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公爵令嬢は男爵令嬢に一目惚れの話をする


「世間一般にはそう思われているわね。いえ、おそらくクリスハルト様もそう思っているはずよ」

「……では、レベッカ様は違うということですか?」


 私の言葉の意図を読み取ってくれたのか、セシリアさんは質問してくれる。

 やはり彼女は非常に頭がキレるようだ。

 少なくとも貴族になって三年でAクラスの上位陣に食い込むぐらいには頭が良いようだ。


「ええ、そうよ。元々は私が望んだからこの婚約が結ばれたの」

「そうなんですか?」

「初めて会ったときに私はクリスハルト様に恋してしまったの──いわゆる一目惚れ、と言う奴ね」

「そうなんですねっ!」


 私の話を聞き、セシリアさんは目を輝かせる。

 彼女も女の子なのだろう、恋愛話は好きなようだ。


「クリスハルト様と初めて会ったとき、私は誘拐されそうになっていたわ」

「いきなりなんでっ!?」


 セシリアさんは驚く。

 まあ、公爵令嬢がいきなり誘拐されるという状況、驚かない方がおかしいだろう。

 普通に考えれば、そんなことが滅多に起こる立場ではないのだから……

 だが、実際に起こったのだから仕方がない。


「小さい頃の私は何にでも興味を示すような子供でね、王都の街で開催されている祭りに興味を示したのよ。そこで両親に頼み込んで、出かけさせてもらったの」

「……まあ、ありそうな話ですね。ですが、護衛の人たちもついていたのでは?」

「ええ、もちろんよ。でも、その日はお祭り──いつもよりも格段に人が多くて、通りも混雑していたの。そんな状況下で当時8歳の子供が紛れ込んでしまったら?」

「……見失うということですか?」

「ええ、そういうこと」


 彼女の答えに私は頷く。

 状況を創造する力もあるのだろう、彼女の表情はみるみる青ざめていた。

 8歳の少女が護衛と離れてしまった状況で、どれほど恐怖を感じたのか想像したのだろう。

 だが、話の本題はここではない。


「裏路地に迷い込んだ私は暴漢たちに遭遇し、捕まってしまったわ。そして、変態貴族に売られてしまいそうになったわ」

「……展開が早いですね」

「正確に言うと、もっと段階はあると思うけどね。でも、暴漢たちがそんな話をしていたから、行きつく先は大体想像つくわ」

「まあ、幼い子供を誘拐する理由は限られてくるから、想像はできますね。想像したくはないですが……」


 セシリアさんは嫌そうな表情を浮かべる。

 変態貴族が幼い子供を買うのを想像したのだろう。

 そんなことを想像したのだから、気持ち悪くなるのは仕方がないだろう。

 普通の感性を持っていれば、まずそんなことをしたいとは思わないのだから……


「そこで偶然クリスハルト様が助けに来てくれたの」

「偶然、ですか?」


 私の言葉にセシリアさんが首を傾げる。

 偶然、という表現が気になったのだろう。


「クリスハルト様の方にも当時いろいろあったのよ。本当にたまたま同じ裏路地に迷い込んでしまったの」

「……それはまた」


 セシリアさんは何とも言えない表情を浮かべる。

 クリスハルト様が同じ状況に陥ったことは幸か不幸かどちらともとれると思ったのだろう。

 まあ、普通に考えれば、不幸だとは思うのだが……


「クリスハルト様は体を震わせながら、暴漢たちに挑んだわ。当時はまるで王子様が助けに来てくれた、と思ったぐらいよ」

「たしかにそうかもしれませんね。そこで一目惚れをしたわけですね?」

「そういうことよ。でも、そのときはあっさりと暴漢に返り討ちにあっていたけどね」

「ええっ!?」


 てっきりかっこいい話を聞けると思っていたのだろう、セシリアさんは驚きの声を上げる。

 だが、これは至って当然の話だろう。


「大の大人三人相手に8歳の子供がどうにかできると思って?」

「……無理ですね」

「勇敢なのは認めますけど、あれはまさに無謀とか蛮勇というものです。お父様もクリスハルト様にそれを注意していましたわ」

「まあ、そうでしょうね」


 私は当時のことを思い出す。

 クリスハルト様は私を助けようと思い、咄嗟に行動をしたのだろう。

 あの頃はそんな優しい行動を取れるような人だった。

 それが一体、どうして……


「とりあえず、それをきっかけにクリスハルト様の存在を知ることになったの。公爵家としては、クリスハルト様の存在を秘匿するわけにもいきませんから、王家に迎え入れられることになったわ」

「それで第一王子になったということですね」

「そういうことよ。ですが、王妃の実の息子ではなく、子爵家出身のクリスハルト様に後ろ盾はない。このままではクリスハルト様の王城での立場はかなり危ういものになるわ」

「王族の血が流れているのに、ですか?」


 私の説明にセシリアさんは純粋な疑問を投げかけてくる。

 彼女の立場からすれば、おかしく思うのは当然だろう。

 しかし、それは彼女が平民出身の男爵令嬢だからである。

 もちろん、馬鹿にしているわけではない。

 だが、生きている場所が違いすぎるのだ。


「ええ、そうよ。身分が高いほど、血を重要視するようになってくるの。同じ父親から生まれたとしても、母親が違うとより高位な身分の方に軍配が上がるの」

「元公爵令嬢と子爵令嬢の差ですか?」

「ええ、そういうこと。どちらが権力的に上かは理解できるでしょう?」

「……はい」


 少し考えてからセシリアさんは頷く。

 これはたとえ関係なくとも、理解出来ることであろう。

 先ほどの侯爵令嬢ですら理解できるだろう。


「もちろん、陛下や妃殿下はクリスハルト様もハルシオン様も平等に扱おうとしたわ。でも、王族である以上は跡取り問題を避けて通ることはできないの」

「……実子である第二王子を優先した、と?」


 私の言葉にセシリアさんはそう思ったようだ。

 まあ、今のは私の説明が悪かったと思う。


「いえ、陛下と妃殿下は平等に扱おうとしていたと思うわ。といっても、妃殿下は素直な人ではないから、表面的にはクリスハルト様に優しくしているようには見えなかったでしょうけどね」

「そうなんですか?」


 セシリアさんが純粋に驚いたような反応をする。

 クリスティーナ様に会ったことがないのだから、仕方がない事かもしれない。


「妃殿下──クリスティーナ様はとても優しい人よ。でも、クールで綺麗な雰囲気だから──いえ、あまり感情を出すことが得意ではないから、そのような雰囲気だと思われがちなのよ」

「……なんか見る目が変わりそうですね」

「噂とは全く違うのは事実ね。でも、しっかりと人間味のある人だし、私はクリスティーナ様のことが大好きよ」

「レベッカ様の反応からそれはわかりますよ」


 私の言葉にセシリアさんは頷いてくれる。

 私の気持ちを理解してくれたのはとても嬉しい。

 だが、今はそんなことを悦んでいる時ではないのだ。


「でも、クリスハルト様はそうは思えなかったのでしょうね。まあ、他にもいろいろな事情があるのでしょうけど、クリスハルト様は自分が第一王子であることを認められていないと思ったのでしょう」

「そうなんですか?」

「これはあくまでも私の想像よ。でも、真面目で優しかったクリスハルト様があんな風になるなんて、一番考える理由はこれぐらいよ」

「……」


 私の説明を聞いたセシリアさんが何か考えこむような反応をする。

 その表情は真剣で、私は話を続けるのをためらうほどであった。






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