放蕩王子は元側近に計画を説明する
「犯罪、ダメ、ゼッタイ!」
「そんなもの、なぜ殿下が持っているのですかっ!」
ジークは非常にうろたえる。
なぜなら、クリスハルトが持っている命令書はクリスハルト自身が持っているのはおかしいからである。
「クリスハルトの廃嫡の命令書」──つまり、国王が出した命令であり、勅命であるはずだ。
国王が出したものであれば、それをクリスハルトが持っているはずがないのだ。
「そんなもん、偽造したからに決まってるだろ」
「それ、普通に公文書偽造の犯罪ですからね?」
クリスハルトはあっさり言うが、ジークは思わず反論してしまう。
ジークはクリスハルトのことを見直したことを少し後悔した。
まさかそんな無茶をするとは思っていなかったのだ。
だが、クリスハルトの方はまったく気にした様子はない。
「別に偽造すること自体はそこまで難しい事じゃねえよ」
「いや、聞いていないんですけど……」
「要は命令書用の紙とインク、あとは国王の印璽を用意すればいいだけだしな」
「いや、聞いてませんし……というか、難易度が高くないですか? 特に最後っ!」
否定はしつつも、ジークはしっかりとツッコミを入れる。
命令書用の紙とインク自体は用意することは決して不可能ではない。
王家の特注の紙ではあるが、手に入れること自体はできるわけだ。
しかし、印璽については手に入れることは不可能なのだ。
国王の政務を行う部屋にあり、常に金庫に保管されており、国王が使う時に飲み取り出されているのだ。
「俺が何年城にいると思っているんだ? 政務室に勝手に潜り込むこともできるし、金庫の番号だって判明している」
「……もう何も言えませんね」
クリスハルトがあっさりと犯罪を自供するので、ジークは呆れるしかなかった。
廃嫡というとんでもない事をしでかそうとしているのに、まさかそんな犯罪までしているとは思ってもいなかった。
いや、だからこそなのかもしれない。
「それでどうしてそんな命令書を偽造したんですか?」
諦めたジークはとりあえず気になったことを質問する。
クリスハルトがわざわざそんな命令書を偽造した意味がわからないのだ。
「当然、親父殿はそんな命令書を作るわけがないからだ」
「……そんなことはないでしょう? 陛下はしっかりとされた方ですから、必要な命令はされると思いますが……」
クリスハルトの言葉をジークは否定しようとする。
ジークの知る限り、国王は為政者としてはかなり立派だと思っている。
不正を許さず、信賞必罰をしっかりとしているからだ。
だからこそ、クリスハルトが第一王子であることを相応しくないと思えば、そのような命令書を出すと思ったのだが……
「いや、親父殿はできない」
「どうしてですか?」
「あの人は優しすぎるからだ。血のつながった息子にそのようなことをすることはできないだろうさ」
「……」
クリスハルトの説明にジークは何も言えなかった。
ジークは国王が為政者としては素晴らしいと思っている。
だが、それはあくまでも外からの見方である。
中から──つまり、身内から見れば、また変わってくるようだ。
「多少の罰は与えられるだろう。だが、廃嫡までされることはないはずだ」
「罰が与えられるのなら良いのでは?」
「いや、それだけではだめだ。俺がこの国に残ってしまうことで、俺を神輿に担ぎ上げようとする奴が少なからず残るだろう」
「……それはたしかに」
ジークは少し考え、納得する。
廃嫡されないということは、クリスハルトの王位継承権は残っているということだ。
もちろん、ハルシオンより下になることは確実である。
しかし、残っているということはまだまだ反撃の余地が残されていることだ。
そして、クリスハルトは傀儡の王としてぴったりの素材であるということで、自分の利を狙う貴族たちにとって格好の餌食となるわけだ。
「だからこそ、俺はこの国から出て行かなければいけない。俺を神輿に担ごうとする馬鹿を出さないために、な」
「それは理解しましたが、わざわざそんな犯罪をする意味はありますか?」
クリスハルトの結論にジークは思わず質問をしてしまう。
もちろん、この偽造の命令書はクリスハルトの決意の表れであろう。
