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公爵令嬢は王妃と考える


「じゃあ、何が原因なのかしら……」


 クリスティーナ様は不安そうに呟く。

 彼女のことを知る人間からすれば、らしくない反応である。

 しかし、それほど彼女は心が参ってしまっているのだ。


「もしかすると、クリスハルト様のことを悪く言う人間がいたのかもしれません」

「……どういうことかしら?」


 私の言葉にクリスティーナ様の視線が鋭くなる。

 目が合った者を震え上がらせるような──そんな視線だった。

 こちらは彼女らしい雰囲気である。

 私に対しての怒りではないとわかっているので、私は普段のままに説明を続ける。


「クリスハルト様は陛下の子供ではありますが、王妃であるクリスティーナ様の子供ではありません」

「っ!? ……そうね」


 クリスティーナ様は「子供ではない」という部分を聞き、体を震わせる。

 事実ではあるが、面と向かって言われるのは精神的に来るのだろう。

 先ほどクリスハルト様と喧嘩をしてしまったことも一因ではあるだろうが……

 しかし、こんなことで説明を止めるわけにはいかない。


「いくら陛下に認められたからとはいえ、クリスハルト様が第一王子になることを嫌がる人間は一定数います」

「たしかにそうね」

「そして、そういう人間がとる行動は──」

「クリスハルトを排除しようとする、かしら?」

「ええ、その通りです」


 私が最後まで言う前にクリスティーナ様は結論を口にする。

 私が尊敬するほど優秀であるクリスティーナ様なら、この程度のことは簡単に推測できるだろう。

 クリスハルト様のことに関しては平常心で考えることができなくなるだろうから、自分で思いつくことはできなかったようだが……

 しかし、私が導きさえすれば、これぐらいは簡単にできるわけだ。


「城の中には多くの人間がいます。大半の人間は陛下に心から仕えているものでしょうからクリスハルト様に対してこのようなことをする可能性は低いでしょう」

「つまり、【反陛下】の派閥ということかしら?」

「ええ、その通りです。まあ、他にもクリスハルト様自身を嫌っている者もいるでしょうが……」

「私の子供ではないから、かしら?」

「はい」

「……はぁ」


 私が頷くと、クリスティーナ様は落ち込む。

 考えを巡らせることができるようにはなったが、それでも精神的なダメージはかなりきついみたいである。

 彼女のこんな弱った姿は今日初めて見た。

 いや、日に日に弱っているようにも見えるので、明日以降もさらに弱った姿を見ることになるのだろうか?

 どうにかしてこの衰退を止めたいものではあるが……

 しかし──


「犯人を見つけることは難しいでしょうね」

「どうして?」

「誰かがクリスハルト様に悪影響を与えたとはいえ、その人物を特定することが難しいからですよ。毎日城には多くの人間がいるのですから」

「ああ、そういうことね。しかも、何時クリスハルトに悪いことを言ったのかもわからないのであれば、特定は不可能に近いわね」

「そういうことです」


 クリスティーナ様の言葉に私は頷く。

 クリスハルト様に悪影響を与えた人間がいるという前提ではあるが、その人物を見つけることはかなり難しい事はわかり切っていた。

 少数派とはいえ、陛下に対して敵意を持っている派閥の人間でも意外と数は多いのだ。

 その全員を疑うことはできても、特定することはできないのだ。

 クリスハルト様に対して悪感情を持つ人間で探す場合でも同様である。

 もちろん、現在の【放蕩王子】としてのクリスハルト様に対して悪感情を持っている貴族は多い。

 しかし、そうなる前のクリスハルト様に対して悪感情を持つ人間となれば、意外と人数を絞ることはできる。

 だが、それでも特定することは難しいのだ。

 なぜなら、その証拠を見つけることができないからである。


「クリスハルトがどうしてあんな風になったのか、原因が判明すれば簡単なんだろうけど……」

「本人に直接聞くわけにもいきませんからね」


 クリスティーナ様の言葉に私は反応する。

 もしそんなことができるのであれば、簡単に解決することもできるだろう。

 しかし、そんなことができるはずもない。

 私たちが直接聞くことなどできるはずもないし、クリスハルト様が素直に答えてくれるとも思わない。

 それほどまでに私たちの関係はこじれてしまっているのだ。


「そういえば、あの子はどこにいるのかしら?」


 ふとクリスティーナ様は呟いた。

 喧嘩した後に別れてから、クリスハルト様がどこにいったのか気になったようだ。

 普段はいないクリスハルト様にとって、城内にはあまり居場所がなかったりする。

 久しぶりに帰ってきてすぐに出て行ったとは思えないので、城内のどこかにいると思われるのだが……

 そんなことを考えていると、メイドの一人が答えた。


「リリアナ様と共にいるそうです」

「リリーと?」


 メイドの言葉にクリスティーナ様は驚く。

 まさか喧嘩した相手が愛娘と一緒にいるとは思っていなかったのだろう。

 少し不安そうな表情を浮かべる。

 怒っているであろうクリスハルト様がリリアナ様に何かするのではないのか、と思っているのかもしれない。

 しかし、本気でそうは考えていないだろう。

 なぜなら……


「仲良く話をされているそうです。リリアナ様はクリスハルト様にべったりと甘えている、と報告が来ています」

「……そう」


 クリスティーナ様は一言呟いた。

 もちろん、驚いている様子はない。

 クリスハルト様とリリアナ様が仲が良い事はわかっていたからである。

 現在、この城内でクリスハルト様と仲良くしているのはリリアナ様だけであった。

 それを良く思わない人間も多い。

 だからこそ、クリスハルト様とリリアナ様が一緒にいることが分かれば、その情報は私たちのもとに急いで伝えられる。

 他にもクリスハルト様からリリアナ様を引き離そうと画策した者もかつてはいた。

 しかし、結果としてその行動は失敗に終わってしまった。

 想像以上にリリアナ様はクリスハルト様のことを好いており、引き離そうとした人間を罰しようとしたからである。

 そんな彼女の行動を止めたのが、クリスハルト様だった。

 王族であるリリアナ様が自分の意にそぐわないからという理由で人を罰するのはまずいと思ったのだろう。

 もちろん、王族である以上はそんなことができる権力はある。

 だからといって、その権力をむやみやたらに振るうのは良くないことなのだ。

 そんなことをしていれば、リリアナ様に悪意が向くことになってしまうのだ。

 そう思ったからこそ、クリスハルト様は彼女を止めたわけだ。

 結果として、クリスハルト様とリリアナ様が一緒にいることを止める者はいなくなった。


「リリーが聞けば、理由を教えてくれるかしら?」

「おそらく無理だと思いますよ」

「まあ、そうよね」


 私の言葉にクリスティーナ様も頷く。

 口にしただけで、無理だとはわかっていたのだろう。

 流石にリリアナ様が聞いたとしても、クリスハルト様が答えることはないと思う。

 仲が良いからこそ、言いたくないこともあるだろうし……


「それにリリアナ様も手伝ってくれないと思いますよ? 大好きなクリスハルト様を裏切ることになるかもしれませんから」

「リリーにそんなことをさせるわけにもいかないわね」


 結局、私達は何の解決策も思いつくことはなかった。

 だが、いろいろと話をしたおかげか、クリスティーナ様は少し元気になったようだ。






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