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子爵令息は衝撃の事実を告げられる




「う……ここは?」


 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。

 明らかに自分の記憶にない場所だったため、頭が混乱してしまう。

 貴族の屋敷であれば、高価な調度品が置かれていることはさほどおかしい事ではない。

 あまり贅沢をしないリーヴァ子爵家の屋敷にも、多少の高級品が置かれてはいた。

 そのおかげかクリスハルトも多少の目利きができたのだが、それが却って混乱を悪化させていた。

 部屋に置かれている調度品のほとんどが最高級品だったのだ。

 それだけでここがただの部屋ではないことを察することができた。


「どうやら目を覚ましたようだな?」

「……あなたは?」


 いつの間にいたのだろうか……いや、どうやら最初からいたらしい男性に声を掛けられ、クリスハルトは警戒を露わにする。

 ただでさえ得体のしれない部屋なのに、そこで平然としている男性を警戒せずにはいられない。

 そんなクリスハルトの様子を見て、男性は苦笑いをする。


「そんなに警戒しないでもらいたいな」

「警戒しない理由があると思いますか?」

「むぅ……何と言えば納得してもらえるだろうか……」


 クリスハルトの言葉に男性が考え込む。

 まさかそこまで考え込むとはクリスハルトも思ってもみなかった。

 子供の戯言だと流し、話を進めると思っていたのだが……

 そんな男性に使用人らしき男性が話しかける。


「恩人だと言えば良いのでは?」

「おっ、それだ」


 使用人の言葉に男性が反応する。

 その反応は本当に成人男性なのかと思ってしまうほど幼かった。

 だが、今のクリスハルトにはそんなことよりも気になることがあった。


「恩人?」


 その言葉が引っかかった。

 使用人の言葉から察するに、「クリスハルトの恩人」という意味だろう。

 しかし、クリスハルト自身に助けられたという記憶がなかった。

 一体、いつの間に助けられたのだろうか?

