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放蕩王子は真実を伝える


「あの……殿下?」

「なんだ?」


 レイニー男爵は不安気に声をかける。

 それに対して、クリスハルトはまったく動じていない様子であった。

 だからこそ、レイニー男爵は余計に不安になったのだ。

 もしかすると、聞き間違えをしてしまったのか、と。


「すみません。私の耳が遠くなったのかもしれません、聞き取ることができませんでした」

「そうなのか? まだそんな年齢には見えないがな」

「ははは、申し訳ない」


 レイニー男爵の言葉にクリスハルトは心配そうにする。

 まだ40歳にもなっていないレイニー男爵は耳が遠くなるには若すぎると思ったからである。

 そんなクリスハルトの反応を見て、レイニー男爵も苦笑する。

 どうやら先ほどの言葉は聞き間違いだ、と思った。

 しかし、そんなレイニー男爵の期待もすぐに打ち砕かれることになる。


「なら、もう一度言うしかないな。セシリア嬢には俺が廃嫡されるための計画に協力してもらっている」

「ああっ!?」


 クリスハルトの言葉を聞いたレイニー男爵は頭を抱える。

 やはり聞き間違いではなかった、と。

 そして、聞き間違いではない以上、レイニー男爵にはきちんと説明してもらわざるを得なくなった。


「どうしてそんなことになっているのですか? 明らかに普通ではないと思うのですが……」

「普通ではない、とは? 俺が王族である以上、普通からは程遠いと思うが……」

「王族どうこうの問題ではありませんよ。廃嫡に王族であるかどうかは関係ないでしょう」

「まあ、そうだな」


 レイニー男爵の言葉にクリスハルトは納得する。

 流石に冗談だったのだろう。

 だが、その反応がレイニー男爵をさらに混乱させる。

 廃嫡されようとしている人間がこんな反応をするのか、と。

 もしかすると騙されているのかもしれない──そう思ったレイニー男爵はさらに質問をする。


「どうしてそのようなことを考えたのですか?」

「廃嫡か? それはもちろん、俺の存在が国にとって不利益を与えると考えたからだ」

「……殿下はまだ若いでしょう? なら、そう判断するには早いと思いますが……」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は説得を試みる。

