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子爵令息は公爵家に狙われている

ちょっとしたネタ回。

ブックマークは意外と増えているが、まったく評価されていないのが気になって……

こういうネタ回がなかったせいかな?(違う気もするけど……)





 ムーンライト公爵家での生活が始まった。

 といっても、一ヶ月の期限付きである。

 まったく知らない他人の家に住むことになるので、一ヶ月でもかなり長く感じてしまう。

 しかも、今まで自分が過ごしてきた子爵家の屋敷よりも数段階グレードアップした屋敷であり、一部屋でも何倍の広さになっている。

 そんな状況で緊張しない方が無理である。

 しかし、そんなクリスハルトにアレクは告げる。


「一ヶ月の間にこの生活に君は慣れないといけないよ」

「え? どうしてですか?」

「君は一か月後からこの国最高峰の生活を送ることになるんだ。そのためにも我が家で体を慣らしておかないと」

「……」


 アレクの言葉にクリスハルトはどう答えればいいのかわからなかった。

 彼の言う通り、クリスハルトは王城で生活することになるのだ。

 王族の住んでいる場所──つまり、この国で最も高級な場所ということだ。

 たまに行くのならまだしも、今後ずっと生活することになってしまうのだ。

 少しでも早く慣れるためにも、ここで慣らすことはおかしなことではないのかもしれない。

 一ヶ月という期間はそういう意図もあって設定されたのかもしれない。

 とりあえず、お言葉に甘えさせてもらおう──クリスハルトはそう思ったのだが……


「逃げないでくださいっ!」

「い、いやですっ!」


 翌朝から早速問題が起こり、クリスハルトは後悔することになった。

 彼は部屋の中でメイドから逃げていた。


「ん、どうしたんだい?」


 部屋の中の騒がしさが気になったのか、アレクが部屋に入ってくる。

 その後ろには執事のセバスもついてきていた。

 二人ともその騒々しさに驚いているようだった。

 いや、どちらかというと部屋の隅で警戒するクリスハルトとその向かいで逃走経路を塞ごうとするメイドの攻防の様子に驚いているのかもしれないが……


「旦那様、言ってください。高位貴族や王族は一人で着替えをしない、必ず使用人に手伝わせる、と」

「一人で着替えることぐらいできます。それより、どうして知らない人に裸を見られないといけないんですかっ!」


「ああ、そういうこと……」

「起こるべくして起こった問題というわけですね」


 クリスハルトとメイドの言い分にアレクとセバスは納得する。

 あまりにもしょうもない事だったので、セバスは笑いをこらえていた。


「クリス、彼女の言う通りだよ。王族や高位貴族は基本的に自分だけで着替えることはしないんだよ。君も王族になるのであれば、それに慣れないと」

「うっ」


 アレクの言葉にクリスハルトは言葉を詰まらせる。

 自分が王族になることが決定事項であることは理解しているのだ。

 郷に入っては郷に従え──その生活の常識に慣れないといけないわけだ。

 そんなクリスハルトの反応にメイドは「ほら見たことか」といった反応をするが……


「君も問題だよ」

「え?」

「嫌がっている子供に無理矢理押し付けるような真似をすれば、嫌がるのは当然の反応だ。彼は賢い子なのだから、きちんと事情を説明してあげたら受け入れてくれていただろう。どうせ何の説明もせず、当たり前のように着替えを手伝おうとしたのだろう?」