 そんなクリスハルトの疑問に男性が答えた。


「路地裏で暴漢たちに捕まっていた君を助けたのがこの使用人──セバスだ。恩人だろう?」

「暴漢たち……ああ、そういうことですか。助けていただきありがとうございます」


 状況を理解したクリスハルトは使用人の男性──セバスに頭を下げる。

 助けてもらったのだから、しっかりとお礼を言うことは当然である。

 そういう礼儀はしっかりと死んだ祖父に叩きこまれた。

 そんなクリスハルトにセバスは少し申し訳なさそうに返事をする。


「いえ……私がもう少し早く見つけていれば、君も怪我をせずに済んでいました」

「路地裏で暴漢に攫われそうになるなんて、早く見つけるのは無理でしょう。そんなことを謝る必要はないですよ」


 セバスの言葉をクリスハルトは否定する。

 しかし、セバスはさらにそれを否定した。


「君はお嬢様の身代わりになろうと咄嗟に行動したのだろう。だったら、うちの使用人が目を離すことがなければ、このようなことにはならなかったはずだ」

「お嬢様……って、あの子は?」


 セバスの言葉にクリスハルトは当時の状況を思い出した。

 自分が暴漢たちに立ち向かったのは、少女を救うためだったはずだ。

 なら、その少女がどうなったのかを知る権利があるはずだ。

 そんなクリスハルトの様子に主の男性はクリスの下側を指さした。


「そこだよ」

「え?」


 そこには少女が気持ちよさそうに寝ていた。

 掛け布団ごしにクリスハルトの足を枕にしているようで、動くことができなかった。


「えっと……どういう状況?」


 クリスハルトは首を傾げる。

 少女が助かったということはこの場にいることから理解できた。

 しかし、どうしてこんな状況になっているのか、まったく理解できなかった。

 そんなクリスハルトの疑問に主の男性が答えた。


「この子──レベッカはずっと君の看病をしていたんだよ。助けてくれたのをわかっていたから、恩に感じたんだろうね」

「……恩なんて感じなくていいのに」


 男性の言葉にクリスハルトは思わず呟いてしまった。

 たしかに自分は咄嗟に彼女を守ろうと行動をした。

 しかし、だからといって彼女から恩を感じてもらう資格などないのだ。


「おや、どうしてだい?」

「最初は彼女のことを見捨て、その場から立ち去ろうとしました」

「ふむ、なぜ立ち去ろうとしたんだい?」

「僕一人じゃ、三人の暴漢相手に何もできないと思ったんです。だから、他の大人たちを頼るべきだと思って、助けを呼びに行こうとしました」


 男性の質問にクリスハルトは懺悔をするように答えた。

 今となっては、なんて酷い事をしようとしたのか後悔の念に苛まれていた。

 たしかに他の大人に助けを求めるべく、その場から立ち去ろうとするのは合理的な判断であろう。

 その方が解決する可能性が高くなるのだから。

 しかし、見捨てられた少女にとって、その行動はどう映るだろうか?

 見捨てた、と恨まれても仕方がない。


「でも、結局君は暴漢たちに立ち向かう道を選んだ。それはどうしてかな?」

「彼女の助けを呼ぶ声が聞こえた。だから、勝手に体が動いたんだ」

「なるほどね」


 クリスハルトの言葉に男性は考え込むような仕草をする。

 もしかすると、どのような罰を与えようかと考えているのかもしれない。

 クリスハルトはどんな罰でも甘んじて受けようと思っていた。

 しかし、出てきたのは予想外の言葉だった。


「よし、その件についてはお咎めなしだ」

「えっ!? どうして?」


 男性の言葉にクリスハルトは驚いた。

 その様子に男性は優しい笑みを浮かべ、クリスハルトの頭をポンポンと叩いた。


「別に君の考えたことは悪い事ではないさ。力のある人間だったらまだしも、君のような子供なら大人に助けを求めようとするのが一番大切なことなんだよ」

「で、でも、僕は……」

「だが、一つだけ怒らないといけないことがあるかな?」

「……何ですか?」


 突然、男性の表情が真剣なものに変わった。

 一体、どういう理由で怒られるのかがわからず、クリスハルトは身構えた。

 真剣な表情のまま、男性は口を開いた。


「助けを求めようとする女の子の声を聞き、無意識に行動ができるのは素晴らしい事だ。誰にでもできることじゃない」

「えっと……」

「だが、自分を犠牲にするような行動はするべきじゃない。もしそれで助けられた者がいたとしても、君の犠牲が彼らの重みになってしまうのだから」

「……」


 クリスハルトは反論できなかった。

 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 予想外の怒りの言葉だったので、クリスハルトは重く感じた。


「勇気と蛮勇は違う──咄嗟に助けようとする勇気は大事ではあるが、無謀な戦いに臨むことは蛮勇でしかない。それを心にとめておきなさい」

「……はい」


 男性の言葉にクリスハルトは小さく返事した。

 自分のことを心配してくれる言葉──ここ半年ではまったく経験のなかったことだった。

 久しぶりの感覚にクリスハルトの心に何か温かいものが満ちていくのを感じた。


「さて、この話はここで終わりにしよう。それよりも聞きたいことがあるんだが……君の名前を教えてくれるかい?」

「……クリスハルト=リーヴァです」


 男性の質問にクリスハルトは答えた。

 そういえば、自分の名前を伝えていなかったことを思い出した。

 しかし、どうしてこの状況で名前を聞かれたのか──そんな疑問も頭をよぎった。


「リーヴァ……たしか、子爵家だったな」

「代替わりしたのはつい最近だったはずですね」

「?」


 クリスハルトの答えを聞き、二人がこそこそと何かを離していた。

 しかし、小さな声だったせいで聞き取ることができなかった。

 クリスハルトの名前が何か問題だったのだろうか?

 思わず不安になってしまう。

 少しして話は終わったようで、男性がクリスハルトに向き直った。


「クリスハルト君、よく聞くんだよ」

「はい?」

「君にはサンライズ王家の血が流れている。つまり、君は王族なんだ」

「は?」


 いきなりとんでもない事実を突きつけられ、クリスハルトは呆けた声を出すしかなかった。

 何を言っているんだろうか──そんな疑問がクリスハルトの頭をよぎった。






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