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公爵令嬢は子爵家族の罪状を思い出す


 お父様たちの会話が終わった数時間後、クリスハルト様は無事に目を覚ました。

 頭を打っていたので心配ではあったけど、後遺症などはなにもなかったようだ。

 これは医師がしっかりと診断してくれたので、安心だった。

 といっても、目を覚ますまでは心配だったので、私はずっとそばにいた。


 それからクリスハルト様に事情が説明された。

 もちろん、最初は信じることはできなかったようだ。

 どうやらクリスハルト様はリーヴァ子爵家で生まれたようで、自分が王族であることなど信じられないのは無理もないだろう。

 しかし、お父様たちがしっかりと説明してくれたので、自分が王族であることを信じるしかなかったようだ。


 それからクリスハルト様の全身の傷について、事情を理解することができた。

 どうやら虐待を受けていたというお父様たちの推測は当たっていたようだ。

 話を聞くと、前子爵が亡くなってから次の子爵を継いだ叔父夫婦にクリスハルト様は引き取られたそうだ。

 それまでは全く虐待されていなかったのに、引き取られてから虐待が始まったらしい。

 虐待をしていたのは夫人とその息子だったそうだ。

 その二人が虐待をしていたのであれば、監督不行き届きで叔父も罪に問われるべきだという話になった。

 しかし、クリスハルト様はそれを良しとはしなかった。

 身寄りのない自分を引き取ってくれた感謝の気持ちから、叔父を許してほしいと思ったようだ。

 その程度で許していいのだろうか、と私は疑問に思ってしまう。

 しかし、クリスハルト様は本心からそう頼んでいたようだ。

 だが、流石にクリスハルト様にここまでの傷を負わせてしまって、無罪放免にするわけにはいかなかった。

 いくら知らなくとも、王族相手に虐待をするなんてことは許されていいはずはないのだ。

 とりあえず、クリスハルト様の叔父夫婦とその息子は王家の騎士団に捕えられた。

 夫人と息子は抵抗したそうだが、叔父はクリスハルト様の名前を聞くことであっさりと騎士団の指示に従って捕まったようだ。

 もしかすると、虐待の件は知っていたのかもしれない。

 だからこそ、いずれはこんな時が来ることがわかっていたのかもしれない。


 捕まった叔父夫婦は国王直々に罰を与えられたようだ。

 リーヴァ子爵家は取り潰されることとなり、夫婦は離婚することとなった。

 貴族から平民になることに夫人が耐えきれなくなったので、彼女から言い出したことらしい。

 平民になるよりは、実家の伯爵家にいた方がマシだと思ったのだろう。

 しかし、それをお父様は許さなかった。

 事前に実家の伯爵家に今回の件について伝え、夫人とその息子を伯爵家に迎えさせないようにしたのだ。

 伯爵家の方もそんな爆弾を抱えたくないと思ったのだろう、あっさりとその指示に従ったようだ。

 夫人とその息子は結局平民として暮らすようになってしまった。

 だが、貴族としての贅沢な生活が身に染みてしまっている二人が平民の生活に慣れるはずもなく、すぐに生活は破綻してしまったようだ。

 一年も経たないうちに亡くなってしまったようだ。

 クリスハルト様を虐待したのだから、当然の報いだと当時の私は思っていた。


 叔父は子爵で亡くなった後、この国からいなくなってしまったらしい。

 最初はクリスハルト様の虐待の件を把握していたことから、罰を素直に受け入れようとしていた。

 もちろん、前子爵からクリスハルト様が王族であることは聞いていたらしい。

 だが、子爵を継いだばかりの彼は仕事をこなすことで精一杯であり、クリスハルト様のことまで気にする余裕がなかった。

 そのため、虐待を止めることができなかったそうだ。

 だが、罪はしっかりと認めているので、罰を受けるつもりだったようだ。

 死罪も覚悟している、といった様子だったようだ。

 しかし、クリスハルト様の言葉による情状酌量で平民になることだけで済んだようだ。

 そんな彼は罰を受けた後、すぐに行方を暗ましてしまった。

 子爵とはいえ元貴族が平民となって生き抜くことは難しいので、彼はこの国では死んだことになっている。


 叔父家族のことは当時のクリスハルト様には最後まで伝えていなかった。

 貴族の位を失い、平民になった所まではお父様が伝えた。

 流石に罰を受けたことまで隠すのは怪しまれると判断したようで、平民となったことで二度と会えないということにしたそうだ。

 当時のクリスハルト様はその話を聞いたときは訝しげな表情をしていた。

 しかし、ムーンライト公爵であるお父様の言葉を否定する材料がなかったのだろう、クリスハルト様はその言葉に納得するしかなかった。

 成長したクリスハルト様が本当のことを知っていたのか、私にはわからない。


 叔父家族の件が裏で進行している間、クリスハルト様はムーンライト公爵邸で過ごしていた。

 子爵邸で過ごしていたクリスハルト様は拒否しようとしていたが、帰る場所がない事と将来的に王城で過ごさないといけないことを伝えられたことで、その提案を受けざるを得なかった。

