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放蕩王子は過去の真実を話す


「リーヴァ子爵家が取り潰しになったのは、俺を隠していたからだ」

「それだけですか?」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は驚く。

 その程度、と言ってしまうほどには軽い罪だと思ってしまったからである。


「軽い? どうしてそう思う?」

「いや、事情は分かりませんけど、クリスハルト殿下の存在を王家に知らせてなかったってことですよね? 取り潰しされるほどでは……」

「まあ、そうだな。確かにその程度のことであれば、普通は取り潰しされるほどではないだろうよ。きちんと育てていれば、の話だが」

「虐待、ですか?」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は答えに辿り着く。

 きちんとした親だからこそ、クリスハルトの説明ですぐに想像することができたようだ。


「その通りだ。といっても、虐待したのはリーヴァ子爵家に叔父の妻とその息子だがな」

「何故その二人が?」

「元々、リーヴァ子爵は俺の母親の父──つまり、祖父がやっており、祖父に俺は育てられた。母親は産んだ時に亡くなったそうだ」

「それは……ご愁傷さまです」


 レイニー男爵は追悼の言葉を口にする。

 16年も前のことではあるが、人が亡くなったのだから思わず口にしてしまった。

 母親がいない生活をしてきたクリスハルトの苦労も思っての言葉であった。


「まあ、その分の愛情は祖父からもらったつもりだ。優しくしてもらったし、立派になるように教育も施してもらった」

「ああ、なるほど。リーヴァ子爵家は優秀な人材を輩出することで有名ですから、殿下もその例に漏れなかった、というわけですね」

「全員がそうではないがな。俺には才能があった、というわけだ」

「納得です」


 レイニー男爵はクリスハルトの優秀さを納得した。

 リーヴァ子爵家の人間が優秀であるということは知る人ぞ知る話である。


「その幸せな生活は祖父が亡くなったことで終わったがな」

「……そこから虐待が?」

「ああ、そうだ。俺が叔父に引き取られてから始まった」

「どうして……いや、虐待に理由なんてないですよね」

「おそらく、叔父が子爵を継いだからだろう」

「子爵を継いだから、ですか?」

「言っただろう? 俺を虐待したのは叔父の妻とその息子だ、と」

「つまり、次期子爵になる可能性のあった殿下を排除しようとした、ということですか?」

「正確な理由はわからんが、俺を虐待しようとしたのはそれが理由だと考えている」

「……なるほど」


 レイニー男爵は頷く。

 正確な話ではないかもしれないが、辻褄は合う。

 当時のクリスハルトが優秀であることもわかるので、それも虐待の要因かもしれない。

 その子供よりも優秀なクリスハルトの方が次期子爵の座に近いから、とも考えられる。


「ですが、その叔父は何もしなかったのですか? 虐待に参加していないのであれば、止めようとするものでしょうが……」

「当時の叔父にはそんな余裕がなかったんだよ」

「余裕がなかった、ですか?」

「急に子爵になってしまったんだ。祖父が急に亡くなったことで退き次も何もなかったんだろう」

「……たしかにそれは」

「しかも、祖父は子爵としてはかなり優秀だったんだろう。それと比較されることで精神的に参っていたのかもしれない」

「ああ、そういうことですか」


 叔父の余裕がなくなった理由は理解できた。

 優秀である者の跡を継ぐのはかなりのプレッシャーである。

 同じような働きを求められるが、その働きは優秀であるがゆえに出来たことであることが多い。

 しかも、それを引き継ぎ去れずに続けることなど不可能に近い。

 叔父の苦労はかなりのものであっただろう。


「身寄りのない俺を引き取ってくれたことを叔父に感謝していた。だからこそ、余裕のなかった叔父に虐待を相談することができなかった」

「……それは相談すべきだったのでは? いくら感謝しているとはいえ、そういう事情はしっかりと伝えるべきだったと思いますよ。もしかしたら、味方になってくれたかもしれませんし……」

