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放蕩王子は第二学年になる


 クリスハルトが学院に入学してから一年が過ぎ、新たな春の季節を迎えた。

 クリスハルトたちは無事に第二学年に進級し、新入生が入学してくることになった。


 計画はおおむね順調に進んでいた。

 まず、フィルとセシリアの成績については、かなり進歩していた。

 特にフィルの方はすさまじいほどの成長ぶりであった。

 入学時には下から数えた方が早いぐらいだったのに、一年の半ばにはあった中間テストではちょうど半分ぐらい、学年末テストについてはトップ50にまで上がっていたのだ。

 そのおかげもあってか、フィルは第二学年からBクラスに所属することになった。

 これは学年始まって以来の快挙らしい。

 下手すれば、第三学年に上がったときにはAクラスに入るのでは?──と、クリスハルトは驚いた。

 セシリアの方も、Aクラスの上位陣──トップ10にランクインすることができた。

 流石にそこから上はかなり厳しい相手ではあるが、彼女ならばやってくれるとクリスハルトは信じていた。

 ちなみにクリスハルトは相変わらずAクラスのギリギリの順位にいる。

 下手に成績を上げるのはまずいし、かといってBクラスに落ちるのも駄目だ。

 王族としての最低限のラインを守るため、セシリアとの仲を周囲に見せつけるためである。


 この一年の間にクリスハルトの評判はかなり悪くなっていた。

 最初は「第一王子に取り入る平民上がりの男爵令嬢」という構図でセシリアに対して嫌がらせが行われていた。

 クリスハルトが対処しようとしたが、流石に常に一緒にいることができるわけではない。

 他の王族や高位貴族なら、子飼いの者達に情報を探らせ、それを理由に忠告ぐらいはできていたはずだ。

 しかし、クリスハルトにはそういう者はおらず、セシリアを連れていかれてしまえば、対処することができなくなってしまうわけだ。

 そんな状況を打破したのが、レベッカであった。

 セシリアが虐められていた理由はレベッカの婚約者であるクリスハルトに言い寄っていると思われていたからである。

 セシリアがレベッカに助けてもらった際に「事実(ということにしている嘘)」を告げてもらった。

 告げた当初はムーンライト公爵令嬢であるレベッカに取り入る、もしくは制裁されないための嘘かと思われたが、クリスハルトの現状を知っている者も多かったのでほとんどがすぐに信じたそうだ。

 レベッカは否定しようとしたが、自分が否定することでセシリアに矛先が向かうことを申し訳なく思い、その場では口にしなかったそうだ。

 あとで二人きりになったときに、セシリアは質問されたそうだ。


「貴女はクリスハルト様のこと、本気なの?」


 その質問にセシリアは答えることができなかったらしい。

 まさかそんなことを質問されるとは思わなかったのだ。

 だが、すぐに自分の役割を思い出し、首を激しく横に振ったらしい。

 その反応で納得したのか、レベッカはそれ以上は何も言わなかったようだ。

 一体、どうしてそんな質問をしたのだろうか……


 ちなみに、レベッカによるクリスハルトへの忠言はまだ続いている。

 婚約者と言う立場上、注意をせざるを得ないのだろう。

 去年の今頃に泣かされるほど文句を言われたのに、律儀なものである。

 他の高位貴族なんて、すでに注意どころか近づきもしない。

 第一王子の近くにいることによるメリットよりも、近くにいたことによるデメリットの方が大きいと判断したからであろう。

 こちらは賢い選択である。


 クラウド商会もかなり大きくなってきた。

 最初のころは製品開発をし、平民と貴族の両方に販売できるものを発明していった。

 その品物たちは品質も効果も素晴らしいものではあったが、なかなか売れずに困っていた。

 元々平民相手に商売していたおかげで、そこは問題はなかった。

 平民に販売した売り上げだけで、十分黒字に放っていた。

 しかし、貴族に売れないことは問題であった。

 今まで貴族相手にほとんど商売をしていなかったことが仇となり、販売ルートのコネクションがなかったのだ。

 だが、それも半年前に解決した。

 セシリアがレベッカに助けられたことにより、貴族相手に商売をできるようになったのだ。


・セシリアがレベッカに助けられる。

→二人が仲良くなる。

→セシリアの事情を聞く。(フィルと好き合っていること)

