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公爵令嬢は婚約者を心配する


 それから8年の月日が経ち、クリスハルト様が発見された。

 最初は誰もが信じられないと思っていた。

 陛下だって信じることはできなかったようだ。

 しかし、クリスティーナ様だけは違った。

 彼女が最初にクリスハルト様の存在を認めたからである。

 クリスハルト様の出産時期を逆算し、メリッサ様の件があった時期と合致していることに気づく。

 さらに、メリッサ様の子供であることから、父親が陛下であることも推測した。

 最後に決め手となったのは、クリスハルト様の名前であった。

 「クリス」──クリスティーナ様はこれが自分にちなんだ名前であると思ったらしい。

 メリッサ様は以前、自分の子供にクリスティーナ様の名前の一部をつけたいと希望していたらしい。

 そして、クリスティーナ様はそれを快諾していたらしい。

 そんな過去があったからこそ、クリスティーナ様はすぐにクリスハルト様の存在を認めることができたらしい。


 だが、すぐに認めたからと言って、クリスティーナ様が素直に話しかけることができたわけではなかった。

 もちろん、メリッサ様のことをとっくに許していた。

 元々、怒ってすらいなかったのだ。

 だが、メリッサ様は仕事を辞めてしまい、そのまま二度と会うことができなくなってしまったのだ。

 そんな過去があるせいで、クリスティーナ様はどのように話しかければいいのかわからなかったのだ。

 メリッサ様自身がクリスティーナ様のことを悪く言うとは考えていなかった。

 しかし、他の人からすれば違うように見える。

 特にクリスハルト様を育てていたリーヴァ前子爵からすれば、クリスティーナ様は娘の仇のように見えるかもしれない。

 クリスティーナ様はそんなことを考えてしまっていた。

 さらに、彼女はあまり話し上手ではなかった。

 それも相まって、最悪の出会いとなってしまったのだ。

 その件について、陛下からも怒られてしまったらしい。


 その後、何度もクリスティーナ様はクリスハルト様と会話しようとした。

 しかし、口下手であるクリスティーナ様と嫌われていると思っているクリスハルト様のせいで二人の距離が縮まることはなかった。

 クリスティーナ様から事情を聞いた私は手助けしようとした。

 しかし、「自分で解決したい」と彼女から断られてしまった。

 彼女はプライドが高かったのだ。


 そんな状況が続いていても、周囲の環境はどんどん変わっていく。

 クリスハルト様は第一王子として、周囲に高位貴族の取り巻きが集まった。

 出自もしっかりしており、何か特筆すべき点を持つ者達ばかりで、第一王子の取り巻きとしては十分な者達であった。

 クリスハルト様が優秀であることがわかったので、高位貴族の親たちが子供に仲良くするよう命令する者は多かった。

 しかし、そのほとんどすべてがクリスハルト様の元には残らなかった。

 クリスハルト様の優秀さはそういう人を見抜くこともできた。

 そのおかげもあってか、クリスハルト様の周りには第一王子の権力になびかない、彼の将来を支える優秀な人間だけが残ったわけだ。


 さらに、私との婚約もこの時期に決まった。

 お父様から陛下に打診をしていたが、流石に第一王子の婚約がすぐに決まるわけではなかった。

 もちろん、次代の国王の可能性のあるクリスハルト様に婚約者をあてがい、子孫を残すことが大事だとは考えられていた。

 しかし、クリスハルト様の出自がそれを難しくしていたのだ。

 子爵家の血が混ざってしまっていることで、彼を軽視する者もいた。

 自分達が後ろ盾になり、外戚として王家を支配下に置こうと考える貴族が多かったのだ。

 ムーンライト公爵家はそんなことを全く考えていなかった。

 しかし、そういう家から見れば、ムーンライト公爵家も同じように考えていると思われても仕方がなかった。

 そのため、思ったより時間がかかってしまったのだ。

 しかし、クリスティーナ様のおかげでこの婚約は結ばれることとなった。

 クリスティーヌ様はメリッサ様のためにクリスハルト様を守ってあげたいと思っていた。

 だからこそ、後ろ盾として最も強力なムーンライト公爵家との婚約話は渡りに船だったわけだ。


 しかし、こんな風にうまく進んでいたのに、ある時からおかしなことになってしまった。

 クリスハルト様の評判が徐々に悪くなっていたのだ。

 それがいつからなのかはわからない。

