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放蕩王子は男爵を説得する


「さて、ここまでくればどうして俺がセシリア嬢を協力者に選んだかわかるか?」

「……セシリアが私の実の娘ではないからですね」


 クリスハルトの質問にレイニー男爵が答える。

 クリスハルトが「不義の子」という話から想像することができたのだろう。

 意外と頭は回るようである。


「ですが、セシリアは「不義の子」ではありませんよ」

「それぐらいわかっているさ。あんたの兄と平民の間に生まれたのがセシリア嬢だということも、あんたがセシリア嬢に愛情を持って育てていることも知っているさ」

「……それならいいのですが」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は納得する。

 セシリアを「不義の子」扱いされるのは、レイニー男爵にとっては嫌なことであった。

 きちんと愛情を持って育てているのだから、それは当然の思いであった。


「正確に言うと、「下の身分で生まれ、偶然で身分が上がった者同士」といったところだな」

「ああ、なるほど……それは同じですね」

「やはり同じ境遇の者には共感しやすい。だからこそ、セシリア嬢に頼み込んだわけだ」

「……セシリアは我が家を出たいと言っているのですか?」

「いや、そんなことは言っていないな。レイニー男爵の愛情を感謝しているし、他の家族からも身内として扱ってもらっている、と言っていたよ」

「それは良かった」


 セシリアの話を聞き、レイニー男爵はほっと一安心する。

 血は繋がっているとはいえ、実の親子ではない。

 だからこそ、嫌がられている可能性も否定できなかった。

 だが、感謝してもらえているのであれば、今までのことは間違っていなかったということだ。


「そういえば、セシリアはどのように協力しているのでしょうか?」


 ひとしきり感動した後、レイニー男爵は問いかける。

 クリスハルトの壮大な計画にセシリアがどのような役割をしているのか、ものすごく気になったのだ。

 もし良くないことであれば、不敬であれどもレイニー男爵が断ろうと思ったのだ。


「俺の偽の恋人役だな」

「……辞めさせてもらってもよろしいですか?」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は間髪入れずに断った。

 一瞬で駄目だと判断したのだ。

 その反応にクリスハルトは苦笑をする。


「予想通りの反応だな」

「当然でしょう? 貴族令嬢にとって、他の男のものであったということはあまりよくない。しかも、その相手が殿下ということで醜聞となることは確実でしょう」

「本人を前によく言うな」

「セシリアのためですから」


 愛されているな、とクリスハルトは素直に感心する。

 実の娘でないのに、レイニー男爵は良くここまで愛することができるものである。

 クリスハルトだって、祖父から愛情を受けて育ってきた。

 だが、それはしっかりとした血のつながりがあってこそ、である。

 それ以外の人からここまでの愛情を貰ったことはない。

 だからこそ、羨ましいと思ってしまう。

 しかし、今はそんなことを考えている時ではない。


「安心しろ。すでに計画の成功後のセシリア嬢の相手は準備している」

「……誰ですか?」

「クラウド商会次期会長のフィルだ」

「やはり辞めさせてもらいます」


 レイニー男爵はやはり聞く耳を持たない。

 それほどまでにフィルの評価が低いのだろうか?


