、足早に店へと向かった。

 今日は少し、別で向かいたいところがあった。


 買い物を終え、僕はそのまま、一直線に町の離れの方へと向かった。

 店からの距離はそう遠くはなかった。

 申し訳程度のベンチと手入れの効いた低木が生える、広くはないが、その夕焼けを拝むには十分すぎるほどの公園であった。


「はああああああああ、は。」


 少し溜息を吐いた。

 この夕焼けの発する熱は、肌を伝わる感触には丁度良い。


「このまま、全部思い出せたりしないかな…」


 懐古的な衝動には襲われた。

 しかし、特に何かを思い出したというわけでもない。

 相も変わらず、スカスカの記憶の器だ。

 それでも僕は思う事も無いクセ物思いに耽っていた。


「間違っても、飛び込んだりしたらいかんよぉ。」


 背後から老婆が1人、穏やかな声を発しながら近付いてきた。


「しませんよ。安心してください。」

「そうかい。綺麗なところだろう?」

「ええ。この夕日の先には、何があるのですか。」

「夕日?ああ、太陽のことかい。」

「(…?)」

「さあねぇ。でも神様たちが住んでるって言う人はいるさ。」

「神様…。その、神がいる果てを目指した人はいなかったのでしょうか。」

「いたかもねぇ。でも神の領域に人が足を踏み入れるもんじゃないよ。」

「踏み入れたら、どうなるんです?」

「人には耐えられない神の領域、人が入れば身を滅ぼしちまうのさ。」

「ふーん。」


 神様、その空想に(すが)ってしまうのも無理はないように感じる。

 この崖の、水平線の奥がどのようになっているのか。

 人間には介入し得ない存在が、その未知が、人間の概念を超越して広がるその空間を意識へと当てはめる。

 傲慢なその行為を現実へ昇華するには、神という上位存在は不可欠なのである。


 だが、そんな神を差し置いても、


「ねぇ、おばあさん…、」


 それでも僕が、


「なんだい?」


 この世の理に明らかに(そむ)くと断言できる現実が、


「教えてほしいんだ、どうして…」

「ちょっと待ちな。」

「…っ!!」


 老婆はそう言って止まれのハンドシグナルを示し、何かを発見したように一点を凝視していた。

 焦るにしても、人を見た程度の仰々しさには到底思えない。

 しかしそれも、老婆の視点の対象を見ることにより納得に至った。


「何でここにいる…」

「分からん。だけど話は一旦お預けなようだね…」


 ルートで言えば、崖を這い上がってきたとしか考えられない。

 だが有り得るのか?

 こんなものを見せられて仕舞えば、多少の事は空想で片を付けてしまえる神の存在でも恨みそうになる。


「ゔォぉオイカぁ…」


 不気味に浮かぶ2つの白光り。


「ケイマン…」


 全身を包む、嫌悪すら抱くその黒色のモヤは、水の滴る、ケイマンの姿だった。


 






 



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