「「たられば」を言っても、今更意味はねえよ。それに伝えていた場合、一時的に収まるかもしれないが、すぐに虐待が始まるだろうよ。叔父にチクったことでな」

「報復、というわけですか?」

「そういうことだ。叔父はともかく、その妻と子供の性格は最悪だった。だからこそ、叔父に相談した場合の後のことは簡単に想像つく」

「……最悪ではあるが、簡単に想像できるわけですね」

「そういうことだ」


 レイニー男爵の言葉にクリスハルトは頷く。

 嫌なことを簡単に想像できるな、とレイニー男爵は思った。

 頭が良い事も考えものである。

 知らなくていい事まで知ってしまうのだから……


「それで俺は家出をしたんだ」

「まあ、虐待をされている子供の行動としては当然でしょうね」

「そこで偶然、ムーンライト公爵家の人間と出会う。そして、俺が王族であることが分かったわけだ。髪が金色であることが理由でな」

「ああ、「王族の血が流れている者はすべて金髪」という噂がありましたね。あれは本当だったんですね」

「そういうことだ。そして、それにより夫人と息子による虐待が発覚し、リーヴァ子爵家は無事にお取り潰しとなったわけだ」


 クリスハルトは結論を告げた。

 たしかにストーリーとしてはしっかりしている。

 本当のことであり、自分も体験したからこそ、しっかりと伝えられたわけだ。

 だからこそ、レイニー男爵は疑問に思った。


「どうして先ほどは怒ったのですか?」

「怒った?」

「不正と言ってしまった時ですよ。たしかに不正はしていませんが、虐待の時点で犯罪だと思いますが……」


 レイニー男爵は睨まれた理由が分からなかった。

 罪状を間違っただけで、あんな反応をされるのだろうかと思ってしまったのだ。

 その質問にクリスハルトはあっさりと答える。


「ああ、そのことか……俺はリーヴァ子爵家に妙な思い入れがあるせいかな」

「妙な思い入れ、ですか?」

「俺は別にリーヴァ子爵家のことが嫌いなわけじゃなかった。むしろかなり好きで、リーヴァ子爵家の一員であることを誇りに思っていた」

「虐待されていたのに、ですか?」

「それは流石に嫌なことだよ。虐待されることに喜びの感情を見出すほど、俺の性癖は歪んではいない」

「……なるほど」


 クリスハルトの力強い言葉にレイニー男爵は納得する。

 虐められることを悦ぶ人間が存在することは知っている。

 だが、そういう趣味の人は一部の人間であって、すべての人がそのような性癖というわけではないのだ。

 クリスハルトは普通の性癖であり、そんな異常性癖があったわけではないのだ。


「かなり優秀なリーヴァ子爵──祖父を見て育ってきたんだ。俺も将来はこういう風に子爵として働くんだ、子供ながらにそう思っていたよ」

「そんなにすごい人だったんですね」

「ああ、そうだ。それに叔父も祖父ほどではないが、優秀な人ではあったようだ。屋敷の使用人たちからの話しかないが、不満はほとんどなかったからな」

「身近な人間が満足しているのであれば、ある程度の仕事はできているのでしょうね。まあ、知らないところでどれほど仕事をしているのかはわかりませんが……」

「とりあえず、俺にとってのリーヴァ子爵家は素晴らしい場所なんだよ。だからこそ、「不正」を理由に断罪されたという言葉が気になってな」

「それはすみません。私も噂を鵜呑みにしてしまいました」

「それは別に構わない。そもそもが虐待と俺を隠していたことが理由なんだから、本当の情報を流すわけにもいかんだろうよ」

「まあ、そうですね」


 クリスハルトの言う通りであった。

 王族の血を引く者の存在が隠され、それが虐待をしていたのだ。

 御家取り潰しの理由としてはもっともであるが、そんなことをされた王族がないがしろにされていたという話になりかねない。

 その事情が流れていないのは当然のことであった。






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