「……はい」


 アレクに叱られ、メイドは落ち込んだ。

 自分の方が正しいと思っていた分、余計に落ち込むことになってしまった。


 メイドを叱った後、アレクは二人とは違う方向を向く。


「さて、それよりどうしてレベッカはここにいるのかな?」


 なぜかクリスハルトの部屋にいたレベッカに問いかける。

 ムーンライト公爵家の屋敷であるので彼女がいることはおかしくはないのだが、着替えをするクリスハルトの部屋にいることは明らかにおかしいのだ。

 そんなアレクの質問に彼女はあっさりと答える。


「クリス様はまだ公爵家の生活に慣れていらっしゃらないでしょう? なので、私がいろいろとお手伝いをしようかと思いまして」

「……なるほど」


 レベッカの言葉にアレクは納得する。

 そんなアレクの反応にクリスハルトは驚く。


「ちょ……それは流石におかしいですよね? 身分が高いと、同年代の異性に着替えの手伝いをされるのですか?」

「安心しなさい。そんなことは一切ないから」


 驚くクリスハルトに落ち着くようにアレクは伝えた。

 そして、レベッカの方を向く。


「レベッカ、はしたないから今後はやめなさい」

「でも、クリス様は怪我をなさっているのですよ? 手伝うのは当然でしょう」

「手伝うのは使用人たちの仕事だ。レベッカのすることじゃないよ」

「でも、クリス様は私を救ってくれたのですから、そのご恩をこうやって返すのはおかしい事ではないはずです」

「……妙な理屈をこねるのはやめなさい。結局は令嬢が令息の着替えを手伝うのはおかしい事には変わりないのだから」


 レベッカの言葉にアレクは頭を抱える。

 一人の父親としては娘を応援したい気持ちはある。

 しかし、だからといって常識はずれなことを許すわけにはいかないのだ。

 こんなことが周囲にバレれば、困るのはレベッカ自身である。

 そうならないためにも、しっかりと注意しないといけないわけだが……


「クリス様、この屋敷にいる間は私にいろいろとお申し付けください。クリス様のためなら、なんでもしますから」

「いや、結構で……」

「そんなことを言わずにっ! こうでもしないと、私の気が収まらないのです」

「いや、そんなに気にしなくても……」


 アレクの注意を無視し、いつの間にかクリスハルトに詰め寄るレベッカ。

 あまりにグイグイと来るせいで、クリスハルトもどう対応していいのかわからなくなってしまっている。

 彼の方がいずれ身分が上となるのだから、多少は強く言っても問題はない。

 だが、今のところはまだレベッカの方が身分が上であること、女性を相手にしていることから下手に行動することができない。


「お嬢様はなかなか情熱的ですね。一体、誰に似たのでしょうね」

「……おそらくリリーだろうな」

「あら、私がどうかなさいましたか?」


「うおっ!?」


 いきなり背後から声が聞こえ、アレクは驚く。

 振り向くと、そこにはよく見覚えのある女性──リリー=ムーンライト公爵夫人がいた。


「貴方達が遅いので呼びに来ましたが、私の話をしていたのですか?」

「いや、していないぞ」

「なら、いいのですが……それよりも」


 夫との会話を終え、リリーは視線をクリスハルトとレベッカの方に向ける。


「彼が噂のクリスハルト殿下ですか?」

「ああ、そうだ。あの金髪は王家の血が流れている証拠だろう?」

「たしかにそうですね。しかも、あの顔立ちは陛下の子供時代とそっくりですよ」

「そういえば、リリーはかつて陛下の婚約者候補だったな」

「ええ、そうだったのですよ。結局、婚約者に選ばれることなく、貴方と結ばれることになりましたが……まあ、私にとっては良かったですが」

「っ!?」


 リリーのクリスハルトへの視線は鋭くなり、それはまるで獲物を狙う肉食獣のようだった。

 向けられていないアレクすら、その視線に少し恐怖を感じた。

 アレクが恐怖で体が竦んでいる間に、リリーは口を開いた。


「レベッカ、はしたない真似は止めなさい」

「お母様っ!?」


 母親に叱られ、クリスハルトに詰め寄ることをやめるレベッカ。

 母親のことを怖いと思っているのだろうか、素直に言うことを聞いていた。

 まあ、優しい雰囲気の父親よりクールな雰囲気の母親の方が怖そうに見えるが……

 とりあえず、レベッカがリリーの言うことを聞いてくれたことにアレクは一安心をした。

 しかし、それは一時だけだった。


「一ヶ月もあるのですから、時間はまだあります。急ぎすぎては成功する者も失敗してしまいますよ」

「は、はいっ、お母様!」


 リリーの言葉にレベッカは感銘を受ける。

 そんな母娘の会話にアレクは少し申し訳ない気持ちになってしまう。

 どうやらクリスハルトは二人にかなり気に入られたようだ。

 公爵夫人と令嬢に気に入られることは世間的には名誉なことであり、羨ましい事のはずだった。

 だが、二人の会話を聞いていると、そんな気持ちは微塵も湧かなかった。


「(すまない、クリス君。無事を祈っている)」


 今のアレクにできるのは、クリスハルトの無事を祈ることだけであった。

 かつての自分と同じようなことにならないように、と。

 しかし、心のどこかでは自分と同じ立場の人間が増えることを喜ぶ感情があることは本人も気付いていなかった。






作者のモチベーションにつながるので、「面白い」「続きを読みたい」と思ったらぜひともブックマークと評価をお願いします。

勝手にランキングの方もよろしくお願いします。


※貴族や王族が一人で着替えをしないと書いてありますが、それはあくまで作者の偏見です。

 気になる人もいるかと思いますが、この作者の世界観ではそういうものだと流していただけると幸いです。


※レベッカ様が明らかに最初とキャラが違うように感じるかもしれませんが、成長と立場や状況の変化により結果として最初のようになります。

 彼女の変化についてはのちに書くつもりですので、それまでは待っていただけると幸いです。

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