放蕩王子は空き教室の真実を話す
季節は移り変わり、とうとう第三学年が終わろうとしていた。
卒業を明日に控え、学院にはお別れの空気が広がっていた。
「いよいよ、明日か……」
生徒たちの様子を見て、クリスハルトは思わず呟いてしまう。
この3年はとても長く感じた。
わざわざ悪役を演じることはとても辛かったのだ。
だが、それも明日で終わることができるのだ。
「殿下、ここにいたのですね」
「セシリア嬢か……それにフィルもいるのか」
声を掛けられ、クリスハルトは振り向く。
そこにはセシリアとフィルがいた。
二人は三年の間に立派に成長していた。
入学した頃はどこか子供らしさも残っていたが、今では大人の仲間入りをしている。
これもクリスハルトがいろいろと面倒を見たおかげでもあるだろう。
「この空き教室には世話になったからな。自然と足を運んでしまった」
「まあ、事あるごとにここに集まっていましたからね。ですが、不思議と人がやってきませんでしたね」
クリスハルトの言葉にセシリアはそう話す。
この3人が空き教室を何度も(勝手に)利用しているが、他の生徒はおろか教員にも出会ったことがなかった。
もちろん、この教室に入るときには誰にも見られないようには注意をしていた。
だが、ここまで会わないのは不自然だと感じたのだ。
「それはもちろん、過去にこの教室で一人の生徒が自殺をしたんだ」
「「えっ!?」」
クリスハルトが衝撃の事実を告げ、二人は驚きの声を漏らす。
そんなことを全く知らなかったのだろう。
体ががくがく震えていた。
そんな二人の様子を見て、クリスハルトは話を続ける。
「それはとある下級貴族の女子生徒だったようだ。下級貴族の令嬢でありながら成績が優秀だったそうだが、それが高位貴族の令嬢たちにとっては嫉妬の対象となってしまったわけで、苛められていたそうだ」
「「……」」
「そして、とうとう耐えきれずにその女子生徒はこの教室で自殺をしたそうだ。そうして命を落とした彼女のそばには遺書として苛めた犯人たちの名前が書かれていたそうだ」
「「それは……」」
クリスハルトの説明に二人は固唾をのんで聞いていた。
まさかそんな話があったとは、まったく知らなかった。
だが、そのおかげで自分達は誰に気づかれることもなく、教室を使うことができたので感謝しかないのだが……
しかし、クリスハルトはとんでもない事実を告げる。
「……という噂を流しておいた」
「「は?」」
クリスハルトの言葉に二人は呆けた声を出してしまう。
悲しい話だと思ったら、まさかの作り話だった。
当然の反応だろう。
思わずフィルが文句を言う。
「しんみりしちまったじゃねえか。かわいそうに、とか思ったのに……」
「相変わらず、情にもろいな。それが君の良いところだがな」
「いや、それよりも謝れよ。俺の気持ちを弄んだことによ」
フィルはクリスハルトに詰め寄る。
三年も一緒に過ごせば、こうやって気楽に話すことができるようになっていた。
平民と第一王子ではあるが、協力者という関係が気楽に付き合うことができるようにしていたのだ。
「安心しろ」
「何がだ?」
「確かに俺の作り話ではあるが、まったくの嘘というわけではないんだ」
「どういうことだ?」
クリスハルトの説明にフィルは首を傾げる。
言葉の意味が全く理解できなかったのだ。
だが、セシリアの方はなんとなく察しがついた。
「その話のどこかに本当の内容が散りばめられていた、ということですね?」
「ああ、そういうことだ」
「どういうことだ?」
セシリアの言葉にクリスハルトは頷く。
フィルは相変わらずわかっていないようだった。
なので、クリスハルトは説明をする。
「俺が作った噂話だが、実際に苛められている成績優秀な下級貴族の女子生徒は存在していた」
「まあ、それぐらいの条件ならいるだろうよ。下級貴族とはいえこの学院に通うのは当たり前だろうし、その中に成績のいい娘ぐらいはいるだろうな。そして、高位貴族を差し置いて成績が良ければ、それを僻まれることもあるだろうし……」
「でも、自殺はしないでしょう?」
「そこは作り話だろう?」
セシリアの言葉にフィルは答える。
そこが作り話であることは理解しているようだ。
「そうだな。作り話は自殺と遺書のところだけだ」
「あ、そうなの」
「だが、それ以外の部分は本当だ。その女子生徒は苛められてはいたが、決定的な証拠でその相手を追い詰めたんだよ」
「……それはすごいわね」
クリスハルトの言葉にセシリアは驚く。
まさかいじめの被害者がそんなことをするとは思わなかったのだろう。
彼女も一時期いじめの被害に遭っていた。
だからこそ、被害者の気持ちを理解することができる。
その状況で相手を追い詰めることなど普通はできないことも……
「ちなみに、その女子生徒は俺の母親だったよ」
「「え?」」
クリスハルトが衝撃の事実を告げ、二人は一番の驚きの反応をする。
まさかそんな身近に噂の人物がいるとは思わなかったからである。
まあ、身近といっても会ったことはないのだが……
「苛められた理由は成績が優秀であったことと、とある公爵令嬢──現在の王妃と仲が良かったことだったらしい。それを僻んだ元取り巻きの連中によるいじめだったらしい」
「まあ、ありそうな話ね」
「ある日、俺の母親は元取り巻き連中に呼び出されたんだ。そして、王妃から離れろと言われたらしい。だが、それを俺の母親はきっぱりと断った」
「それって、大丈夫なの?」
「当然、相手は激高した。思いっきり左頬をビンタして、俺の母親は机にぶつかったらしい。角に当たったせいで顔に傷がつき、血を流すことになったらしい」
「……大丈夫じゃないわね」
クリスハルトの説明にセシリアは若干引いていた。
いくらむかつくとはいえ、元取り巻き連中はやりすぎだと思ったのだろう。
いくら下級貴族が相手とはいえ、傷害は普通に犯罪だからである。
だが、話はここで終わりではない。
「そこに王妃の登場だ」
「「え?」」
「王妃は現行犯で元取り巻き連中を捕まえ、俺の母親を助けてくれたようだ。元取り巻き連中はこの事件がきっかけで停学を食らい、そのまま退学することとなった」
「まあ、当然の結果よね。それで、その件は二人の計画だったということかしら?」
「いや、それはわからないな」
「そこまで詳しく知っていて?」
クリスハルトが首を横に振ると、セシリアは少し驚く。
ここまで事件の内情を知っているということは、おそらく関係者から聞いたと思ったからである。
つまり、王妃から話を聞いたと思ったので、計画かどうかぐらいは聞いていると思ったわけだが……
「俺が見たのは、過去にこの学院であった事件についての書類だ。客観的に書かれてはいるが、人の気持ちなどはわからない」
「ああ、そういうことか」
セシリアは納得することができた。
たしかにクリスハルトの言う通りであれば、事件の内容を詳しく知ることができるが、当事者の気持ちを理解することはできないだろう。
そもそもクリスハルトは王妃にそのような話を聞くことができない前提をセシリアは忘れていた。
「とりあえず、俺はこの話を脚色し、怪談話として広めておいたわけだ。すると、自然と人が集まらなくなるわけだ」
「まったく嘘の話なのにね」
「褒めていいぞ?」
「……教室を不当に占領しているんだから、褒められることじゃないでしょ?」
「……それもそうか」
セシリアの指摘にクリスハルトは視線を逸らす。
犯罪をしていないとはいえ、割と悪い事はしていた。
それを自覚させられてしまったのだ。
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