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少女は、小さく笑う。  作者: A.M.PA
4/4

4。病院にて

 

 翌日昼下がり、俺は電車に揺られていた。

 目的地は病院。と言っても俺が病気になったわけじゃない。


 ─いや、ある意味あんなリアルな幻視を見た俺は病気かもしれないな。


 俺は、昨日の出来事を、「彼女」を、一旦なかったことにした。

 一晩中寝ることさえできず、どうせならと勉強机の上で悩み抜いて導き出した結論だ。

 昨日の夜、俺とおばばは狐にでも化かされたのだと。

 そう考える事でしか自分を納得させることができなかった。




 ――――――――――――



 久しぶりに田舎から都会(といってもウチの街と比べて)に出てきて、川沿いの道を進む。

 そして見えてくるのが件の病院だ。

 窓口で簡単な手続きを済ませて、俺は病室へと足を運ぶ。


 宮内紡(みやうちつむぎ)様、と書かれた部屋の前に立ち、扉をノックする。

 すると部屋から


「はーい!」


 という、耳に馴染んだ返事が返ってくる。


「あの…俺だけど」


 というと、少し部屋の中からバタバタっと音がした気がするけど、その後、


「どうぞ!」


 と、入室の許可が出た。

 ガラガラと戸を引くと、部屋の主人と目が合った。


 華奢な体躯に病院着、太陽に照らされる漆黒の長い髪、そして、どこか緊張とした面持ちの「あいつ」がいた。


「元気してたか…紡」


 そんな言葉を投げかけると、主人…「紡」は目をパチクリさせて


「こ、こーちゃんがデレてる…」


「俺を未だにこーちゃんなんて言うのお前ぐらいだよ」


 俺…陽野宏太(ひのこうた)の名を、読んだ。


 いいか、と言ってベッドの近くの椅子に腰かけると、どこからともなく紡から話が始まった。


「それにしても驚いたよ…。こーちゃんの方から朝いきなり「お見舞いに行きたい」だなんて」


「急で悪いと思ってるよ」


「最近全然来てくれなかったもんねー。急に罪悪感でも湧いちゃったかな?」


「いや、まぁ来てなかったのは悪いと思ってるが」


 すると紡は「冗談だってばー」なんて言って笑ってくれた。

 でも悪いと思ってるのは本当だ。何年か前に病室でお見舞いに来ていたクラスの女子たちと鉢合わせしてからというもの、会いに行くのが照れ臭くなって、最近は入院してもたまにメッセージを送る程度になってしまった。


「でも、ホント急だね」


 少しジトッとした目で「乙女には準備がいるんだよっ…」っていう小さな声が聞こえたような気がした後、綺麗な瞳を真剣に向けてきたのち、


「話、あるんでしょ」


 と、優しい声音で問いかけてきた。


 少し回答に詰まる。でも、一応、本当に一応、確認したいことがあった。


「紡、昨日ウチに来たか」


 すると、紡は頭上にハテナマークを浮かべたような顔で


「まだ退院まで一週間あるし…というか、行くんだったら連絡するけど」


 と、ごくごぐ当たり前の回答が帰ってきた。


「そうだよな…」


 となると、やはり昨日は俺が化かされただけだったんだな。


「どしたのこーちゃん、なんか変だよ?」


 とにハテナマークを浮かべたままの紡を見て、思う。


「いや、忘れてくれ。ただ元気な顔を見に来たんだよ」


 すると紡は頬を赤く染めて、やはりまだ納得はしきれてないようだったけど渋々、


「そっか!ありがと」


 と、屈託のない笑顔をくれた。

 それだけで、俺は幸せな気分になった。


 それから俺達はたわいもない話をした。

 学校はどうだ。最近面白かった話はあるか。そんな話だ。


 紡は学校に行かずとも、病院で起こったハプニングやらおもしろおかしい話をたくさんしてくれた。俺は学校に行ってるのに話題が少なくて、なんだか申し訳なく、同時に紡の存在の大きさを再確認した。


 紡は、本当に誰にでも愛される、自慢の幼馴染みだ。





 ――――――――――――



「でね、隣の部屋のおばーちゃんが…」

「ごめん紡、俺もうそろそろ帰らないと」


 時刻は陽が赤く染まる頃に差し掛かってきた。


「アハハー…話すぎちゃったね。でも楽しかった!」


 途中で体調が心配になってくるほど俺達は話していた。


「俺も楽しかったよ。じゃあ…一週間後」


 そばに置いていた鞄を持って立ち上がると、


「そうだね!学校楽しみだなー」


「でも、すぐ夏休みだぞ」


「うーん…それもまたイッキョウ!」


 にゃははと紡は笑って、俺もぎこちないけど笑みを返した。

 そうして俺は病室を出た。

 ──このときにはもう「彼女」の存在は頭になかった。





 ――――――――――――





 すっかり暗くなった帰り道、最寄りの駅を降りて家への道を歩く。

 今日のことを少し思い出しながら、俺は小さな音量で鼻歌を鳴らしながら進んでいた。


 ふと、自販機が目に留まる。

 今日は話しっぱなしで、しかも何も飲んでなかった、


「なんかジュースでも買うか─}


 蛾の止まった自販機は少し触りたくないが、仕方ないだろう。


 そして、小銭を入れようとしたとき、頬に電流のような冷たさが走る。



「ふふっ…ピトッと」


 当てられたのは冷えた缶ジュース。

 いや、そんなことは至極どうでもいい


 それは、紛れもなく

 やはり、寸分違わず


「彼女」


 だった。



ストックは出し切りました笑

よかったら評価?とか待ってます!

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