放蕩王子は義弟の伴侶事情を気にする
「ハルシオンが次期国王になるということは当然国を運営をしていく能力が大事です。それを教えるのは父上が一番適任です」
「まあ、そうだな。だからこそ、私は男爵領に行くのをある程度は我慢するしかないんだ」
クリスハルトの説明に国王は納得する。
先ほどまでの話から分かっていることはクリスハルトにもわかっていた。
念のために説明しただけである。
「ですが、次期国王としてもう一つやらないといけないことがあります。父上ならお分かりですよね?」
「ああ、わかっているよ。跡継ぎだろう?」
「ええ、そうです」
流石に国王をしているだけあって、クリスハルトの言いたいことはすぐにわかったようだ。
いや、最初からわかっていたのかもしれない。
クリスハルトと話がしたいため、遠回りをしているようにも見える。
「王族の血を絶やすわけにはいきませんから、安全なうちに跡継ぎを産んでおく必要があります。もちろん、そのためにはハルシオンをそばで支えてくれる次期王妃が必要になってきます」
「その次期王妃の指導をするため、クリスティーナが必要だということだな」
「ええ、そうです。つまり、母上は男爵領に頻繁に来る暇などは……」
国王の言葉にクリスハルトは頷く。
そして、さらに話を続けようとしたが……
「いやよっ」
「っ!?」
クリスティーナが叫ぶ。
それは心からの叫びであった。
あまりにも大きな声であったため、一番近くにいたクリスハルトは耳が痛くなってしまった。
「別に私がいなくたって大丈夫なはずよ。王都には優秀な教師がたくさんいるから、ハルシオンの相手の娘を立派に育ててくれるはずよ」
「ほとんどの知識はそうかもしれないけど、それ以外にも教えないといけないこととかあるだろう? 例えば、王妃としての心構えとか?」
「そんなもの、やっているうちに身につくわよ。現に私だって、それで身に付けたし」
「いや、全員がそれをできるわけでは……」
クリスティーナの言葉に困った表情をするクリスハルト。
別に彼は母親に男爵領に来てほしくないわけではない。
今までのことがあったので、彼にも仲を修復するに越したことはないと思っている。
だが、それとこれとは話が別である。
比べているのが国の一大事だからである。
だが、そんな彼の思いも暴走するクリスティーナには通じない。
「私なんて、王妃としての勉強を義母上から教わったことはないわ。やったことといえば、休憩時間のお茶会ぐらいよ」
「……嫁と姑の関係を築くために必要なことでは?」
クリスティーナの言葉を聞いたクリスハルトは思わずそう呟く。
クリスティーナが優秀であることは彼も知っていることであった。
彼女が言っているのは、王妃教育で教えることがないので、これから上手くいくために仲良くしておこうとしていたのでは、と。
しかし、実際はそうではなかったようだ。
「別に元々仲が悪かったわけじゃないわ。むしろ、仲が良いと言ってもおかしくはなかったわ」
「じゃあ、義娘と楽しく過ごしたかったのでは?」
「違うわよ。私がこの人と仲睦まじく過ごせているかを私の口から説明させるためよ。恥ずかしがる私の口から、ね」
「……ああ、そういうことか」
クリスハルトは数秒停止した後、納得したように呟いた。
どういう意味か理解できなかったが、すでにいろんな情報を持っている彼はすぐに答えを導くことができた。
元々、クリスティーナは人付き合い以外の能力値は次期王妃として申し分なかったが、人付き合いの能力だけ落第だったのだ。
当然、そんな状態では次期王妃どころか夫婦生活も上手くいかないだろう。
それを危惧した先代王妃が命じたのだ、「婚約者としてほとんどの時間を一緒に過ごすこと」を。
ついでに人前で緊張しないため、報告させたと言ったところだろう。
中々強硬手段ではあるが、実際に効果はあったのだから成功のようだ。
「じゃあ、ハルシオンのお相手にも何らかの訓練をする必要がありますね」
「そんな必要はないわよ。あれはあくまでも私だから必要だったからで、普通の女の子ならほとんど必要ないでしょ」
「いや、それを本人が言うのはどうかと思うな」
クリスティーナの言葉にクリスハルトは思わずツッコんでしまう。
事実なのかもしれないが、必要だった本人が言うのはおかしいのだ。
だが、そんなクリスハルトのツッコミも今の彼女にはまったく聞こえていないようだった。
「とりあえず、ハルシオンのお相手には私の指導は必要ないということよ。というわけで、リーヴァ男爵領にもしょっちゅう行けるわ」
「……」
クリスハルトは黙り込んでしまう。
反論はできないが、これを受け入れるのは良くないと思ってはいる。
というわけで、助け舟を求めて父親の方に視線を向けるが……
「受け入れてやってくれ」
「ええ……」
父親の言葉にクリスハルトは何とも言えない表情になってしまう。
てっきり味方になってくれると思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
だが、完全に敵というわけではなかった。
「期間限定で、だ」
「期間限定?」
予想外の言葉が出てきたので、クリスハルトは首を傾げた。
どうして期間限定なのだろうか?