彼がいかにこの国のためを思って行動しているのかを理解できる。
しかし、他にやり方があると思うのだが……
「いや、この廃嫡が計画に大事になってくるんだ」
「計画に、ですか?」
「実はこの計画には協力者がいる」
「……まあ、殿下だけでできることではないでしょうしね」
ジークは少し考え、頷いた。
大層な計画であり、クリスハルト一人でできるとは到底思えない。
当然、協力してくれる人材も必要になってくるので、それ自体はおかしなことではないだろう。
「フィル=クラウドとセシリア=レイニー男爵令嬢を知っているか?」
「ええ、もちろんですよ。というか、あの二人が協力者なんですか?」
「そういうことだ。もちろん、他にも協力者はいるが、学院内ではこの二人だけだよ」
「まさかあの二人が……いや、だからこそ殿下はあんなことをしていたんですね」
協力者が誰なのかに驚きつつも、ジークは納得もする。
その二人が協力者であるなら、この三年間でクリスハルトがいろいろと起こしてきた問題の説明がつくのだ。
そして、二人がハルシオンとレベッカの近くにいることも……
「この計画に協力してもらう対価にあの二人が交際できるようにすることだ」
「そんなことですか? 愛し合ってはいるようですから、そんなに難しい事ではないと思いますが……」
「本人たちだけなら問題はない。だが、家庭環境で問題があったんだよ。まあ、それは俺が解決しておいたがな」
「なるほど……それで廃嫡とはどういう関係が?」
クリスハルトの説明に納得しつつも、ジークは気になったことを質問する。
二人がどうやって協力しようと思ったかについては理解できた。
そして、二人がクリスハルトに感謝しているであろうことも容易に想像つく。
だが、それがクリスハルトの廃嫡につながるとは思わないのだが……
「俺は明日の卒業パーティーでレベッカを婚約破棄し、セシリアと婚約すると宣言する。そこにハルシオンがやってきて、俺を廃嫡するという流れだ」
「……流れはわかりましたが、やる意味がわからないですね」
「まあ、最後まで聞け。廃嫡されたということは俺が平民になるということだろう?」
「そういうことになりますね」
「そこでフィルの登場だ。俺を思いっきり殴り飛ばし、セシリアを取り戻すという流れだ」
「なぜっ!?」
クリスハルトの説明にジークは驚く。
あまりにも突拍子のない流れだったからであろう。
しかし、クリスハルトは決して冗談でこんなことを言っているわけではない。
「そこで俺が廃嫡されることが重要になってくるわけだ」
「なぜそこで?」
「ただの平民が王族を殴ることは大問題だろう」
「誰かが王族を殴ること自体が大問題ですけどね」
「だが、ただの平民がただの平民を殴ることはさほど問題ではない、ということだ」
「……十分に傷害罪は適応できそうですけどね。ですが、理解はできました。フィルくんが犯罪者にならないよう、殿下は事前に平民になっておかないといけないわけですね」
「そういうことだ」
ジークは納得することができた。
たしかにクリスハルトの言う通りでは、廃嫡される必要があるだろう。
そうしなければ、せっかくの協力者を犯罪者にしてしまうのだから……
「ですが、殿下がレイニー男爵令嬢にフラれてしまえば、廃嫡の話も無くなるのでは? 元々が偽造の命令なわけですから、罰は与えられるでしょうが結局はこの国に残ることに……」
「何を言っているんだ?」
「?」
「俺はこの計画の後、この国を出ていくぞ? もちろん、死んだことにしてな」
「え?」
クリスハルトに衝撃の事実を告げられ、ジークは驚きの声を漏らした。
公文書偽造は犯罪です。
絶対にやってはいけないですよ!
今回はあくまでクリスハルトが国のためを思ってやっていることです。
もちろん犯罪はいけませんが、自己犠牲をすることで国の未来を明るくしようとするクリスハルトの思いもわかってください。
すべての犯罪ではありませんが、何らかの背景があることで同情してしまうような犯罪もあるでしょう?
まあ、結局は誰かの犠牲で成り立つような幸せなどないと作者は思っていますが……
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