クールな王妃は初めての友達ができる
友達がいない学生生活──辛いですよね。
侯爵令嬢たちが逃げてしまったので、この場には私とリーヴァ子爵令嬢だけが取り残された。
お互い話したことはないので、どうすればいいのかもわからない。
ある意味では二人とも有名という共通点はあるが、それで話が弾むとは思えない。
こういう時に上手く話ができるなら、私の人生はもっとうまくいくはずなのだが……
「あの……」
「ん?」
「ありがとうございました」
「……何がかしら?」
いきなりの感謝の言葉に私は冷たく返してしまった。
もちろん、怒りの気持ちなど微塵もない。
どちらかというと、どうして感謝の言葉を告げられたのか──困惑の気持ちが強いのだ。
そんな私の疑問にリーヴァ子爵令嬢は答える。
「あの令嬢たちから私を助けてくれたことです」
「あれは私が気に食わなかったからやったことよ」
感謝された理由は理解できた。
しかし、感謝されるようなことをしたつもりはなかった。
元々介入するつもりはなかった。
だが、成り行きで出ていくしかなかったのだ。
だからこそ、感謝の言葉を言われることではないと思うけど……
「それでも、です。私が助けていただいたことには変わりありませんから」
「……そう」
彼女は笑顔で答える。
噂で勉強だけの陰気な人間かと思っていたが、感情もしっかりと表に出すタイプの人間の様だ。
むしろ、陰気な人間は私の方かもしれない。
そんなことを考えたせいか、思わず視線をそらしてしまった。
「何かできることはありませんか?」
「え?」
いきなりの言葉に私は呆けた声を漏らす。
一体何を言われたのか、まったくわからなかったからである。
私の戸惑いに気づいたのか、彼女は話を続ける。
「助けていただいたで、ぜひ何かお礼をしたいです。といっても、私のような末端貴族令嬢がフォンティーヌ公爵令嬢様を満足させることのできるお礼はあまりないでしょうが……」
「別に気にしなくていいわ。お礼をされたくてやったわけじゃないもの」
私は本心からそう告げた。
お礼をされたいがために助けたわけじゃないのだ。
別に満足するお礼も欲しいわけではない。
むしろ、そんなことで彼女に負担をかけるようなことはしたくがなかったのだ。
そんな私の気持ちに気づいていないのか、子爵令嬢は首を振る。
「それでは私の気が済まないんです。本当に何かありませんかっ!」
「何か、って言われても……」
彼女に詰め寄られ、私は少し考える。
本当にしてほしいことはないのだ。
私は公爵令嬢──この国の中枢にいる家の人間であり、望むものはたいてい手に入れることができる。
そんな私が欲しいものなど……
「あっ」
「何かありますか?」
私はあることに気が付き、思わず声を漏らす。
その声に彼女は反応した。
恩を返すことができると思ったのだろう。
「なら、私と友達になってくれないかしら?」
「えっ!?」
今度は彼女が驚く番だった。
まあ、その反応は仕方のない事だろう。
なぜなら、公爵令嬢から友達になって欲しいと言われることなど普通はあり得ないからである。
しかも、恩返しの一環で、だ。
状況が分からず、彼女はあたふたと周囲をキョロキョロ見回す。
この状況を解決できる答えはそこにはないわ。
「できることならやってくれるのでしょう? 友達になるぐらい、簡単なことじゃないかしら?」
「そ、それは……」
私の言葉に子爵令嬢は困った表情を浮かべる。
困らせるつもりはなかった。
だが、私としては本当に友達が欲しいと思っていたのだ。
だからこそ、こんなふうな言い方になってしまったわけだ。
友達がいないのは自分のくせに……
「嫌なのかしら?」
「えっ!?」
「まあ、当然よね。私みたいな女の友達なんて、面倒だと思うのが当然だもの。この話は忘れてくれてもいい……」
「そんなことありませんっ!」
「っ!?」
先ほどの頼みを取り消そうとした瞬間、子爵令嬢は叫んだ。
近くで叫ばれたので、思わず驚いてしまった。
だが、興奮した様子の彼女は勝手に話を進めていく。
「フォンティーヌ公爵令嬢様は素晴らしい女性です。同性の私から見ても、とてもあこがれの存在です。そんな方と友達になれるなんて、これ以上の名誉はないでしょう」
「そ、そう……でも、嫌なのよね?」
彼女の言葉に私は若干引いてしまう。
名誉に思ってもらえるのは嬉しいが、これ以上の名誉はないことはないだろう。
たしかに公爵令嬢は身分としては高いかもしれないが、それ以上の身分だって存在する。
そんな人たちと友達になると仮定した場合、そちらの方が名誉ではないだろうか?