「現状、ハルシオンが次期国王として即位したとして、クリスティーナがいる必要性はあまりない」
「なぜ?」
クリスハルトはすぐに聞き返してしまう。
即位したハルシオンにクリスティーナが不要な理由が分からないからである。
そんなクリスハルトの疑問に国王は答える。
「ハルシオンにはまだ相手がいない」
「あ」
国王の言葉にクリスハルトは思い出した。
ハルシオンにはまだ婚約者がいないのだ。
これは元々クリスハルトのせい──いや、別にクリスハルトが悪いわけではない。
クリスハルトの立場を守るため、ハルシオンの婚約者を決めることはなかったのだ。
二人とも婚約者がいる状況では、次期国王候補としての争いが起こる可能性が高かった。
もちろん、本人たちにそのつもりはなかったのだが、それは派閥の人間は関係なかった。
派閥の人間が勝手に行動することだってあったはずだ。
そして、クリスハルトは公言されていなかったとはいえ、ハルシオンほど育ちが良いわけではなかった。
それを理由にハルシオン派の人間がクリスハルトに危害を加える可能性もあった。
それを避けるため、クリスハルトのみ婚約者を決めることになったのだ。
まあ、王族として迎えられた時点でクリスハルトの婚約は決定していたし、それ自体もクリスハルトを守るためのものではあったが……
「でも、それこそ母上が必要では? ハルシオンの相手を決めるんですから」
「いや、そうでもない。すでに大体の候補は絞れているからな。一時期、ハルシオンの相手はレベッカ嬢という噂が出て、それでほとんどの令嬢たちが候補から辞退してしまった。流石に容姿端麗、文武両道のムーンライト公爵令嬢に勝つことは不可能だと思ったようだ」
「……じゃあ、その候補たちに指導する必要があるのでは?」
自分が流した噂のせいで起こった出来事なので、クリスハルトは申し訳ない気持ちになる。
だが、あれは二人が仲良く見えたのが悪い。
勘違いしても仕方がないだろう。
「いや、それも問題はないようだ。残っている候補たちは全員が家柄も問題はないし、しっかりと状況を見定める力もある。だからこそ、噂に惑わされずに候補として残っているし、王妃となるべく努力をしているようだ」
「なら、その中から選ぶために母上は必要では?」
「いや、問題はない。すでに候補全員と顔を合わせた上で、どの令嬢が選ばれても問題ないとティーナも言っている。あとはハルシオン次第だ」
「なるほど。だから、不要というわけですね」
「まあ、流石に大事な式典などではいる必要はあるが、次期王妃のために先代王妃として行動する必要はない」
「だからといって、ずっと男爵領にいるのもな……」
状況は理解できたが。だからといってクリスティーナがずっと王都を離れるのは流石にどうかと思う。
どうすべきかとクリスハルトは悩んでしまう。
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