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クールな王妃は両思いと気付く


「「誰なん(なのっ)(ですかっ)!」」


 私とメリッサは同時に口に出していた。

 同じように気になってしまっていたのだろう。

 当然の反応である。


「ぷふっ……まったく同じタイミングで同じセリフなんだけど……」


 そんな私たちの反応にグラモラス公爵令嬢は笑いをこらえる。

 私と同じ公爵令嬢とは思えない反応である。

 だが、こういうところが周囲に人が寄ってくる理由なのかもしれない。

 まあ、私にはまねできないことだと思うけど……

 それよりも今は彼女の好きな人である。


「それで誰なのよ。王太子殿下よりも魅力的な人なんているとは思えないんだけど?」

「ムーンライト公爵令息よ」

「ん?」


 彼女の言葉に私は首を傾げる。

 まったく誰だかわからなかったからである。

 もちろん、ムーンライト公爵家は知っている。

 この国に古くからある家系であり、王家を支えてきた公爵家の一つだから知らない方がおかしい。

 だが、その令息の存在は知らなかった。

 そんな私の反応を見て、グラモラス公爵令嬢は呆れたような視線を向けてくる。


「やっぱり知らなかったようね」

「えっと……ごめんなさい」


 彼女の言葉に私は謝罪をする。

 彼女の好きな人のことを知らなかったのは失礼だったかもしれない。

 何の魅力もない、見る価値もない人だと認識したと思われたかもしれない。

 そんな私の思いとは裏腹に、彼女は勝手に納得する。


「別に良いわよ。他者とほとんど交流をしないクリスティーナがあったこともない人のことを知っているはずがないもの」

「うぐ……」

「まあ、それでも最低限は有名な家の家族構成と繋がりのある家ぐらいは把握しておいた方が良いわよ。将来は王妃になるんだから」

「……わかっているわよ」


 彼女の言葉に私は視線を逸らす。

 私の苦手なことだからである。

 勉学の一環でこの国の地理について勉強していけば、自ずとその領地を治めている貴族やどんなことを生業としているのかを知識として手に入れることはできる。

 しかし、それでは現状の家族構成などを理解することはできない。

 そういうことは実際に会ったりすることで情報を得るものなのだ。

 人付き合いの苦手な私にできるはずがない。


「まあ、それはあとにするとして……今はアレク様のことね」

「アレク様っていうのね。一体、何者なのかしら?」


 私は首を傾げる。

 ムーンライト公爵令息のアレク様──聞いたことがなかった。

 同級生にそんな人がいれば、直接の面識がなくとも知っていそうなものではあるが……


「私たちよりも3歳上の男性よ。学院で一緒に過ごすことはなかったわね」

「え? じゃあ、どこで出会ったの?」


 グラモラス公爵令嬢の言葉に私は驚く。

 3歳も年上の男性と一体どこで出会ったのだろうか?

 学院でも一緒に過ごしていないのに、まったくわからないのだが……

 そんな私の反応に彼女はため息をつく。


「あのね……貴族だったら家同士のつながりがあるし、普通はパーティーなんかで交流があるのよ? むしろ、知らないクリスティーナの方がおかしいのよ?」

「……」


 否定できなかった。

 たしかにその通りなのかもしれない。

 私の基準で考えていたが、そもそも私が貴族令嬢としてはおかしい部類に入っていることを自覚しておくべきであった。

 そうなると、3歳程度の差であれば、交流があってもおかしくはなかった。

 視線を逸らした先でメリッサと視線が合った。


「(スッ)」

「っ!?」


 視線を逸らされた。

 そのことに私はショックを受けてしまった。

 見捨てられた? そんな感覚にすら陥ってしまった。

 しかし、あることに気が付く。


「メリッサも同じじゃない。パーティーにも出ていなかったんだから、他の家と交流することなんて……」

「公爵令嬢と子爵令嬢を比べるのがそもそもおかしいんじゃないかしら?」

「うっ!?」


 私の言葉にグラモラス公爵令嬢が反論する。

 その言葉が私の心に刃のように刺さる。

 かなり痛い。

 だが、そんな私に彼女はさらに追い打ちをかける。


「それに彼女は王都のパーティーなどには参加していなかったけど、周囲の領地の貴族が主催しているパーティーや茶会には参加していたみたいよ? だから、近隣の同じくらいの貴族とは交流があるはずよ」

