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子爵令息は亡くなった母の話を聞く




「そ、そんなこと……ありえないですっ!」


 クリスハルトは思わず叫んでいた。

 到底信じられる内容ではなかったからである。

 リーヴァ子爵家で生まれ育った自分がまさか王族であるなんて、そんなことがあり得るはずがないのだ。

 しかし、そんなクリスハルトの反応に驚いた様子もなく、男性は話を続ける。


「いや、あり得ない話ではないよ。これは事実だ」

「どうしてそんなことがわかるんですか?」

「それは君の髪だ」

「髪?」


 男性の言葉にクリスハルトは聞き返す。

 どうしてクリスハルトの髪が王族であることを示す証明になるのだろうか?


「クリスハルト君は王族であることの証明する一番わかりやすい方法が何だか知っているかな?」

「……知らないですが、髪に関することですか?」

「察しが良いね。正確に言うと、髪の色が王族の血が流れていることの証明となる」

「髪の色が?」


 クリスハルトが驚く。

 まさかそんなことが王族であることの証明となるとは思わなかったのだ。

 今でもまだ信じられない。

 だが、男性の方は至って真剣な表情であった。


「遺伝、という現象だね。王族として生まれた子はほとんど金髪となるのさ。まあ、時折例外が現れることもあるみたいだが、そんなものはごく僅かだ」

「王族以外にも金髪はいるのでは?」

「君はそんな人に出会ったことがあるかい?」

「いえ……ないです」


 男性の質問にクリスハルトは首を振る。

 つい先日まで、クリスハルトはほとんど人と会ったことはなかった。

 なので、人々がどんな髪色なのか気にすることもなかったのだ。


「たしかに王族以外に金髪である者たちもいる。しかし、それは先祖に王族の関係者がいることに他ならないんだ」

「え?」

「例えば、とある公爵家の一族も金髪なのだが、現当主の三代前が王弟だったんだ。その血が受け継がれたため、公爵家に生まれている子たちのほとんどは金髪になってしまったわけだ」

