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子爵令息は女の子を助ける

作者の中で執事とは「主のためなら何でもできる完璧な存在」という印象があります。

確実にとある漫画の化け物な執事(貧乏)の影響ですねw


※一人称?を変えました。





 祖父が亡くなり、クリスハルトは母の兄──俺から見れば、叔父の立場にいる男性に引き取られることになった。

 祖父は厳しそうな雰囲気の中にどことなく優しさが見えていたが、その男性からはそれがなかった。

 焦っている、そんな雰囲気があった。

 彼は子爵となったが、祖父のように領地に住むことはなかった。

 王都で仕事を持っているそうなので、領地のことは代官に任せるそうだ。

 それに伴い、クリスハルトもリーヴァ子爵領から王都へ引っ越すことになった。

 彼の地獄はそこから始まった。


 叔父はすでに結婚しており、夫人と9歳になる息子がいた。

 その二人がクリスハルトのことを毛嫌いしていたのだ。

 夫人はリーヴァ子爵家と繋がりのある伯爵家出身であり、自分が高い身分であり、偉い人間であると思っていた。

 だからこそ、クリスハルトのことが気に食わなかったようだ。

 父親がどこの馬の骨ともわからない──そんな子供を歴史あるリーヴァ子爵家の人間と認めることが嫌だったらしい。

 引き取られてから一週間後、彼への折檻が始まった。


 息子の方はまるで親に甘やかされ育った典型的なダメ息子であった。

 ブクブクと太った姿はまるで豚のようであった。

 いや、太っているだけなら裕福な生活を送れていることの証明となるため、別に批判するようなことではないだろう。

 その姿に加え、性格が母親と同様にかなり悪かったのだ。

 母親が毛嫌いしているのだから、自分もクリスハルトのことを虐めても良いと思ったのだろう──事あるごとにクリスハルトは虐められた。

 目の前を歩いていたから、自分より勉強ができるから、自分よりいいモノを持っているから──理由はさまざまであったが、幼いクリスハルトが理不尽だと思うことに変わりはなかった。

