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少女は、小さく笑う。  作者: A.M.PA
1/4

1。夏

 

 浅く、青い。


 夜明けは黒々とした闇を裂き、群青色はどこまでも広がっている。


 まだ、朝焼けは訪れない。


 ここはまだ夢の続きなのだろうか…


 軽く、汗を拭う。


 そしてまた、緩い傾斜の坂道と対峙する。


 少しだけ息を整えた。





 見据える先に それでも漆黒の闇はまだ見えない。








 ――――――――――――






 七月、茹だるような熱が身体を包んでいる。


 こんな中でシャーペンをくるくると手の中で遊ばせているのは、退屈しのぎなどではなく、娯楽に縋りついて暑さを少しでも忘れようとしているからである。バカ正直に黒板を眺めていては、気が滅入ってしまいそうだ。

 こんな時期に教室に籠もって何時間も座って勉学に励め、などとさも当たり前の様に拷問をしかけてくるこの異常事態。当然、生徒間では不満が爆発していた。

 勿論、クーラー設置を直談判したヤツも後を絶たない様なのだが、しかし担任は『夏休みまで!ファィト!』とそれを茶化すと、足早にその場を去る。そんなイタチごっこ状態だった。

 誰に褒められる訳でも無いが、自ずとペン回しは上手くなってきている。だが、慣れたと感じる度に暑さが舞い戻ってくるので、左手で回す練習も最近始めようと思っている。


 そして今日もまた、生ぬるい扇風機の風が肩をかすめていく。




 六限の終わりを告げる鐘が鳴り響くと、僅かなインターバルを越え、HRが始まる。

 傾きかけた陽から、今日一番の日差しが激しく差し込んでいる。

 この時間にもなると、もうこのまま動かないのでは無いかと言うほど机と頬が接地した者。部活の用意を始める者。通学カバンを既に肩へ回しかけている者。そんなそれぞれの思い思いの過ごし方が見える。

 こういった光景を眺めているときが、今の自分が『学生』なのだと認識出来る一番の瞬間だろう。

 なにせ、この高校に入ってからというもの、新しい人間関係を築こうとしてこなかった。正直に言えば、うまく築けなかった者にとっては、唯一この場所で安堵できる時間だったからだ。

 それに、はやくこの時間が過ぎていかないものかと明確な意思を共有している感があり、それは少しだけ嬉しくもあった。


 


 湧いては消えていく、たわいの無い思考を巡らせながら帰路に就いた。


 街灯も疎ら、粗末な舗装の道。スーパーはチャリを急がせても10分かかる。コンビニとかいう文明はごくごく最近ようやく伝わってきた。田舎、と呼ぶに相応しいこの地。

 そんな場所で16年も生きている。

 両親は仕事で小さい頃から共に家を空けていて、祖父母と暮らしている。

 趣味が無ければ欲も無い。つまらなさを体現したかの様な人間。

 どうしても内向的な為、ただでさえ狭い地域のネットワークの中でも同世代の友人は少なかったが、最低限の付き合いも悪くない、と割り切って過ごしている。

 高校入ったら何か変わるのもしれない、と淡い期待を抱いた時期もあったが、結局は中学時代と変わらぬ日々を送っている。


 (そう言えば…)


 ふっと、下らない思考を掻き消したのは、昨日電話で入院している幼馴染みと話したその内容だった。

 幼馴染み…直ぐ近くで暮らしている宮内みやうち つむぎは、俺なんかと違って頭が良い。テストの成績は毎度負かされていて、勝った記憶が無い。それに加えて人当たりもいいし、ルックスも中々のものなので、一緒にいると男子生徒からの視線がヤケに痛かった。

 そんな彼女だが、高校は俺と同じ町立の高校に通っている。成績だけならこんな所に来るべき生徒では無いのは明白なのだが、なにせアイツは身体が弱かった。幼い頃は入退院を繰り返していたし、中学に入った頃にはかなり元気になっていたようで安心したけど、今はまた通ったり休んだりを繰り返している。

 一週間後に退院する。そう告げられたときは『おう』とか『よかったな』ぶっきらぼうな返事しか出来なかったのだが、内心歓喜していることは見透かされていただろう。いつだって、あいつには敵わない。

 頬を綻ばせているところは誰かに見られただろうか。でも、そんなことはどうだってよかった。






 家の前まであと少し。その角を曲がれば…

 ――その、刹那。

 脆い平穏はいともたやすく切り裂かれた。

これの元を最初に書いたの3年以上前らしいです。びっくりですね。

せっかくなのでちょっと変えて投稿してみます。

インターネットの海へいってらっしゃい。

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