→フィルがクラウド商会の次期会長であり、商品が素晴らしい事を伝える。

→助けてもらったお礼にレベッカに新商品を献上する。

→レベッカがその商品を褒める。

→レベッカが褒めたことにより、他の貴族令嬢たちも欲しがる。

→どんどん商品が売れる


 こういった因果関係である。

 まさかこんな風にこの問題を解決することができるとはクリスハルトも思っていなかった。

 セシリアにレベッカと交流するように告げていてよかった、とクリスハルトは思ったほどだ。

 公爵家の力は本当にすさまじい。

 王族であるクリスハルトがそんなことを思うのは変な話ではあるが……

 とりあえず、クラウド商会は予定通り大きくなったわけだ。


 クリスハルトの評判はかなり悪くなっている。

 すでに学院内で彼のことをよく言う人間はほとんどいなくなっていた。

 「第一王子という立場だけのダメ人間」──それが今のクリスハルトの周囲からの印象であった。

 Aクラスに所属はしているものの、成績の上位争いには全く参加していない──王族としてふさわしくない、なんてことを言われているらしい。

 まあ、そのために本気で試験を受けていないのだから、予定通りではあった。

 逆にAクラスに残ることができるように間違える方がよっぽど難しいぐらいだ。

 間違えなかったら順位が上がり、間違えすぎたらAクラスから落ちてしまう。

 問題の難易度に合わせ、適度に間違えるのがコツなのだ。


 とりあえず、その程度の成績しかとることのできないクリスハルトはかなり評価が低くなっていたのだ。

 歴代の王族がこの学院に通っていたころはほとんどが主席、悪くともトップ5だったらしい。

 現陛下も王妃とクリスハルトの母親がいたせいでずっと3位に甘んじていたそうだ。

 前陛下も万年2位だったらしい。

 同級生に一人、常にテストで満点を取る奴がいたらしく、一度も勝つことができなかったそうだ。

 それでも十分にすごいのだが……

 そんな王族の血を引きながら、クリスハルトはこんな成績しか取れなかった。

 下級貴族の血が混ざっているのが悪いのでは? そんな話が貴族の間で広まっているらしい。

 面と向かっては言わないが、クリスハルトや他の王族、近しい高位貴族がいないところではそんな話をしているようだ。

 何度かクリスハルトもそういう話をしているのを偶然聞いてしまったことがあった。

 クリスハルトは何も言わなかったが、それをたまたま聞いていたレベッカが説教をしていたことがあった。

 事実とはいえ、婚約者のことを悪く言われるのが耐えられなかったのだろう。


 だが、周囲がクリスハルトのことを批判するのはここまでだろう。

 なぜなら、この春からクリスハルトの義弟であり、第二王子のハルシオンが入学するからである。

 ハルシオンはこの入試で一問ミスしたものの、学年首席で入学していた。

 それにより、サンライズ王国の未来は明るいと言われていた。

 次期国王にふさわしい立派な王子がいる、と。

 そんなハルシオンが入学したおかげで、クリスハルトに向けられていた悪い視線はハルシオンの方へ良い視線に変わるだろう。

 クリスハルトにもう少し渡り合えるほどの評判があれば、批判を向けられていただろう。

 しかし、今のクリスハルトはハルシオンと次期国王の座を争っているとはいっても、到底相手になる状態ではない。

 貴族のほとんどが次期国王はハルシオンだと思い、ハルシオンにすり寄っているのだ。

 つまり、クリスハルトは貴族たちに全く相手にされていないというわけだ。

 まあ、クリスハルトにとってはそれでありがたい話ではあるが……


「おはようございます、ハルシオン殿下」

「お荷物、お持ちします」

「今日から同級生となること、とても嬉しく思います」


 学院の正門では人だかりができていた。

 空き教室から覗いているおかげでその中心を見ることができ、予想通り中心にはハルシオンがいた。

 相変わらず人に好まれる優しい笑顔をしている。

 初めて会ったときは可愛らしい子供だったが、成長して15歳になったハルシオンは中性的で綺麗な青年となっていた。

 女性どころか、男性すらも魅了する──そんな噂があるぐらいだ。

 ハルシオンが婚約者を決めていないことが、どちらもいけるという噂にも繋がっているのだろうか?

 クリスハルトのせいでハルシオンの婚約者が決まっていない可能性があり、そのことでクリスハルトは少し申し訳なく思っていたりする。

 だが、彼がいなくなれば、ハルシオンにはすぐにいい相手が見つかるだろう。

 なんせ、ハルシオンは唯一の次期国王なのだから。


「いや、まだ唯一ではないか?」


 クリスハルトはそう呟き、苦笑してしまう。

 気が早かったか、と思ってしまったからだ。

 もちろん、その言葉は誰に聞かれることもなかった。






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