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とある街の酒場にて

ここからエピローグになります。

一応、最初から考えていたエピソードになります。


 サンライズ王国から少し離れたとある小国──大国ほど人口にあふれておらず、対抗できるほどの武力などを揃えられない国があった。

 しかし、その小国には他の国にはない珍しい資源があった。

 その利点を利用して他の国との関係性を築き、国を保っていた。

 そして、その国には資源を採る為にその採取場所に町が作られていた。

 資源の採取には力が必要な者も多く、その街に集まるのは屈強な男性とその家族、彼らが生活するための品を売る店、仕事のモチベーションを上げるために酒をふるまう店などが集まっていた。


 ここはとある街のとある酒場。


(ガッ)

「なんだよっ!」


 いきなり腕を掴まれた男は思わず悪態をつく。

 明らかに酔っているのであろう、顔は真っ赤になっており、足元の若干ふらついていた。

 だが、腕が掴まれていることは自覚できており、思わず怒ったのだ。


「お客様、当店は女性従業員に触る店ではないんですよ」


 腕を掴んでいたのは短めの髪をオールバックにした一人の青年であった。

 男性としては平均より少し大きいぐらいだろうか、力仕事をしている屈強な男よりは一回り小さく、比較をすれば弱そうに見える。

 しかし、なぜか青年が蒔ける姿を想像する者はいなかった。


「別に少しぐらいいいじゃねえか。こんなに可愛い娘がいるんだったら、触れてみたいのが男ってもんだろう?」

「ひっ!?」


 男の嘗め回すような視線を受け、従業員の女性が悲鳴を上げる。

 青年より少し年下であろうか、まだどこか少女らしい雰囲気の残った可愛らしい女性であった。

 そんな彼女が店を華やかにする意図で可愛らしい服を着ていたのだ。

 普通に見れば、可愛らしい女性が可愛らしい服を着ている──つまり、似合っていて可愛いという評価になるだろう。

 しかし、時にはその姿を扇情的に感じる者も現れるのだ。

 今回の男のように……


「もう一度言わせていただきますが、ここはそういう店ではありません。女性に触れたいと考えているのであれば、そういう店をご利用ください」

「あぁ? ああいう店は高いんだよっ!」


 青年の言葉に男は怒鳴る。

 この街は屈強な男たちが集まっており、その中には家族を持たない独身も多くいた。

 そんな男たちのたまったものを晴らすための店も当然ながら存在する。

 だが、そういう店は総じて値段が高い。

 何度も通うほどお金を持っている人間はあまりいない。


「だからといって、うちでそのような行為をされても困りますよ」

「うるせえな。従業員風情が俺にそんな口をきくんじゃねえっ」


 怒った男が掴まれた側とは逆の腕で殴り掛かろうとする。

 利き腕ではないが、もう片方も日ごろの仕事のおかげで一般人より筋力がついていた。

 だからこそ、この青年程度ならそれで十分だと考えたのだ。

 しかし、その考えは甘かった。


(ドオンッ)

「ぶぐっ!?」


 気づいたら男は地面に顔からたたきつけられていた。

 何が起こったのか、全く分からなかった。

 泥酔しているからだろう──そう言う奴もいるだろう。

 だが、これだけは言えた。

 素面の状態でも何が起こったのかわからなかったはずだ、と。


「お客様、これ以上迷惑をかけるようでしたら、退店していただきたいのですが?」

「ひいっ!?」


 青年の笑顔の裏にある異様な威圧感に男は恐怖を感じた。

 そして、慌てて立ち上がるとそのまま店の外へと逃げだしていた。

 少ししてから店内は喧騒に包まれた。

 実は先ほどの光景はこの店の定番だったりする。

 この店のことを知らない男が女性従業員に手を出そうとし、青年従業員に脅され追い出される。

 この一連の流れを見るのが、常連の楽しみだったりする。

 いや、正確に言うならば、もう少し後も一連の流れであろう。


「ハル兄、助けてくれてありがとう」

「別に構わないよ」


 女性は嬉しそうに青年従業員に話しかける。

 その光景は仲の良い兄と妹のように見えた。

 しかし、妹の方にはより大きな思いがあった。


「やっぱりハル兄って、私のこと……」

「さて、仕事に戻ろうか」

「あっ、ハル兄っ!」


 女性の言葉を最後まで聞かず、青年は立ち去ろうとする。

 もちろん、女性の気持ちはしっかりと気付いていた。

 しかし、いろいろな理由からそれをのらりくらりと躱しているわけだ。

 その一つが喧騒の中で睨みつけてくる一人の常連の青年だったりする。

 彼女の幸せを考えるのであれば、自分が受け入れるわけにはいかないと思っているのだ。

 自分には女性を幸せにすることなどできない、そう思っていたから。


(カランコロン)


 店の扉が開き、ベルが鳴った。

 新しい客が来たと思い、青年はそちらを振り向いた。

 しかし、すぐに訝しげな表情になる。

 この店にはいろんな人間が来る。

 だからこそ、どんな人間が来ても驚くことはないと思っていた。

 しかし、流石にフードで顔を隠した集団が来るとは予想していなかった。


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」


 女性はフードを着た集団の先頭の人間に話しかける。

 こういう物怖じしないところが彼女の良いところだったりする。

 人懐っこい性格もあり、ルックスも整っていることからこの店ではアイドル的な扱いを受けていた。

 まあ、そのせいで初めての男に色々とされそうになるのだが……


「ああ、すみません。私達は客ではないんですよ」

「え? そうなんですか?」

「といっても、店に入って何も注文しないのはあれですから、食事はさせてもらいますよ。これだけの集団ですから、かなり売り上げに貢献しますよ」

「それはありがたいですね。おすすめのメニューとか紹介しますね」

「ええ、お願いします」


 女性従業員の言葉にフードの先頭の人物は受け入れた。

 その声からフードの人物も若い女性であることはわかった。

 それに気づいた常連たちは俄かに色めきだった。

 この店に来る常連の半数ぐらいは独身であり、女性と出会いたいと思っていた。

 だからこそ、知らない女性が現れたのであれば、そんな反応になって当然だろう。

 しかし、そんな中で反応が違う者もいた。


「逃がしませんよ」

「っ!?」

「えっ!? ハル兄?」


 逃げ出そうとする青年の行く先をフードの集団が遮る。

 いきなりの出来事に女性従業員は驚きのあまりどう反応していいかわからないようだった。

 一瞬で店の喧騒がやんだ。

 緊迫した状況に誰も動くことはできなかった。

 いや、一人だけいた。

 先頭にいた女性は被っていたフードを外した。

 中から現れたのは絶世の美女と呼んでも差し支えないほどの綺麗な女性であった。 

 普段なら、常連たちは歓声を上げていたであろう。

 しかし、それは現在の状況は許さなかった。

 そんな彼女が口を開いた。


「お久しぶりですね、クリスハルト様」


 女性は笑みを浮かべ、そう告げた。

 その表情に常連の客たちは思わず顔を覆ってしまった。

 あまりの美しさに直視することができなかったのだ。


 そんな彼女の顔を一番近くで直視していた女性従業員は気付くことができた。

 その女性の笑顔の裏にある感情に……

 喜びの他に哀しみの感情があり、さらにその奥に怒りの感情が見えた。

 どうしてそんな感情が混在しているのであろうか、女性従業員は疑問に思ってしまった。


「……」


 呼びかけられた青年は黙ってしまった。

 無表情ではあるが、どこか悔し気な表情を浮かべていた。






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