 反撃できればよかったのだが、幼いころの2歳差というのはとんでもなく大きい。

 純粋な喧嘩では敵うはずがない。

 自分の得意分野である勉強で打ち負かしても、それが偉そうだという理由で殴られる。

 さらに質の悪い事に息子は母親に告げ口する──「クリスハルトが生意気だ」、と。

 その結果、クリスハルトは夫人から折檻されることになる。

 本当に理不尽な地獄であった。


 何度か叔父に相談しようとした。

 しかし、叔父が忙しそうにしている姿を見て、クリスハルトは自分の現状を伝えることができなかった。

 ただでさえ身寄りのない彼を引き取ってもらった恩があったのに、忙しそうな叔父を困らせるようなことができなかった。


 そんなクリスハルトを見て、一部の使用人たちは助けてくれようとした。

 しかし、それを夫人が許さなかった。

 彼を助けてくれた使用人たちは夫人によって解雇されてしまった。

 そのせいで使用人たちは彼を助けてくれることはなくなってしまった。

 それは仕方のない事だろう。

 人間として普通の感情を持っていれば、困っている子供に手を差し伸べることはあたりまえのことだ。

 しかし、そのせいで自身の職を失うのであれば、簡単に差し出すことなどできるはずがない。

 自分たちにも生活があるのだから……


 そんな地獄のような生活が半年も続き、クリスハルトは8歳になっていた。

 だが、相も変わらず夫人と息子からの嫌がらせは続いていた。

 とうとうある日、彼はこの生活に耐えきれずに屋敷を飛び出した。

 祖父に言われていた通りに帽子を目深に被り、二人に気づかれないようにこっそりと裏門から抜け出した。


 外に出ると、そこは楽園のような世界だった。

 そこの人たちにとっては普通の生活かもしれないが、地獄のような日々を過ごしていたクリスハルトにとっては眩しい世界だった。

 大勢の人がいる活気のある通りを初めて見た彼は気後れしてしまった。

 できる限り人と接触しないように彼は建物と建物の間の道に入り込んでしまった。

 大通りの喧騒とは違い、路地裏は静かなものだった。

 だが、その空気の方が彼は好きだった。

 路地裏の危険性など微塵も感じず、まるで初めての場所を探検するような気持ちで彼は歩き始めた。

 そんな時だった。


「そこをどいてっ!」


 少し離れたところから少女の声が聞こえた。

 あまりにも緊迫した声だったので、クリスハルトは気になって近づいてしまった。

 建物の陰に隠れながら声のした方に向かうと、そこには一人の少女と三人の大人の男たちがいた。

 少女の年齢はクリスハルトと同じぐらいだろうか、可愛らしいが少し気の強そうな雰囲気の少女であった。

 彼女の姿を見て、クリスハルトはすぐに状況を理解した。

 おそらく彼女は貴族の令嬢で、何らかの理由でこの路地裏に迷い込んでしまったのだろう。

 平民ではない高そうな服を着ていることから、男たちに目をつけられてしまったのだ。

 これは不運と言うしかない。

 周囲には彼女の使用人も護衛もいない。

 貴族の令嬢が一人で街に出ることなどないだろうから、彼女のこと探している可能性が高い。

 だが、現状ではこの場にいない。

 そんな状況下で彼女が男たちから逃げきることは不可能であろう。


 クリスハルトはその場から立ち去ろうとした。

 別に彼女のことを見捨てたわけではない。

 むしろ、彼女のことを救うために助けてくれるような大人を呼ぼうとしたのだ。

 クリスハルトは2歳年上のいとこにすら喧嘩で勝つことのできないただの子供だった。

 そんな彼がのこのこと出て行っても、一緒に捕まってしまうのがオチである。

 ならば、少しでも助けることのできる可能性が高い方法を取るべきだと思ったのだが・……


「いやっ、助けて……」

「っ!?」


 少女の嘆願するような声が耳に届き、クリスハルトはその場で足を止めてしまった。

 もちろん、彼の行動としては悪手だっただろう。

 しかし、彼の気持ちがその場から立ち去ることを拒んだのだ。


「そ、その手を離せっ!」


 建物の陰からクリスハルトは飛び出してしまった。

 いきなりの声に男たちは一瞬驚いた様子だったが、ただの子供だとわかると安心したように元の表情に戻った。

 大人が来ていれば逃げていたかもしれないが、子供であればその必要もないわけだ。


「おい、ガキ。俺たちは忙しいんだから、どっか行ってろ」

「痛い目見たくなかったら、ここで見たことを誰にも言うなよ」


 男たちはクリスハルトにそう告げた。

 俺のような子供になら、そんな風に脅せば大丈夫だろうと思っていたのだろう。

 普通の子供であれば、恐怖で逃げてしまっていただろう。


「たすけ……」


「黙れよ」

(パンッ)


 クリスハルトに助けを求めようとした少女の頬を男が張った。

 乾いた音が路地裏に響いた。


「っ!?」


 少女が叩かれた光景を見た瞬間、クリスハルトは何も考えられなくなった。

 その場から一気に駆け出し、男の腕にしがみついた。


「くっ……離せっ!」


 いきなりのクリスハルトの行動に男が慌てたように腕を振り回す。

 だが、彼の方だって下手に離れるわけにはいかない。

 少女が逃げることのできる時間を稼がないといけないと思ったからだ。


「うっとうしいんだよ」

(ドンッ)

「うぐっ!?」


 しかし、そんな決意とは裏腹にクリスハルトはすぐに引きはがされてしまい、建物の壁に全身を打ち付けられてしまった。

 頭を打ってしまったせいか、意識が朦朧としていた。

 男たちが近付いてくるのをわかっているが、体を動かすことができなかった。


(ぐいっ)


 髪の毛を引っ張られ、クリスハルトは無理矢理体を起こされた。

 目の前では悪い事を考えてそうな男の顔が笑っていた。


「ふむ……男にしては可愛らしい顔をしているじゃねえか。こいつも売れるんじゃないか?」

「っ!?」


 クリスハルトの顔を見て、男がそんなことを呟いた。

 すぐに何を言っているのかを理解することはできた俺はその手から逃れようとする。

 しかし、自分の意思とは裏腹に体を動かすことができない。

 クリスハルトは絶望してしまった。

 せっかくあの地獄から逃げ出したのに、また別の地獄に行くことになるのか、と。

 目に涙が溜まっていくのを感じた。


「おい、こいつ泣いてるぞ」

「安心しろよ。今よりはいい生活をさせてもらえるかもしれないぞ?」

「まあ、別の意味で泣かされることにはなりそうだがな」


 泣き出したクリスハルトを見て、男たちは下品な笑い声を上げる。

 こんな奴に僕の人生を壊されるのか──そんな悔しさが彼の頭をよぎった。

 こんなことになるなら、何の考えもなしに飛び出すのではなかった、と後悔してしまう。


「(あの子、逃げられたかな?)」


 しかし、すぐに少女のことを心配してしまった。

 せっかく助けたのだから、無事に逃げ延びて欲しいと思ってしまったのだ。

 これからのことに恐怖を感じるが、人助けをしたのだからそれでいいのだ。

 祖父ならクリスハルトの行動を褒めてくれるだろう──そう思ったのだ。


「さて、とっととこいつらを売りにいくか。どれぐらいの値がつくかな?」


 クリスハルトの髪を掴んでいた男がそんなことを言いながら歩きだそうとする。

 彼の命運もこれまでか──そう思ったのだが……


「そんなことをさせると思いますか?」

「「「えっ!?」」」


 いきなり近くからこの場の誰でもない声が聞こえてきた。

 男たちは反射的に声の方に振り向いたが……


(((シュパッ)))


 何かを振る音が聞こえたかと思うと、男たちの体が前のめりに倒れた。

 首のあたりから真っ赤な液体が地面に流れていた。

 ピクピクと体が小刻みに動いているが、このままでは確実に命を落とすだろう。


「大丈夫ですか?」

「あ……」


 心配そうな声と共にクリスハルトは抱き起される。

 しかし、未だに意識は朦朧としており、感謝の言葉を告げることはできない。

 だが、目の前にいる人物の服装ぐらいは認識することができた。

 執事服だった。

 つまり、目の前の人物はどこかの屋敷に仕える執事──状況から察するにあの少女の屋敷だろうか?

 どうやら彼女を救うことはできたようだ。


「ん? この髪は……」


 執事の男性はクリスハルトを見て、何かを呟いた。

 しかし、すでに彼は限界がきており、そのまま意識を失ってしまった。







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