 クリスハルトの悩みは人生にうまくいかないことへのストレスから来たものだと思ったからである。

 クリスハルトの噂から学院での成績が思うようにいっていないことも想像がつく。

 王族であるというステータスが周囲からの期待を上げてしまい、そのせいで実力以上のものを求められ、結果として落胆されてしまう──と、レイニー男爵は考えた。

 だからこそ、そのように説得したのだが……


「いや、若いとかは関係ないな」

「私はそうは思いませんけどね」

「どうしてだ?」

「私も学院時代には悩みましたよ。でも、いろいろと調べることで問題を解決することだってできました。だからこそ、殿下もそこまで思いつめることはやめてください」


 父親の目線でレイニー男爵は告げる。

 過去の自分の経験談と学院に通った子供のいる父親としての意見である。

 まったく血のつながりのない、圧倒的に身分が上の相手にこんな風に言うことができるのはレイニー男爵が優しいが故であろう。


「ん?」

「え?」


 だが、クリスハルトの反応はレイニー男爵にとっては予想外の反応であった。

 呆けたような声を漏らされ、レイニー男爵も同じような声を漏らしてしまった。

 そんな状況でクリスハルトは気付く。

 どうやら誤解されているようだ、と。


「ああ、もしかして、俺が成績に悩んでこんなことを言っていると思っているか?」

「えっと……その通りです」


 クリスハルトの質問にレイニー男爵は素直に答える。

 流石にここで嘘をつく理由はない。

 レイニー伯爵は自分の勘違いを恥じた。

 クリスハルトの噂から間違った決めつけをしてしまったのだ。

 これは小さいとはいえ人の上に立つ男爵としてはあまり良くないことかもしれない、と。


「ああ、これは俺の伝え方が悪かったな」

「いえ、私も勘違いしてしまったようで……すみません」


 申し訳なさそうにするクリスハルトの言葉にレイニー男爵も謝罪の言葉を告げる。

 だが、この会話でクリスハルトが噂通りの人物でないことはレイニー男爵も理解した。

 噂通りの人物であれば、こんな風に自分の非を認めたりはしないだろう、と。

 口調は若干悪いが、目上──いや、年上の人に対する礼儀もしっかりしていることもそう思った要因であった。

 だからこそ、油断してしまっていた。

 そこまですごい悩みではない、と。

 落ち着くために紅茶を飲もうとする。


「実は、俺は陛下の「不義の子」なんだ」

「ぶふぉっ」


 衝撃の事実を告げられ、レイニー男爵は口に含んだ紅茶を噴出してしまった。

 これはかなりのマナー違反である。 

 しかし、レイニー男爵にはそんなことよりも気になることがあった。


「あの、殿下?」

「なんだ?」

「それは何の冗談でしょうか?」

「冗談だと思うか?」

「……」


 クリスハルトの悪い笑みにレイニー男爵はこの話が冗談ではないことに気づく。

 冗談で自分が「不義の子」であると言う子供がいるだろうか。

 しかも、その「不義」をしたのがこの国のトップだと言っている。

 これを他の人に聞かれれば、不敬罪で捕らえられかねない。

 だからこそ、この情報を聞いたレイニー男爵は慎重に言葉を選ばないといけなくなったのだ。


「殿下、私は到底信じられないのですが……」

「どうしてだ?」

「今の陛下はとても素晴らしい方です。歴代で最も偉大な先代陛下の跡を継いだことでかなり評価が厳しかったはずなのに、それにくじけず国の安定を持続させてきました」

「そうだな」


 レイニー男爵の言葉にクリスハルトは頷く。

 クリスハルトも国王の偉大さをわかっているようだ。


「そして、陛下は妃殿下一筋だと聞いております。そんな陛下が「不義」をするなど、とても思えないのですが……」

「レイニー男爵の信じたい気持ちはわかる。だが、現に俺がいるのだから、「不義」があったことは事実だ」

「そんな……」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は落ち込む。

 信じたくはなかった。

 レイニー男爵にとって、国王は尊敬すべき存在だったのだ。

 サンライズ王国に仕える貴族としての尊敬もある。

だが、男爵として領地を治める苦労を知っているレイニー男爵はそれよりも大きな国を治める国王がより大きな苦労を伴っていることは理解に難くない。

そのことから共感のような気持ちもあったのだ。


「では、陛下はどなたと「不義」をなさったのですか? 妃殿下の目を盗んで、そんなことをすることができる者はいないと思いますが……」

「リーヴァ子爵家、聞いたことはないか?」

「え?」


 クリスハルトの言葉にレイニー男爵は驚く。

 そして、自身の記憶を探ってみる。


「たしか、10年近く前に取り潰しになった家ですよね?」

「正確には8年前だな」

「たしか噂では不正を行ったとか……」


 レイニー男爵は当時の話を思い出す。

 もちろん、リーヴァ子爵家と直接の交流があったわけではない。

 だが、「御家取り潰し」という滅多にない処分がされたとなれば、貴族社会では有名な話となってしまう。

 だからこそ、当時聞いた噂をそのまま口にしたのだが……


(ギロッ)

「ひっ!?」


 クリスハルトに鋭い視線で睨まれ、レイニー男爵は悲鳴を上げる。

 なぜ睨まれたのか、わからなかった。

 だが、クリスハルトの機嫌を損ねてしまったことだけは理解できた。


「すみません」

「はぁ……まあ、当然の反応だわな」


 謝罪をするレイニー男爵にクリスハルトはため息をつく。

 怒ってはいたようだが、納得もしているようだった。

 そんなクリスハルトの反応にレイニー男爵は疑問を感じた。






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