 自分の立場を理解したからこそ、やらないといけないことだと思ったようだ。

 王族として恥ずかしくないよう、しっかりと勉強しようと思ったようだ。

 だが、そんなクリスハルト様のやる気はいきなり出鼻をくじかれることになった。


「勉強? そんなことはさせないよ」

「なんでっ!?」


 お父様の言葉にクリスハルト様は驚く。

 この話は公爵邸で過ごし始めた翌日──二日目の朝のことである。

 着替えの件でメイドとひと悶着が合った後、クリスハルト様がお父様にどんなことをすればいいのかを聞いたのだ。

 自分に与えられた役割を全うしようと決めたクリスハルト様にお父様は先ほどの言葉を伝えたのだ。

 クリスハルト様の反応は当然だろう。

 しかし、お父様の方にも言い分はあった。


「そんな怪我をしている状態で勉強などさせられるわけがないだろう?」


 お父様はクリスハルト様にそう告げた。

 クリスハルト様の全身にはおびただしいほどの傷があったのだ。

 もちろん、子爵夫人とその息子による虐待のせいである。

 私もその傷を(こっそりと)確認していた。

 思わず言葉を失ってしまうほど酷いものであった。

 そんな怪我をしているクリスハルト様にいきなり勉強をさせるのは流石に酷いと思ってしまう。


「勉強に怪我はないでしょう」


 しかし、クリスハルト様は反論する。

 一ヶ月という短い期間にしっかりと勉強するべきだと思ったのだろう。

 だからこそ、少しでも時間を無駄にしないように翌日から頑張ろうとしたのだ。

 そんなクリスハルト様の言葉にお父様は反論する。


「いや、関係はある」

「え? なんで?」

「たしかに怪我が勉強に直接的に関係があるわけではない。だが、君はその怪我──いや、虐待のせいでかなり消耗してしまっているんだ、精神的にも肉体的にもね。自分でもわかっているんじゃないのか?」

「……」


 お父様の言葉にクリスハルト様は黙り込んでしまう。

 図星だったのだろう。

 反論することができなかったようだ。

 そんなクリスハルト様にお父様はさらに説明を続ける。


「普通の人でも環境が変わってすぐは体調を崩しやすい。今の君は元気なようだが、すぐに体調が悪くなる可能性がある。虐待を受けて弱っているのなら尚更ね」

「……」

「そんな状況で勉強をしても意味ない事は頭の良い君なら理解をしているんじゃないのか?」

「……はい」


 お父様の言葉にクリスハルト様は頷く。

 完全に言い負かされた状況である。

 いくらクリスハルト様が賢かろうと、子供が大人に口で勝つことは難しいだろう。

 しかも、相手はこの国の政治の中枢で宰相という役割をしているお父様である。

 最初から勝てるはずがなかったのだ。

 落ち込むクリスハルト様にお父様が慰めるように告げる。


「だが、安心すると良い。昨日の時点で君と話した時に大体どの程度の頭の良さかはわかっている。その上で最初の一週間は休んでも良いと判断した」

「ということは三週間で身に付けろ、と? それはかなり難しいのでは……」

「いや、君はすでに必要な知識をほとんど身に付けているようだ。前子爵に色々と教わったんじゃないのかい?」

「……あ」


 クリスハルト様は少し考え、何かに気づいたようだ。

 これは後で知ったことなのだが、リーヴァ子爵家は代々頭の良い人を輩出している家柄だったそうだ。

 前子爵も子爵も、クリスハルト様の母親も学院に通っていたころは常に学年一位だったらしい。

 それは才能もあるのだろうが、幼いころからしっかりと教育を受けていたことも一因らしい。

 その教育をクリスハルト様も受けていたようだ。


「本当は二週間でも十分なぐらいだと私は思っている。だが、流石にそれでは君も不安になるだろうから、少し長めに三週間としているのだよ。それに君がまずやるべきことは虐待の傷を癒すことだ」

「……わかりました」

「む、よろしい」


 クリスハルト様は少し考えてから頷いた。

 お父様はもう少し反論されると思っていたようだが、あっさりと頷いたことで少し驚いた様子だった。

 だが、素直に受け入れられたことは良い事なので、笑みを浮かべて答えた。






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