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あの夏は暑い氷水

作者: pLan+


 -----高2の夏、


 俺は少し田舎の方に来ていた。


 祖母の家で、俺の昔の頃の写真をまとめて整理しに行くためである。


 そう昨日祖母から電話があった。


 長い田んぼ道を通り抜けて、丘の上にぽつんとあるのが祖母の家になる。





 ...懐かしい。


 最後に来たのは小学生の頃。


 その時よりは草の背が低く、どこまでもあると思えた庭は学校のグランドよりやや小さい程度だった。


 俺は手入れがされている道を登り玄関まで行く。


 インターホンを鳴らし戸を引くと前と様子が変わらない優しい祖母の姿が見えた。




 その後、家に入ったら、外と繋がっている大広間で休憩をしていた。


 整理する写真を今祖母が持ってきてくれるそうだ。





 祖父の方は去年にもう葬式をあげている。






 俺は今日歩いた道を眺めて感慨に老けていた。


 子供の頃はよくここらで虫を捕まえていた。


 そのときには祖母がよく捕まえ方を教えてくれたっけ。


 今では、部活にバイト友人付き合いなどで時間があっという間に流れていく。


 勉強もしなければならない。


 部活も忙しい時期になってきた。


 友人に誘われれば断りにくい自分がいる。


 そのため今休めているこの時を少しの休憩地点と想うことにする。




『カラッ...』




 不意にそう氷の溶ける音がした。


 気づかぬ間に祖母がお茶を入れてくれたらしい。




 氷が溶け、ガラスの周りに水滴が流れてくる。


 急に不思議と疑問を持った。


 子供の頃からの疑問でもあった。




 俺は昔から氷が溶けていくのを見ると、どんなに暑い日でも肌が冷たくなっていく感覚がある。


 周りが冷やされてるのかもしれないが、結局は気持ち的な問題だろう。


 その中の氷を見ると、コップ全体が冷えてるのが伝わってきた。


 しかし反対に、流れ出す水滴は、冷たいはずなのにどうしてか自身も一緒に汗を地面に流してしまう。


 なのに、最初は氷を眺めてるはずが、いつの間にか水滴に視線が移っている。


 今思えば、動いているものをついつい見てしまう。


 変化があるのは面白い。


 ただのそんな事なのだろう。




 そんなどうでもいいことを考えているうちに、祖母が写真を持ってきてくれた。


 祖母の額には、氷と同じ水滴が流れている。


 俺は写真をもらっていると、祖母の手から夏のように暑い熱が写真越しに伝わってきた。


 チラチラと写真を見ていると、楽しかった思い出が蘇ってくる。


 その中で、みんなから本当に大切にされていたんだなと胸が温まってくる。


 気づけば部屋全体が暑く、さっきまで冷えていたコップも氷とともに熱を持って液体を流している。




 夏は不思議だ。


 ありえないことが起きたり。


 できないことができるような気がしてくる。


 自分の中にあった高校生は『カラッ』と音を立てて溶け出した。


 胸の奥がより一層熱くなる。


 液体になった内に無限大に流れる。


 まるで、今なら、この雲が広がる空をどこまでも飛べる気がしていた。






 祖母が隣で聞いてくる。




 今日は遅くなりそうだし泊まっていきなさい。


 と。




 俺は熱で視界が歪んでいく部屋の中、返事をしていた。


 自分のしたかったことはいつもココにあるのだろう。


 どこまで行ってもこの地点が、自身の休憩になってゆく感じがした。


 きっとそのことが選んだのだろう。




 俺は、祖母のその優しさに触れて泊まっていくことにした。






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