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クールな王妃は親友の忘れ形見の存在を知る


 私がメリッサを失ってから、8年の月日が経った。

 その間にいろいろなことがあった。

 一年が経った頃に私の妊娠が発覚した。

 あの日から王太子殿下はまるでつきものが落ちたように酒におぼれる生活を辞めてしまった。

 そのおかげもあってか、私達の夫婦生活は予想していたよりも上手くいっていた。

 まあ、私が真実を隠していたせいもあるだろうけど……


 その半年後、ハルシオンが生まれた。

それを機に陛下が隠居されることを決め、王太子殿下が次の国王になった。

 つまり、私は王妃となった。

 といっても、すでに王妃としての仕事はほとんど引き継いでおり、問題は跡継ぎを産むことだけだった私にとってはそこまで生活が変わったわけではなかった。

 しかし、以前とはまったく違う生活のように感じた。

 やはりメリッサがいなくなるだけで、私は大きく変わってしまうようだった。


 そんな気持ちのまま惰性のように働き続けていたある日、私たちの元にリリーがやってきた。

 ムーンライト公爵となったアレク様も一緒であった。

 あれ以来、リリーとは疎遠となってしまっていた。

 リリーにはあの夜の出来事を話していた。

 私とメリッサの関係を知っていれば、私の元からメリッサがいなくなることの異常性について訝しむと思ったからである。

 隠し通すことなどできないと思った私は最初からすべて話すことにしたのだ。

 その結果の疎遠である。

 彼女にとってもメリッサは大事な友人であった。

 だからこそ、自分に何の相談もなかったことに怒ったのだ。


「なに? 私の隠し子だと?」

「っ!?」


 アレク様の話を聞いた旦那様は驚きの声を漏らす。

 彼にとっては全く身に覚えのない話なのだから、その反応は当然であろう。

 逆に身に覚えのあった私は違う意味で驚いてしまうことになる。

 まさか……そんな気持ちが私の中に出てきた。


「はい。子供の金髪は王族の血族だからだと思われます。そして、先代陛下の子供とは考えづらく……」

「私の隠し子だと? 私だってクリスティーナ一筋なのだから、隠し子などいるはずがなかろう」


 アレク様の話を旦那様は否定する。

 彼にとってはそうなのだろう。

 もちろん、私一筋であることについては疑う余地もない。

 婚約者になってからの交流で彼が一途に私を思ってくれていることは理解していた。

 しかし、これはそういう話ではなかった。


「ねぇ、クリス」

「っ!?」


 リリーに名前を呼ばれ、私は体を震わせた。

 じっと見つめられる。

 真実を話すべきだと言われているようだ。

 この状況ではもう隠しきれないのだろうか。

 いや、隠そうとしたら余計に大変なことになってしまう。

 そう思った私は口を開いた。


「ムーンライト公爵の言っていることは事実でしょう」

「クリスティーナっ!?」


 まさかの敵が現れたことに旦那様は驚いた。

 それはそうだろう。

 妻一筋であることを告げたのに、その妻本人にその気持ちを疑われると思ったはずだ。


「陛下が私一筋であることは疑っておりません。ですが、これはそういう話ではありません」

「どういうことだ?」


 私の言葉の意味が分からず、旦那様は首を傾げる。

 事情の分からない彼は首を傾げるだけだ。

 なので、私はアレク様に視線を向ける。


「その子供の母親の名前はメリッサ──リーヴァ子爵家の女性でしょう?」

「はい、その通りです。といっても、すでに彼女はこの世にはいませんが……クリスハルト君の出産時に亡くなったそうです」

「……そう」


 メリッサの死を聞いたが、私は泣くことはなかった。

 彼女の子供が発見されたことで覚悟はしていた。

 彼女ならば、王家の人間にその存在をバレるようなことはしないはずだ。

 裏切ったことを私に思い出させることになるのだから……


「一体何の話をしている?」

「リーヴァ子爵令嬢──いえ、メリッサは私の専属メイドだった娘です」

「たしか学生時代からの仲だったか? しかし、彼女は確か一身上の都合で仕事を辞したはずじゃ……」


 旦那様もメリッサのことを覚えてくれていたようだ。

 まあ、私と近しい人間なのだから、覚えていて当然かもしれない。

 だからこそ、いろんな隠蔽工作が必要だった。

 その一つを彼は信じていたようだ。


「いいえ、本当の理由は違います。彼女が辞めた理由は旦那様と一夜を共にしてしまったからです」

「はあっ!?」


 私の言葉に旦那様は思わず叫んでしまう。

 全く身に覚えがないと言いたいのだろう。

 それは当然である。

 だが、隠すことのできない状況に私は真実を告げる。


「8年前のある日、メリッサは当時のメイド長と共に私に謝罪しに来ました。そして、裏切ってしまったことの罰として死を覚悟していました」

「なぜ? いや、やってしまったのであれば当然のことかもしれないが、そのことをどうして私は知らない?」

「当時の旦那様は酒におぼれていらっしゃいましたから……しかも、その日はメリッサ曰く酷い泥酔状態だったそうです」

「うぐっ!?」


 身に覚えがあったのだろう、旦那様は言葉を詰まらせる。

 そんな彼の反応にムーンライト公爵夫妻の視線が突き刺さる。

 若干非難めいている雰囲気があるのは仕方がない事であろう。

 記憶にないこととはいえ、彼が裏切ってしまったことは事実なのだから……

 まあ、私はそのことについて攻めるつもりはない。

 二人の夫婦生活が上手くいくことがメリッサの望みでもあるからだ。


「メリッサは言っていました。陛下は私の名前を呼びながらことに及んだ、と。そのせいで彼女は無理矢理逃げることができなかった、と」

「なぜだ? 彼女が君から信頼されていることを理解していれば、無理矢理にでも逃げるだろう?」

「泥酔状態で相手が誰かも理解しておらず、自分の愛している人の名前を呼んでいる人に対してですか? そんなことをすれば、平常状態で後を引くことになってしまう可能性がありますよ」

「それは……」


 私の説明に旦那様は反論しようとした。

 しかし、それができずに言葉を詰まらせてしまう。


「彼女が旦那様の勘違いを受け入れてくれたおかげで、私達の夫婦生活は壊れることもありませんでした。現にその日から旦那様はお酒におぼれることはなかったでしょう?」

「……」

「おそらく彼女が事の最中にでも何か言ってくれたのでしょうね。これも彼女の忘れ形見と言ったところでしょうか?」

「……わかった。間違いがあったことを認めよう」


 旦那様は両手を上げ、降参の意を示す。

 自分に記憶がないとはいえ、私の説明を否定できないと思ったのだろう。

 そして、裏切ってしまったことへの負い目があるのかもしれない。

 だからこそ、素直に受け入れたのだ。

 旦那様が受け入れたので、私は次の話題に移ることにした。

 これは私が一番気になったことである。


「その子供の名前は?」

「クリスハルト──クリスハルト=リーヴァ子爵令息よ」

「……そう」


 リリーの言葉に私は納得した。

 メリッサらしい名づけの仕方である。

 もう二度と会うことができなくとも、私のことを思っていることは変わらなかったのだろう。

 だからこそ、私の名前から付けたのだ。

 最後まで私のことを思ってくれたメリッサのことを思うと嬉しい気持ちと同時に悲しい気持ちがあふれてきた。






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