クールな王妃はライバルに驚愕させられる
ライバルだけど認めあう関係、良いですよね。
「……何が可笑しいの?」
ようやく落ち着いた様子のグラモラス公爵令嬢に私は問いかける。
いきなり大声で笑い始めたので驚いてしまったが、笑われた原因が私たちなのであれば嫌な気分になってしまう。
私達は別に笑わせるために行動しているわけではない。
何が原因なのかもわからないけど……
「いや、まさかあのクリスティーナがこんな親しい友人を作るとは思っていなくてね」
「……それは私に対する侮辱かしら?」
グラモラス公爵令嬢の言葉を聞き、私は彼女を睨みつける。
喧嘩を売っているのであれば、言い値で買おう。
総合的な能力は負けていても、一対一では負けるつもりはない。
そんな私の気迫に気づいてか気づいていないのか、彼女は話を続ける。
「別に馬鹿にしているつもりはないさ。クリスティーナに友達がいなかったのはクリスティーナ自身に問題もあるけど、周囲にも問題があるからさ」
「周囲にも、ですか?」
グラモラス公爵令嬢の言葉にメリッサが反応する。
内容が気になったのだろう。
私としては、私自身に問題があるという発言の方が気になるのだが……
明らかに喧嘩を売っているだろう。
「クリスティーナに友人がいない一番の原因は他者と関わるのが苦手なクリスティーナの性格よ」
「……」
喧嘩を売っているのはわかった。
しかし、否定はできなかった。
これは私自身も自覚していることだったからである。
社交性のあるグラモラス公爵令嬢と比較しなくとも、その能力があまりにも低い事は自分でもわかっていた。
「けど、それだけで友人ができないわけじゃない。現に君はクリスティーナの友達になった。では、何が原因で今まで友達ができなかったでしょうか?」
「え? それは……」
グラモラス公爵令嬢の質問にメリッサは考え込む。
おそらく本気でわかっていないのだろう。
自分のことといっても、考えて行動したわけでもないのでわかる方が難しいのだ。
ちなみに、私もわからない。
そんな私たちの様子を見て、グラモラス公爵令嬢は答える。
「それは誰も「クリスティーナと対等な立場に立とうとしなかったこと」よ」
「「はい?」」
彼女の言葉に私たちは呆けた声を漏らす。
予想外の答えだったからである。
しかし、彼女は真剣な様子だった。
「クリスティーナは非常に優秀よ。文武両道、容姿端麗──少し怖めの顔立ちと社交性のなさを除けば、王太子の婚約者筆頭になって当然の人物よ」
「……それは褒めているのかしら?」
一瞬、褒められたのかと思ったが、一部批判も入っているので素直に喜べない。
自覚している内容なので、否定することもできないが……
「完璧な部分と苦手な部分がどちらも人を寄せ付けなくなってしまう原因となってしまったの。前者は人を寄せ付けない孤高の存在として、後者は人付き合いのできないボッチとして、ね」
「……やっぱり馬鹿にしているわよね?」
やはりこの女は私を馬鹿にしている。
自分には多くの友人がいるからって、友達のいなかった私のことを馬鹿にしているのだろう。
だが、その企みも今日までである。
今の私にはメリッサがいるのだから──そう思っていたのだが……
「クリスティーナは勘違いしているようだから、一言言っておくわ」
「……何かしら?」
「私が友人と呼ぶのは片手で数えられる人数しかいないわよ」
「は?」
予想外の言葉に私は公爵令嬢にあるまじき反応をしてしまう。
だが、それは仕方がない事であろう。
社交性のない私と対照的に社交性がかなりあるグラモラス公爵令嬢なのだ。
当然、友人はかなりの数いるはずだが……
そんな私の疑問に彼女は答える。
「基本的に私の周りにいるのは、私や私の家の権力にすり寄ってくる塵芥どもよ。そんな奴らを友人と呼ぶわけないじゃない。まあ、向こうは勝手に私のことを友人と呼んでいるかもしれないけどね」
「……」
彼女の言葉に私は何も言えなくなった。
