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公爵令嬢は公爵夫人にチャンスを貰う


「レベッカ、何を言っているんだ?」


 お父様は私に問いかける。

 明らかに先ほどの言葉は聞こえていたはずだ。

 その上で聞いてきているのだろう。


「私、あの子のことを好きになったの」

「なんだとっ!」


 私の言葉を聞いたお父様は思わず大声を出す。

 娘からそのような言葉を聞きたくはなかったのだろう。

 父親は娘の相手に対して嫉妬をするという話はあるが、私のことを愛してくれているお父様はその気持ちがひときわ強いのだろう。

 当時の私はそこまで気にしていなかったが、今となってはお父様の気持ちも理解できていた。


「ピンチのお姫様を助ける王子様みたいでものすごくかっこよかったの」

「だが、結局は助けたのはセバスだろう」

「大人相手に子供がどうこうできるわけないでしょ。助けてくれようとしたことが大事なの」

「む……」


 お父様は言葉を詰まらせる。

 反論をしようとしたが、うまい言葉が見つからなかったようだ。

 あの状況で助けようと行動できるものはそういない。

 複数の荒くれ者を相手にしないといけないため、一人ではどうにもできないと判断してしまうからだ。

 当然、クリスハルト様ではどうすることもできなかったはずだ。

 しかし、クリスハルト様は私を助けようと飛び出してくれた。

 それが私にとっては王子様のように見えた。

 初恋──恋心が生まれた瞬間だった。


「たしかにその状況なら仕方がないわね」

「お母様っ!」

「リリーっ!?」


 お母様が賛成の言葉を口にし、私は喜ぶ。

 お父様は驚愕したような反応をする。

 母親なら否定してくれると思っていたのかもしれない。

 だが、お母様は最初からこちらの味方であった。

 なぜなら……


「一目惚れなんて、素敵じゃないかしら?」


 お母様は恋愛話が好きなのだ。

 王族や貴族の結婚や婚約の話は基本的にお互いの家や派閥が関係しており、政略結婚となってしまうことがほとんどである。

 その中で愛情を育むことができる場合もあるが、それすらもできずにそのまま結婚してしまうなんて話もある。

 そんな状態でうまくいくはずもなく、離婚につながることも少なくはない。

 だからこそ、貴族の令嬢や婦人の間では恋愛による婚約や結婚の話は憧れになっているのだ。

 様々な恋愛の物語が出版され、貴族の女性の間で流行してしまったほどである。


「しかし、リリー。レベッカはまだ8歳なんだぞ? 恋だの愛だの言うにはまだ幼すぎる」


 お父様はお母様に対してそんなことを言う。

 たしかに8歳というのはまだまだ子供であり、そんな子供が「好き」と言っても恋愛的な「好き」という意味ではないと思うのも仕方がない。

 むしろ「好きな料理」などと同じ「好き」かもしれない。

 だからこそ、お父様は否定しようとしたが……


「私が貴方に恋をしたのもそのぐらいの年齢ですよ?」

「っ!?」


 お母様の言葉にお父様は驚く。

 その顔は真っ赤に染まっていた。

 あまりにも直球な言葉にうまく対処できていないようだった。


「とりあえず、レベッカがその子に恋心を抱くことはおかしなことではないと私は思うわ。聞いた状況なら、恋に落ちてもおかしくはないと思うしね」

「だが、やはり……」

「父親として拒否したい気持ちはわかりますが、情けないですよ? それでもムーンライト公爵ですか?」

「いや、それは関係ないだろう? 私はレベッカの父親として……」


 賛同するお母様の言葉にお父様はあの手この手で反論しようとする。

 言い訳を次々と口にする姿は普段のお父様とは違って、あまりかっこよくはなかった。

 父親という生き物はすべてそういうものなのだろうか──当時の私はそう思ってしまったほどである。


「今の貴方は父親としても情けないですけどね?」

「うぐっ!?」


 お母様の鋭い指摘にお父様は言葉を詰まらせてしまう。

 そして、酷く落ち込んだような様子になる。

