放蕩王子は義弟を認めている
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「何か大変なことになっていましたね」
セシリアが笑いをこらえながら、クリスハルトに話しかけてきた。
おそらく先ほどのクリスハルトへの指摘が原因であろう。
場所は変わって、クリスハルトたちはいつもの空き教室にやってきていた。
人の目を考えるのであれば、クラウド商会に集まる方が良い。
しかし、授業がある間は学院内にとどまらないといけないのだ。
クリスハルトはともかく、優等生でいないといけないセシリアのためである。
「……だったら助けてくれよ」
「いや、私が気付いたのもハルシオン殿下がおっしゃった後ですから……まあ、なるほどとは思いましたが」
「……」
セシリアの言葉にクリスハルトは何も言えなかった。
気づいていなかったのなら、仕方がない事だからである。
「でも、良かったんじゃないですか? これで殿下はレベッカ様とハルシオン殿下と仲が悪いことが周知の事実となったわけですから」
「まあ、それはそうかもな。だが、まだ完璧じゃない」
「完璧じゃない? レベッカ様がクリスハルト殿下のことを気にしていることですか?」
セシリアは思わず聞き返す。
クリスハルトの計画で最も進んでいないのが、レベッカについてである。
彼女はいくらクリスハルトが突き放そうとも、注意を辞めることはなかった。
婚約者だからだろうか?
普通はあそこまで突き放されれば、たとえ婚約者でも愛想をつかすとは思うのだが……
第一王子と公爵令嬢の婚約というのも関係があるのだろうか?
だが、そんなセシリアの言葉にクリスハルトは首を横に振る。
「いや、違う」
「違うんですか?」
「たしかにそれも懸案事項ではある。だが、それよりもハルシオンとレベッカが思っていたよりも仲が良くないことだ」
「え?」
クリスハルトの言葉にセシリアは驚く。
その反応にクリスハルトは問いかける。
「どうして驚く?」
「いえ……二人は普通に仲がよさそうに見えましたので」
「傍から見れば、そうかもしれないな。いや、実際に仲は良いのだろう」
「なら、いいのでは?」
クリスハルトの説明をセシリアは理解できない。
「思っていたよりも仲が良くない」とは、一体どういうことなのだろうか?
「二人は交流をしているだろう。それはあくまでも公爵令嬢と第二王子──いや、婚約者の弟と兄の婚約者といった関係だな」
「それは事実では?」
「まあ、普通ならそれで問題はない。だが、現状では二人にはもっと仲良くなってもらわないといけないんだよ」
「?」
クリスハルトの説明はやはり難しい。
どうしてそんなことを望んでいるのか、セシリアには理解できなかった。
流石にセシリアの反応で理解したのか、クリスハルトは説明をする。
「言っただろう? 俺はいずれレベッカとは婚約破棄をする、と」
「そうですね」
「たとえ俺に非があったとしても、社交界ではレベッカを非難する者も現れるだろう。「婚約者に捨てられた哀れな公爵令嬢」とな」
「……それは当然ですね。実際にその通りなわけですし」
「だが、俺としてはレベッカにそのような目に遭ってもらいたくない。彼女は本当に素晴らしい女性なのだから、ぜひとも幸せに過ごしてもらいたいわけだ」
「……私としては、殿下と結婚することが彼女にとって一番の幸せだと思いますけどね」
クリスハルトの説明にセシリアはそんな反応をする。
レベッカと交流をしているので、彼女がクリスハルトのことを本気で思っていることはセシリアも理解していた。
だが、それをクリスハルト本人には伝えていない。
伝えても、信じてもらえないと思っているからである。
「そんなわけないだろう。俺との婚約は彼女にとっての一番の汚点だろう」
「はぁ……それで、レベッカ様の名誉を下げないことがどうしてハルシオン殿下との仲の良さが関係あるんですか?」
クリスハルトの発言にため息をつき、話を先に勧めることにする。
やはり信じてもらえなかったからだ。
クリスハルトは自分の優秀さを知っているがゆえに、他者の意見を聞かない傾向がある。
自分が正しいと思っていることが正しいと思っているのだ。
人は間違う生き物である──だからこそ、優秀である人間の方が間違いが少ないのは事実である。
しかし、優秀である人間だって、間違えることがある。
セシリアはそれを理解しているが、クリスハルトに伝えることができなかったのだ。
「いずれは二人に婚約してもらわないといけないからな」
「……そんなことできるんですか? レベッカ様はクリスハルト様の婚約者なのに……」
「俺がいる間はできないだろう。だが、俺がいなくなった後、レベッカはフリーなわけだから、誰と婚約しようと問題はない」
「まあ、それはわかりますけど……レベッカ様だったら、引く手数多でしょう? 他にも婚約を申し込もうとする人ぐらい……」