「何が不満なんだ?」

「セシリアは男爵令嬢という身分ではありますが、頭も良いし、可愛い。器量も良いので、もっと条件のいい婚約者が見つかるはずです」

「自信があるようだな」

「もちろんですよ。だからこそ、あんなどこぞの馬の骨なんかに渡すつもりなど毛頭ありませんよ」


 レイニー男爵ははっきりと宣言する。

 フィルに対する評価がものすごく低い。

 まあ、前までのフィルであれば、仕方がないのかもしれない。

 国内で中堅の商会の次期会長で、成績はあまりよろしくなかったのだから……


「それはどうかな?」

「……どういうことでしょうか?」


 クリスハルトがにやりと笑うと、レイニー男爵が反応する。

 断られたはずなのに、どうして笑うことができるのだろうか──そう思っているようだった。


「今のクラウド商会の状況を知っているか? すでに国内でもトップクラスの規模になっており、貴族相手にも商売している」

「え?」

「しかも、ムーンライト公爵家御用達の商会になったことで、現在一番人気の商会となっている」

「本当ですか?」


 レイニー男爵が驚く。

 まさかクラウド商会がそこまで大きくなっているとは思わなかったからである。

 別にクリスハルトは嘘をついているわけではないし、これを知らなかったレイニー男爵が悪いわけではない。

 クラウド商会が大きくなったのはここ一年の話であり、この話はそこまで広まっているわけではない。

 せいぜいムーンライト公爵家と付き合いのある貴族の間だけの話であった。

 だが、このムーンライト公爵家自体がかなり大きなお得意様であるおかげでクラウド商会はどんどん大きくなったのだ。

 このままいけば、もっと大きくなることだってできるはずである。


「もちろんだ。俺が手伝ったんだから、当たり前だろう」

「殿下が手伝ったんですか? どうしてまた……」

「それが俺の計画に協力してくれる見返りだったからだ」

「……クラウド商会の次期会長も協力者、ということですか? その頼みでクラウド商会を大きくした、と」

「まあ、そういうことだな」

「では、セシリアを協力者にしているという話は断らせていただこう」


 レイニー男爵は断固とした決意でそう告げた。

 不敬など全く考えていない、愛があるからこその言葉であった。

 その言葉を聞き、クリスハルトは苦笑する。


「この見返りはフィルとセシリア嬢の二人の頼みだぞ」

「なに?」

「あの二人は好き合っているんだ。もしかして、フィルの片思いだと思っていたか?」

「いえ……ですが、セシリアはもっといい条件の相手を私が探そうと……」

「愛情を持つことは大事かもしれないが、あまりにも構いすぎると嫌われるぞ?」

「うぐっ」


 クリスハルトの指摘にレイニー男爵は言葉を詰まらせる。

 嫌われた時のことを想像したのかもしれない。

 愛情を持って接しているからこそ、そのようなことを想像したときのダメージはでかい。

 実際にそんなことになれば、もっと酷い状態になるだろう。


「たしかにクラウド商会を大きくするために俺が手伝ったのは事実だ。だが、あの二人が何もしなかったわけではない」

「……何かしたのですか?」

「俺が勉強を教えたことで、セシリア嬢は学年でもトップクラスの成績になっている。これには覚えがあるだろう?」

「……ええ、もちろん。その話を聞いた時には褒めましたから」

「フィルの方にもしっかりと勉強を教えている。そのおかげかもうすぐAクラスという所まで成績を上げているから、第3学年に上がればAクラスに入ってくるだろう」

「……それはすごいですね」


 レイニー男爵は素直に驚く。

 彼はきちんと判断できるようだ。

 クリスハルトが関与しているということで、何らかの不正をしていると勘繰る者もいるだろう。

 だが、フィルはクリスハルトの手伝いがあったとはいえ、自身の努力でここまで成績を上げたのだ。

 レイニー男爵はそれを認めたわけだ。


「すべてはあんたに認められ、セシリア嬢と結婚するためだ」

「……」

「そこまでセシリア嬢はフィルに思われているんだ。同様にセシリア嬢もフィルのことを同じぐらい思っているようだ。この一年の間にずっと過ごしてきた俺だからこそ言えることだろう」

「……」

「そんな二人を無理矢理引き裂くことがセシリア嬢の幸せにつながると思うか? あんたのお兄さんはそれが嫌で出て行ったんじゃないのか?」

「……そこまでご存じなのですね」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は反応する。

 まさかそこまで知られているとは思わなかったのだろう。

 だが、どうしてクリスハルトがこんな言い方をしたのか、理解できた。

 レイニー男爵に過去と同じ間違いをさせないようにするためなのだ。


「セシリア嬢のことを思うなら、フィルとの交際を認めるべきだな」

「……わかりました。そこまで努力をし、結果を出しているのであれば、私が否定すべきではないでしょう」


 レイニー男爵は両手を上げ、降参の意を伝える。

 これ以上はどうしようもないのは事実なのだ。

 素直に引くことも父親代わりの役目だと判断したのだ。


「お義父様」

「っ!?」


 いきなり声を掛けられ、レイニー男爵は振り向く。

 部屋の入口にセシリアがいた。

 その横にはフィルも並んでいた。


「認めてくれたのですね。ありがとうございます」

「……長い間、すまなかったな。お前のためを思っての行動だったんだ」

「わかっています。お義父様からの愛情をしっかりと理解しておりましたから」


 レイニー男爵とセシリアが抱きしめ合い、涙を流す。

 まるで親子の感動シーンのようだった。

 実の親子ではない──だが、それでも周囲も感動してしまう光景であった。


「フィルくん」

「はい」

「セシリアのことを頼めるかな」

「任せてください。必ず幸せにします」


 レイニー男爵の問いかけにフィルは真剣な表情で答えた。

 ようやく認められたのだ。

 ここで下手に喜ばず、しっかりと対応することが大事だと判断したのだ。

 本当に成長したものである。






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