「情けない」と言われたことが相当効いたようである。

当時の私にはわからなかったが、今の私には理解できる──男性は女性に口喧嘩では勝てない、と。


「まあ、貴方が心配する気持ちはわかります。レベッカのことをしっかりと愛しているからこそ、心配しているのでしょう?」

「わかってくれるか?」


 お母様が共感するような言葉を告げると、途端にお父様は元気を取り戻す。

 ここまで手玉に取られている姿を見ていると、自分の父親ながらに情けない気持ちになってしまう。

 いや、これはお父様が情けないのではなく、お母様が凄いのかもしれない。

 お母様は貴族の夫人の中でトップに位置しており、この国では王妃様の次に女性の仲で権力があるのだ。

 生半可な女性がどうこうできる立場ではないのだ。


「その少年がどんな子かわかりませんから、レベッカを任せるに足るかを判断する必要もあります」

「リリー?」


 お母様の言葉にお父様が呆けたように反応する。

 話の方向性がおかしいと思ったのだろう。

 てっきり自分の味方をしてくれると思っていたのに、まったくその様子がなかったことに驚いているようだった。

 しかし、お母様はそんなお父様の様子を気にせず、話を続け──とんでもない提案をする。


「とりあえず、一か月間はこの公爵家で過ごしてもらいましょう」

「リリーっ!?」


 お母様のとんでもない発言にお父様はこの会話で一番驚愕していた。

 だが、当然の反応であろう。

 同い年の異性がいる屋敷で少年を引き取ろうとしているのだ。

 普通の感性であれば、おかしいと思って当然である。

 私からすれば、初恋の相手であるクリスハルト様と一緒に暮らすことができるので万々歳だったわけだけど……


「何を言っているんだ? そんなことできるわけが……」

「では、少年をあの状態で陛下と会わせるつもりですか?」

「む?」


 お母様の指摘にお父様が言葉を詰まらせる。

 先ほどまでとは違い、真剣な表情のままではあるが……


「その少年には虐待の痕があるのでしょう? 王族であることは確実でも、そのような状態で陛下と会わせることはできるはずがありません。下手な勘繰りをされ、王家との亀裂が生じる可能性があります」

「ムーンライト公爵家があの少年に暴力を振るった、と? 流石に陛下がそのようなことを思うはずが……」

「もちろん、陛下もクリスティーナもそのようなことは微塵も思わないでしょう。ですが、それはあくまでも私たちのことを知っているからこその判断です」

「……他の貴族にとっては、ムーンライト公爵家を攻撃する材料にできる、ということか?」

「そういうことです」


 お父様の言葉にお母様は頷く。

 どうやら二人で共通の認識ができているようだった。

 当時8歳の私には難しくて理解できなかったが……


「とりあえず、一ヶ月で傷を癒すことにしましょう。すべてではないにしろ、ある程度はましになるでしょうから」

「まあ、それが得策か」

「それにどこで暮らしていたのかも気になります。情報を集めるのと、少年の教育もしないといけませんね」

「……それもそうだな」


 お母様の言葉にお父様は少し考えてから納得する。

 おそらく自分では全く思いついていなかったのだろう。

 お母様だからこそ、気づいたことなのかもしれない。

 お母様は気が利く女性だと社交界でも有名だからだ。

 そんなお母様は私の方に向き、告げる。


「レベッカ、あの少年は一ヶ月の間、この屋敷で暮らすことになります」

「はい」

「その間に甲斐甲斐しく世話を焼きなさい。そうすれば、きっと少年は貴女のことを好きになるはずよ」

「お母様……はい、わかりましたっ!」


 お母様の言葉に私は感動し、元気に返事をする。

 これはお母様が暮れたチャンスなのだ。

 それをしっかりとものにしよう、私は決意した。

 お母様の横でお父様がどうしようか悩んでいたようだが、当時の私は全く気づいていなかった。






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