「言っただろう? 俺のせいで彼女の評判が悪くなる、と。そうでなくとも、一度は婚約を破棄された者にまともな婚約の話が来にくいのに」
「……それを避けるためにハルシオン殿下との婚約を? そのために、今のうちに仲良くなってもらいたい、と」
「そういうことだ」
セシリアの言葉にクリスハルトは頷く。
理解してくれていることを喜んでいるようだ。
そこまで説明してくれたのであれば、セシリアも理解はできる。
セシリアが理解したのを確認し、クリスハルトはさらに説明する。
「それにハルシオンはちょうどいいんだよ」
「ちょうどいい? 次期国王の候補筆頭だからですか?」
「それも理由の一つではある。だが、一番の理由は婚約者がいないことだ。前にも話しただろう?」
「ああ、たしかクリスハルト殿下の立場を悪くしないよう、ハルシオン殿下には婚約者を決めなかったんでしたっけ?」
「そういうことだ。そんなことをしなくてもいいとは思っていたが、この状況ではそれがありがたいことになったわけだ。婚約者がいないのであれば、レベッカが婚約者になっても問題がないのだから」
「クリスハルト殿下との婚約が破棄された後、ですけどね。でも、それを他の家が認めるのでしょうか?」
「どういうことだ?」
セシリアの言葉にクリスハルトは聞き返す。
そんなことを質問されるとは思っていなかったようだ。
セシリアはさらに質問を続ける。
「クリスハルト殿下も言ったじゃないですか。婚約を破棄されたことで「レベッカ様の評判が悪くなる」と。そんな人が次期国王候補の婚約者──つまり、次期王妃として選ばれるのか、と」
「ああ、そういうことか」
「それにレベッカ様のことを批判しなくとも、ハルシオン殿下の婚約者になりたい令嬢はいくらでもいると思いますよ。ハルシオン殿下の周りが常に人で囲まれているのはそういうことでしょう?」
「そうだな。令嬢は上手い事婚約者の座に収まろうとしているんだろうな。ちなみに、令息は泡沫候補の俺ではなく、候補筆頭のハルシオンに取り入った方が良いと考えているのだろうな」
「殿下は泡沫候補じゃないでしょう? 一応、第一王子なのですから……」
「「一応」をつけるなよ」
クリスハルトは思わず反論してしまう。
自分を卑下していたが、流石に第一王子に「一応」をつけられるのは気になった。
偶然の賜物とはいえ、「れっきとした」第一王子なのだから……
「とりあえず、レベッカ様とハルシオン殿下の仲を深めないといけないんですね。でも、どうするんですか?」
「これは時間がどうこうできる問題じゃないしな……レベッカが俺に対して何らかの思惑がある以上、自然と進んでいくわけがない」
「なら、誰かが外から誘導するしかないわけですね」
「そういうことだ。そして、それをセシリアに任せたい」
「……私ですか?」
クリスハルトの言葉にセシリアは嫌そうな顔をする。
レベッカに取り入る役目も任されたのに、さらなる役目を与えられたからである。
面倒であると同時に、そんな大役を任せられるのは困ったのだ。
しかし、クリスハルトもしっかりと考えている。
「安心しろ。あくまでもセシリアにはレベッカ側からの誘導をしてもらうだけだ」
「レベッカ様の側、ですか?」
「ハルシオン側にはフィルに頼むつもりだ」
「……そんなことできるんですか?」
クリスハルトの説明にセシリアは怪訝そうな表情を浮かべる。
いくら成績が上がったとはいえ、フィルは力不足ではないだろうか?
少なくとも、入試で一問ミスの学年首席で入学したハルシオン相手にフィルがどうこうできるとは思わないが……
まず、近づけないのではないだろうか?
「フィルには第一王子に恋人を奪われそうになっている哀れな男をやってもらう。それならできるだろうよ」
「……どうでしょう?」
「最初に勘違いしていた時のことを思い出せば、自然とできるはずだ。なんなら、その時の気持ちを思い出す手伝いもするし」
「……まあ、それはその時に考えましょう。ですが、そんなことで近づけるのですか?」
「義兄が迷惑をかけているんだ。ハルシオンにはその嘆願を聞く義務があるんだよ」
「……本来解決しなければいけないのは、クリスハルト殿下ですけどね?」
自信満々のクリスハルトの言葉にセシリアはチクリと刺す。
作戦とはいえ、人任せなことが多い。
少しぐらい文句を言っていいだろう、そう彼女は思っていた。
「仕方がないだろう。俺がやるわけにもいかないんだから」
「わかっていますよ。ですが、ちょっとぐらいは文句を言っていいでしょう?」
「……そうだな」
セシリアの言葉にクリスハルトは少し考えてから頷く。
流石に負担をかけていたことがわかっていたからだ。
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