 だが、クリスハルト様がハルシオン様の勉強方法を改善させたという良い評判を最後に悪い評判しか効かなくなってしまったのだ。

 対照的にハルシオン様の評判が上がってきた。

 最初はハルシオン様を次期国王に据えたいと思っている貴族たちによる裏工作かと考えていた。

 しかし、それは勘違いであった。

 もちろん、クリスハルト様の評判を下げようとしている貴族はいた。

 だが、彼らがしようとしている以上にクリスハルト様の評判が下がっていたのだ。

 悪いことを言いすぎると、王子に対する不敬罪で罰せられる可能性があった。

 だからこそ、そうならないレベルでクリスハルト様の評判を下げようとしていたのだ。


 実際はクリスハルト様自身がおかしくなっていただけであった。

 ある時を境に授業をサボるようになっていた。

 それだけならまだ構わない。

 元々優秀であるクリスハルト様なら、多少はサボっても問題ないぐらい優秀だったはずなのだ。

 しかし、徐々に問題が現れ始めた。

 サボりが問題になり始めてから一月経った頃だろうか、家庭教師からクリスハルト様の成績が下がっていることを告げられた。

 もちろん、その教師が悪い可能性が第一に出てきた。

 しかし、その教師はハルシオン殿下にも指導していたのだ。

 ハルシオン殿下は徐々に成績を上げており、その教師は成果を上げていると言える。

 それなのに、クリスハルト様の成績が下がっていたのだ。

 もちろん、教師は二人の王子に差をつけているわけではなかったはずだ。

 だが、クリスハルト様の成績だけが下がっているのだ。


 陛下やお父様はこの件についてはあまり大きく考えていなかった。

 男の子なのだから勉強が嫌になる時期もある、と考えていたようだ。

 聞いた話では学院時代に成績優秀ではあったが、ずっと勉強していたわけではない、との言い分だった。

 もちろん、そういうこともあるだろう。

 しかし、私にはどうもそんな理由ではないように思えたのだ。

 そう思った私はクリスハルト様にきちんと勉強をするように注意をしたのだ。

 そんな私の言葉をクリスハルト様はめんどくさそうな表情で聞き流す。

 それは私を助けてくれた「王子様」からはかけ離れた姿であった。

 私はそんな彼の姿が嫌で、さらに激しく注意をした。

 しかし、それが逆効果であったのか、クリスハルト様と私の距離は開くばかりであった。


 クリスティーナ様も私と同じように考えていたみたいであった。

 メリッサ様の代わりにクリスハルト様をしっかりと育てようと思っていたのだろう、母親代わりとしてクリスハルト様を何度も叱責したらしい。

 彼女の立場や思いからすれば、当然の行動だろう。

 しかし、それも逆効果であった。

 さらに、とんでもない噂が広がり始めた。

 「妃殿下と第一王子はかなり険悪である」──という噂であった。

 誰が広げ始めたのかはわからない。

 だが、クリスティーナ様のクリスハルト様への叱責の様子は城内で行われていたことから、誰もが知ることとなっていたのも事実である。

 その光景を見ていた者が噂を広めたのかもしれない。

 噂の元を探そうとしたが、結局見つけることはできなかった。

 噂を知るものに聞いても、すべてが「誰かから聞いた」ということであったのだ。


 そんな風に城内でのクリスハルト様の評判が悪くなっていった。

 居心地が悪くなったのか、クリスハルト様は城下に降りることも増えていった。

 しかも、城下での評判もかなり悪い。

 市民にすら「放蕩王子」と蔑称で呼ばれるようになっていた。

 しかし、ここでもおかしなことがあった。

 クリスハルト様が城下に繰り出しているのは事実であった。

 彼の姿を見た者も多くいた。

 しかし、クリスハルト様が何らかの悪事を働いているのを見たことがある者がいなかったのだ。

 誰もが「クリスハルト様が王子の責務を放棄し、城下を歩き回っている」と「城下の様々な場所で王族の権力を使って問題を起こしている」という噂を聞いて、広めているようだった。

 この噂は二つセットで広められており、前者は正しい情報だった。

 そのせいでか、後者の情報も正しいと認識されているようだった。

 だが、この二つの噂の出所もわからなかった。


 そんな風にクリスハルト様の評判が悪くなり続け、7年の月日が経った。

 私たちは王立学院に入学する年齢になった。






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