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放蕩王子は義母と言い争う


「……なんか変な感じだな」


 クリスハルトは城の廊下を歩いていた。

 もちろん、王族であるクリスハルトが城にいること自体はおかしなことではない。

 だが、彼が城に帰ってきたのは一週間ぶり出会った。

 ほとんどをクラウド商会が貸してくれた一室で過ごしており、城には全く帰ってなかったのだ。

 これはもちろん、クリスハルトが【放蕩王子】と呼ばれ続けるため──いや、もっと周囲に悪く思われるために必要なことなのだ。

 その結果もあってか、周囲からざわざわとした反応を貰っていた。

 効果はてきめんであろう。


「クリスハルト」

「……義母上」


 後ろから声を掛けられ、予想していたかのようにクリスハルトは振り向く。

 そこには義母であるクリスティーナがいた。

 誰かが来ることはクリスハルトも予想していたが、一番最初に話しかけてきたのが彼のことを一番嫌っているクリスティーナだとは思わなかった。

 一体、どれほど周囲から話したくないと思われているのだろうか……


「どうかなさいましたか?」

「なぜ城に帰ってこないのです。成人にもなっていない子供が夜遊びなどしていいと思っているのですか?」


 クリスハルトが惚けたことを言うので、クリスティーナは睨みつけながら追及をする。

 完全に説教である。


「別にいいじゃないですか。すべて私の勝手なのですから」

「貴方はこの国の第一王子なのですよ? もっとその自覚を持って……」

「その必要はないことは義母上が一番わかっているのでは?」

「……どういうことかしら?」


 クリスハルトの反論にクリスティーナは聞き返す。

 まさかいきなりそんなことを言われるとは思わなかったからだ。

 まったく予想つかなかった内容に思わず聞き返してしまったのだ。

 そんな彼女にクリスハルトははっきりと告げる。


「次期国王になるのはハルシオンでしょう? つまり、私がいくら頑張ったところで意味がないんですよ」

「そんなことは……」

「それは義母上──いや、妃殿下である貴女ならわかっていることでしょう? なぜなら、次期国王を決定するのに、貴女の意向が関係しないわけがないですからね」

「う……」


 クリスティーナは言葉を詰まらせる。

 クリスハルトにここまで言われるとは思っていなかったようだ。

 そして、クリスハルトとの心の距離を感じていた。

 まるで他人行儀のように、話をされていたのだ。

 クリスハルトは普段の一人称は「俺」なのだが、クリスティーナと話す時だけ「私」となり、口調も丁寧なものになっていた。

 王族としては、こちらの方がふさわしい。

 人の上に立つ者として命令口調の方が当たり前かもしれないが、だからといって常に命令口調であるのはあまりよくない。

 どちらかというと、丁寧な口調の方が周囲から好感を持たれやすくなる。

 クリスハルトはクリスティーナから好感を持たれたいのか、というとそうではなかった。

 普段の彼の口調とは違うしゃべり方をすることで、わざと距離があることを示しているのだ。


「別にそうなるなら構いませんよ。俺みたいな落ちこぼれが次期国王になるなんて無理な話でしょうしね」

「そんなことないわ」

「?」


 クリスハルトは少し驚く。

 まさかここでクリスティーナが否定の言葉を告げるとは思わなかったからである。

 てっきりクリスハルトが次期国王にふさわしくないと認めるかと思っていた。

 いや、これはクリスハルトの言うことはすべて否定したいと思っているのだろうか?

 どれほど嫌われているのであろうか……


「陛下だって、学生時代は決して成績が良かったわけではないわ。Aクラスにいたとはいえ、成績自体は10位前後にいたわ」

「少なくとも今の私よりは良いですね」

「でも、クリスハルトはAクラスにいるわ。だったら、今からでも頑張ればそのぐらいは……」

「するわけないでしょう」

「う……」


 クリスティーナは応援しようとしてくれたのだろう。

 しかし、クリスハルトからの否定の言葉に最後まで言うことができず、黙ってしまう。


「どうせ王族なのに成績が悪い事で外聞が悪くなると考えているんでしょう? 婚約者のレベッカは学年首席なのに、ともね」

「そんなことは思っていないわ。私はクリスハルトのことを思って……」

「思っているのは王族への評判でしょう?」

「っ!?」


 クリスハルトの指摘にクリスティーナは驚いたような反応を見せる。

 図星なのだろうか──いや、どこか違う雰囲気も感じる。

 だが、クリスハルトは気にすることなく話を進める。


「私に対する悪い評判は私個人──つまり、「第一王子」に対する悪評のはずです。しかし、その立場が「王族」への悪評につながり、周囲からの評価が下がります。妃殿下はそれを気にしているのでしょう」

「そんなことは……」


「レベッカとの婚約にしてもそうだ。半分しか王族の血が流れていない、もう半分は卑しい下位貴族の血が流れている私は悪評が付きまとうことになるでしょう。それを防ぐために、ムーンライト公爵令嬢と婚約することで批判されなくしたのでしょう?」

「ちが……」


「私を王家に受け入れたこともだ。私みたいな人間は本来王族の一員であるべきではないが、ムーンライト公爵が見つけてしまったために受け入れざるを得なかった。見捨ててしまえば、それが王家への批判につながるから」

「……」


 クリスハルトの指摘にクリスティーナは黙り込んでしまった。

 反論しようとしていたが、そうすることができなかったのだろう。

 その視線には悲しさがにじみ出ていた。

 クリスハルトに言い負かされたことを悔しく思っているのだろうか?

 だが、どこかクリスハルトに対する憐憫の感情が見える。

 どうしてだろうか?


「まあ、安心してください」

「?」

「別に私は次期国王になりたいわけでもありませんから、義母上がハルシオンのことを王族にしたいと思っていることを非難するつもりはありませんよ。親として当然の感情でしょうから」

「……」

「ですが、私のことをこれ以上は関わらないでもらえますか? 好きでもない──いや、嫌っている相手と会話をするのは疲れるでしょう? そんな風に思われている相手に話されるこちらも疲れるんですよ」

「……」


 クリスハルトの言葉にクリスティーナは反論しない。

 クリスハルトの言っていることがすべて正しいからであろうか?

 いや、反論しようとはしているようだが、何と言っていいのかわからない様子だった。

 それほどまでに二人の距離は離れてしまっていた。

 もう二度と交差することがないぐらいに……


「では、私はこれで失礼します。これ以上は義母上と話すようなことは何もありませんので」

「あ……」


 クリスハルトは話を切り上げ、その場から立ち去ろうとする。

 クリスティーナも立ち去るクリスハルトを引き止めようとするが、言葉が出てこなったためにそれもできなかった。


 この二人の会話を見た周囲の人間は思った。

 第一王子と妃殿下は非常に仲が悪い。もう修復できないほどに──と。






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