他にも、より名誉なこともありそうだし……
「いいえ、むしろ逆です」
「逆?」
子爵令嬢は首を振る。
そんな彼女の反応に私は首を傾げてしまった。
「逆」というと、「嫌ではない」ということになるが……
疑問に思う私に彼女は説明をする。
「フォンティーヌ公爵令嬢様が私のような者と友達になることが嫌になる、という意味です」
「ああ、そういう意味で逆、ね。でも、どうしてかしら?」
彼女の言っている意味は理解できた。
しかし、どうしてそう思ったのかは理解できなかった。
こちらから頼んでいることなのに、私には彼女と友達になることが嫌になる理由はないと思うが……
「私は今までずっと領地で過ごしてきました。ほとんど勉強ばかりの生活で、話をするのは家族だけ、友人と呼べる存在もいませんでした」
「……」
「だからこそ、私は友達付き合いというものがまったくわかりません。そんな私がフォンティーヌ公爵令嬢様とお友達になるなんて、おこがましすぎます」
「……なるほど」
彼女が提案を拒否した理由は分かった。
彼女なりの事情があったようだ。
まあ、その話を聞く限り、彼女の気持ちはわからないでもない。
友達のいない下級貴族の令嬢が様々な人と交流しているであろう公爵令嬢と友人になれるはずがない──そう思うのは当然だろう。
逆の立場であれば、私だってそう思うだろ。
しかし、彼女は勘違いをしている。
「だから……」
「なら、友達になるべきね」
「どうしてっ!?」
私の結論に彼女は驚く。
自分の思いとは裏腹に、真逆の結論になっているからである。
今までの話は一体何なんだ、という気持ちで一杯だろう。
しかし、私にだって考えはある。
「だって、私達は似た者同士だもの」
「え? 似た者同士、ですか?」
子爵令嬢は首を傾げる。
言われている意味が理解できないのだろう。
「だって、私も友達がいないもの」
「えっ!?」
彼女はとても驚いていた。
それは驚くだろう。
普通、公爵令嬢といえば、友達ぐらい多いと思うのが普通だろう。
友達ではなくとも、周囲には誰かしら常にいるはずだ。
だが、よく考えて欲しい。
学院に入学してから、私の周囲に人がいるのを見たことがあるだろうか?
いや、いないはずだ。
私を姿で判断することができるということは、彼女は学院内で私のことを見たはずである。
なら、その現状も知っていると思うが……
「というわけで、似た者同士で仲良くしましょう」
「……えっと」
「嫌なのかしら?」
「……友達になります」
結局、彼女が折れることになった。
ちょっと卑怯な手を使ってしまったかもしれないが、これは仕方がないことだ。
お互い初めての友達になるためだ、どんな手を使ってでもしないといけなかったのだ。
「というわけで、私のことはクリスティーナ、って呼んでね。私もメリッサと呼ぶから」
「ちょ、そんなことできるわけが……」
「友達は呼び捨てで呼び合うものでしょう?」
慌てふためく彼女に私はそう告げる。
親しい者同士、名前で呼び合っているように思えるが……
「それは本当に親しい者同士か身分の近い者に限られます。友達になったとはいえ、私とフォンティーヌ公爵令嬢様には身分差があります」
「……むう」
「わかってください。明日からいきなり私が名前で呼んでいる姿を見れば、周囲の人はお驚いてしまうはずです。そして、さらに悪い噂が流れることになるでしょう」
「そんなことなら私の権力でどうにか……」
「友達はそんなことしないと思いますが?」
「……それはたしかに」
彼女の言葉に私は渋々納得する。
たしかに友達の範疇を超える行動かもしれない。
これは私の望んでいた関係ではない。
仕方がないので諦めることにする。
だが、彼女もすべて自分の思い通りにするつもりはなかった。
「ですが、他人教義すぎるのもどうかと思います。というわけで、クリス様とお呼びしてもよろしいですか?」
「もちろんよっ!」
彼女の提案に私は気持ちが昂るのを感じる。
友達に愛称で呼ばれる──これほど気持ちがいいものなのか。
「これからよろしくね、メリッサ」
「はい、クリス様」
私達はお互いを呼び合う。
二人の間に思わず笑みがこぼれた。
こうして私は初めての友達──いや、親友と呼ぶべき存在を手に入れた。
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