「そんなっ!? 裏切っていたの、メリッサっ!? 信じていたのに……」


 メリッサに私以外の友達がいる可能性に思わずショックを受けてしまう。

 つい最近できた初めての友達であるため、そんな感情になってしまったのだ。

 別に私と友達になる前でも地元に他の友達がいてもおかしくはない事にこの時の私は気付いていなかった。


「別に他に友達がいたとしても、貴女を裏切ったことにはならないでしょう?」

「それはグラモラス公爵令嬢にはたくさんの友達がいるからそう思うんでしょう?」

「いや、そういうことではないと思うけど……それよりも気になることがあるんだけど?」

「何よ」


 グラモラス公爵令嬢が話を切り替えようとしたので、私は思わずムスッとしてしまう。

 このときはメリッサの地元の友人事情を早く問いただしたかったのだ。


「それよりもいつまで私のことを「グラモラス公爵令嬢」なんて他人行儀で呼ぶのかしら?」

「え?」


 話題の変更先が予想外の方向だった。

 思わず呆けた声を出してしまう。

 しかし、彼女からすれば、そこまでおかしなことではなかったようだ。


「私は「クリスティーナ」と呼んでいるわよね? それなのに、どうして貴女は家名に公爵令嬢をつけて呼んでいるのかしら?」

「え? だって、昔からそう呼んでいるし……」

「呼んだことないじゃないっ! 少なくとも、私はクリスティーナから名前を呼ばれたことすらないんだけど?」

「まあ、ほとんど話したことがないから……一応、敵対している者同士だし?」


 彼女の言葉に私は反論をする。

 そういえば、彼女に対して面と向かって名前を呼んだことはなかった。

 だからこそ、彼女が知らないのはしょうがない事である。


「敵対していないことはわかったんだから、そんな他人行儀な呼び方はしなくていいんじゃないかしら?」

「え……でも、そこまで親しくないし……」

「ここまで話しておいてっ!?」


 私の言葉に彼女は驚く。

 そんな反応をするほどなのだろうか?


「家族とか友達でもないのに、名前で呼ぶことなんて難しいわ」

「私としてはもう友達のつもりだったんだけど?」

「でも、急にそんなことを言われても……」

「ああ、もうっ! じれったいわねっ!」


 私の態度に彼女は若干いらだったような反応になる。

 少し怖く思ってしまったのは気付かれただろうか?

 しかし、彼女は私の斜め後ろに視線をやる。


「(ニヤッ)」

「っ!?」


 彼女が嫌らしい笑みを浮かべ、なぜか体が震える。

 何か良くないことがこれから起きそう──そんな風に感じたのだ。


「貴女は私のことを名前で呼んでくれるわよね、メリッサ?」

「なっ!?」


 矛先がメリッサに向いた。

 私はそのことに驚いた。

 敵対していないと言いながら、彼女は私の唯一の友達を奪おうとしているのか?

 そう思ったので問い詰めようとしたのだが……


「「リリー様」でよろしいですか?」

「っ!?」


 メリッサはあっさりとグラモラス公爵令嬢のことを名前で呼び始めた。

 思わず驚愕してしまう。

 足の力が抜けていき、思わずその場にへたり込みそうになる。


「「リリー」と呼び捨てでもいいのよ?」

「それはご容赦ください。一番の友達であるクリス様ですら愛称と様付けで呼んでいるのですから」

「っ!?」


 崩れ落ちそうになるのをすんでのところで止まることができた。

 今、メリッサは何か気になることを言わなかったかしら?


「なら、クリスティーナも呼び捨てで呼べばいいじゃない。友人だったら、それが当たり前でしょう?」

「それは流石にお互いの身分の差が邪魔をします。まあ、二人きりの時になら呼び捨てでもいいと思いますが……」


 グラモラス公爵令嬢の言葉をメリッサはバッサリと断る。

 しかし、私はそれよりも気になることがあった。


「私って、「一番の友達」なの?」

「そうですよ。あたりまえじゃないですか」


 私の問いかけにメリッサはあっさりと答える。

 まだ友達になってから間がないはずなのに、そこまで思われていることに私は驚いた。

 しかし、こんな風に思われたことがないので、私はどう反応していいのかわからなかった。


「……」

「迷惑でしたか?」


 反応しない私を見て、彼女は不安そうな表情を浮かべる。

 それに気づいた私の行動は早かった。


「そんなことないわっ! 私にとってもメリッサは「一番の友達」よっ!」

「本当ですかっ!」

「ええ、もちろん。これで私達は両思いね」

「……それは語弊があるのでは? まあ、いいんですけど……」


 メリッサが最後に何か呟いていたが、舞い上がっていた私は聞いていなかった。

 お互いに「一番の友達」だと思っていたことに嬉しいと思っていたのだから、仕方がないだろう。


「あの~、そろそろ話を戻していいかしら?」


 そんな私たちを見て、グラモラス公爵令嬢は呆れたような反応をしていた。






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