もちろん、彼女の言わんとしていることはわかる。
私たちと仲良くなろうとする人物の大半は権力が目当てなのだ。
そのことはわかっているつもりだった。
しかし、そんな人物たちすら私には寄ってこなかったのだ。
その真実を考えると、非常に悲しい気持ちになる。
「私が本音を話すことができるのは片手で数えることができる人数しかいないわ。それが私の友人と呼ぶに値する定義ね」
「……それでも私より多いわね」
かなり選り好みをした状態でも私より人数が多い、その事実が私を傷つける。
だが、そんな私にグラモラス公爵令嬢は驚きの事実を告げてくる。
「ちなみにその一人が貴女よ、クリスティーナ」
「えっ!?」
突然の言葉に驚くしかできなかった。
いきなり友人扱いされたのだから、驚いて当然だろう。
いつの間に私は彼女の友人の合格基準に達したのだろうか……
まったくわからない。
「貴女には自覚はないかもしれないけど、王太子の婚約者候補ってかなり孤独な立場なのよ? 権力を使ってすり寄ったとか言われたり、その立場にあやかろうとしたり、ほとんどの人がそんな反応になるのよ」
「……まあ、そうね」
彼女の言葉に私は納得する。
後者については経験はあまりないが、前者については心当たりはある。
私にも嫌味を言われたことぐらいはある。
「そんな特殊な状況をクリスティーナなら共感することができるの。だって、似たような立場なんだから」
「……」
たしかに言われてみると、そうかもしれない。
公爵令嬢で王太子の婚約者候補──この特殊な二つの点は私とグラモラス公爵令嬢の共通項であろう。
しかし、普通はこの二つが共通項であれば、敵対するものではないだろうか?
「でも、貴女は私のことが嫌いなのでは?」
「え? なんで?」
「なんでっ!?」
グラモラス公爵令嬢の反応に私が驚く番であった。
どうしてそんな反応なのだろうか。
「だって、私は貴女にとって王太子の婚約者になるためにもっとも邪魔な存在よ? もっとも排除すべき存在よね?」
私は思わず問いかける。
いくら共通項で結ばれようとも、ライバル関係にあることには変わりない。
それがこの国の女性としての実質トップに立つためであれば、その関係は不可避だと思っていたのだが……
「じゃあ、クリスティーナは私を排除しようと思った?」
「え?」
しかし、返ってきたのは予想外の質問であった。
ここでそんな質問が返ってくるとは思っていなかった。
私は答えあぐねてしまう。
「たしかに私とクリスティーナは王太子の婚約者候補の座を争うライバルかもしれないわ。でも、明確な悪意を向けていない相手に悪意を向けるなんてマネは私はするつもりないわ」
「……」
「私にとって、クリスティーナは同じ境遇を、苦しみを分かち合う仲間──戦友みたいなものよ。それも一種の友人じゃない?」
「……否定はできないわ」
グラモラス公爵令嬢の言葉に私は否定することはできなかった。
口達者な彼女の言葉に言いくるめられた感は否めない。
だが、口下手な私では反論することができないのだ。
しかし、事態は予想外の方向に進んでいく。
「ちなみに私がクリスティーナを敵だと認定していないのには他にも理由があるわ」
「何かしら?」
「私、別に王太子の婚約者になりたくないわ」
「「え?」」
突然の告白に私だけではなく、メリッサも呆けた声を漏らす。
一体、グラモラス公爵令嬢は何を言ったのだろうか?
自体が呑み込めない私たちに彼女ははっきりと宣言した。
「私、好きな人がいるの。もちろん、王太子以外の人よ?」
「「ええええええっ!?」」
はっきりと告げられた衝撃の事実に私たちは驚愕の叫びをあげてしまった。
上位であろうが下位であろうが関係ない、令嬢としてはあまり好ましくない反応である。
しかし、私達はそんな反応をするしかなかったのだ。
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