「……」


 男性の説明にクリスハルトは何も言えなくなった。

 まだ完全に信じることはできない。

 しかし、ここまで言うということは本当なのかとも思ってしまう。

 クリスハルトの知らない知識だってまだまだあるのだから……


「君の髪色は明らかに金だ。それは君が王族の血が流れていることの揺るがない証明となるわけだ」

「……そんなことを知っているあなたは何者なんですか?」


 ここでクリスハルトは純粋な疑問を投げかける。

 こんなことを知っているなんて、この男性は一体何者なのだろうか、と。


「私はアレク=ムーンライト──ムーンライト公爵家の現当主さ」

「公爵様ですかっ!? すみません、今までとんだ無礼を……」


 男性──アレクの正体に気づき、クリスハルトは慌ててしまう。

 目の前にいた人が自分より身分が上の人だとは思っていたが、まさか圧倒的に身分が上の人だとは想像だにしていなかった。

 そんなクリスハルトの反応にアレクは苦笑する。


「子供がそんなことを気にしなくていいさ。しかし、礼儀はしっかりしている子だね」

「……亡くなった祖父が教えてくれましたから」

「リーヴァ前子爵のことだね」

「はい」

「……なるほど」


 クリスハルトの言葉を聞き、アレクが何か納得したようだ。

 その反応にクリスハルトは思わず質問してしまう。


「何かわかったんですか?」

「ああ、そうだよ。といっても、あくまで推測の域を出ないけどね」

「教えてくださいっ!」

「わかったよ。おそらく君のお爺さん──リーヴァ前子爵は何らかの理由で君を自分の手元に隠しておきたかったんだよ」

「隠しておきたかった?」


 アレクの説明にクリスハルトは首を傾げる。

 祖父がどうしてそのようなことをしたのか、まったく理解できなかったからである。

 そんなクリスハルトを見て、アレクは説明を続ける。


「先ほど言った通り、君に王族の血が流れていることは明らかだ。金色の髪から君が王族であるとわかる人は多いはずだ」

「そういう人から守るため、ということですか?」

「まあ、そういうことだな。子爵家で生まれた、ということもネックになってくる」

「それがなんですか?」

「君を次の国王にして、傀儡にしようと企む輩も出てくると思ったのだろうね。そんなことにならないためにリーヴァ前子爵はできるだけ君を隠そうとしたわけだ」

「……」


 アレクの説明にクリスハルトは反論できなかった。

 突飛もない話ではあるが、きちんと筋は通っている。

 しかし、まさか祖父がそんなことをしていたなんて……


「ちなみに君の母親とリーヴァ前子爵の関係はわかるかい?」

「父親と娘の関係ですね」

「なるほど……だから、君と前子爵は孫と祖父の関係なわけだね。ということは、王族の血は父親側から……」


 クリスハルトの言葉にアレクは考え込む。

 父親が誰かを推測しようとしているのだろう。


「あの、よろしいでしょうか?」


 そんなアレクにセバスが話しかけた。


「どうした?」

「たしか10年ほど前まで王城でメリッサという女性が働いていたはずです。そのメリッサはたしかリーヴァ子爵令嬢だったはずです」

「それは本当かい?」

「ええ、もちろんです。妃殿下と学生時代から付き合いがあったらしく、その縁で王城での職を得たそうです」

「なるほどな」


 セバスの説明にアレクが納得する。

 その話を聞いていたクリスハルトも納得せざるを得なかった。

 なぜなら……


「母親の名前はメリッサです」

「やはり、か」


 クリスハルトの言葉にアレクは驚きも見せない。

 今までの話から簡単に想像できることであったからだ。


「その当時、城にいた王族の男はわかるか?」

「全員はわかりませんが、陛下と前国王は確実かと……」

「その二人か……しかし、前国王は考えにくいな。あの人は妻一筋の人だったからな」

「ということは、まさかっ!?」

「ああ、お前の思っている通りだ」


 セバスはかなり驚いていた。

 アレクはクリスハルトの方を向く。


「クリスハルト君」

「はい」

「君の父親はおそらく国王であるロトス=サンライズ陛下の可能性が高い」

「えっ!?」


 衝撃の事実にクリスハルトは呆けた声を出してしまった。

 これは驚くのが当然であろう。

 百歩譲って、彼に王族の血が流れていることを認められたとしよう。

 しかし、それがまさか国王の血であったと考えつく者がいるであろうか。

 クリスハルト自身も到底信じられないことだったので、思わず反論してしまう。


「そんなこと信じられませんっ!」

「君の気持ちもわかるが、あながち間違いだとは思えない」

「陛下には妃殿下がいるのですよね? それなのに、使用人の女性に手を出したということはかなりの醜聞になると思いますが……」

「臣下としてはあまり信じたくない話ではないが、そういうことがない話ではない。女好きの国王が城の女に手を出したなんて話も過去にはあったぐらいだ」

「……陛下は女好きなんですか?」

「いや、妃殿下一筋だな」

「じゃあ、あり得ない話じゃないですか」


 アレクの言葉にクリスハルトはそう結論付ける。

 国王が女好きでメリッサに手を出したなら、信じるしかなかったであろう。

 しかし、そうでない──国王が妃殿下一筋であるならば、その前提が崩れるわけだ。

 そうクリスハルトは思ったのだが……


「いや、そうとも言い切れない」

「どうしてですか?」

「その当時、妃殿下は子を宿すことができず、周囲からの視線も厳しかったんだ。そして、当然それは陛下にも向いていた」

「それが一体……」

「そして、君の母親であるメリッサはその時期に職を辞している。そこから考えられるのは……」

「陛下と母が一夜の過ちを犯した。そして、そのせいで母は職を失った、と?」

「そういうことだな」


 クリスハルトの結論を聞き、アレクは頷く。

 少年に聞かせるにはあまりに酷な話だったかもしれない。

 だが、クリスハルトと関わってしまった以上、この話は遅かれ早かれ彼は知っていただろう。

 ムーンライト公爵である以上、クリスハルトをただの貴族令息として放っておくわけにはいかなかったのだ。






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