放蕩王子は詐欺師を自認する
「……どうしてこんなことになっているんですか?」
「さあ?」
セシリアの問いかけにクリスハルトは惚けた返事をする。
場所が変わって、とある一室にクリスハルトは連れてこられた。
そこにはフィルとセシリアと初老の男性がいた。
席に座ることを促された後、先ほどの問いかけをされたのだ。
「なんでクラウド商会の用心棒と戦うことになってるんですかっ!」
「成り行きで、かな」
「成り行きでそんなことになりますかっ! それになんで勝ってるんですかっ!」
「俺の方が強かったからかな?」
「はぁ……」
クリスハルトの返答にセシリアはため息をつく。
もう叫ぶ気も起こらないのだろう。
クリスハルトたちが会話を終えると、初老の男性が話しかけてくる。
「さて、君が……いや、貴方が息子たちの話していた方でしょうか?」
「ああ、そうだろうな」
「では、そのローブを取っていただけませんか? 流石に顔を見るまでは信じることはできませんので……」
「ああ、そうだな」
初老の男性の言葉にクリスハルトはローブを脱いで、隠していた顔をさらけ出した。
「「っ!?」」
クリスハルトをこの部屋に連れてきた女性従業員と用心棒が驚く。
おそらく、クリスハルトの顔を知っているか、髪の色の意味を知っているのだろう。
だからこそ、驚いたわけだ。
「二人の話はにわかには信じられませんでしたが、実際にここにいらっしゃったのであれば信じざるをえませんね」
「まあ、そうだろうな」
「それでこの国の第一王子様がどのようなご用件で?」
「それはすでに説明されているんじゃないのか、クラウド商会の商会長殿?」
二人はお互いの役職名を呼び合う。
その間には妙な緊張感があった。
「まだ説明の途中でしてね……愚息の説明は要領が得ず……」
「ああ、そういうことか」
「なんでそこで納得してるんだよっ!」
クリスハルトの反応にフィルが怒鳴る。
だが、まだ伝わっていないことについて、納得することができた。
説明するのが下手であれば、時間がかかるのは当然なのだ。
話は通っていると思ってクリスハルトは商会に足を踏み入れたが、残念なことに予想は外れてしまっていたわけだ。
「まあ、それでもセシリアちゃんのおかげで大体のことはわかっていますがね」
「それなら良かった」
「殿下はこのクラウド商会を大きくするために来た、ということでよろしいですね?」
「その通りだ」
商会長の言葉にクリスハルトは頷く。
そんな二人の会話に驚いたのは、女性従業員と用心棒だった。
「どういうことですか? なんで第一王子様がこんな商会を大きくしようとするんですかっ!?」
「この坊主は商会長を騙そうとする詐欺師じゃないんですかい?」
「まあ、二人が驚くのも無理はないだろうな。だが、実際にここに来ている以上、ただの嘘ではあるまい」
二人の反応とは対称に商会長は落ち着いていた。
場数を踏んでいるからだろうか、なかなかに肝が据わっている。
流石は中堅とはいえ、商会のトップに立っているだけはある。
「まあ、詐欺師と言うのはあながち間違いではないかな」
「というと?」
クリスハルトの言葉に商会長が聞き返す。
まさか第一王子が自分のことを詐欺師呼ばわりするとは思わなかったのだろう。
だからこそ、思わず聞き返してしまったわけだ。
そんな商会長の言葉にクリスハルトは悪い笑みを浮かべ、答える。
「国全体を騙そうとしているんだ。それが詐欺師以外の何者だ?」
「「「「っ!?」」」」
クリスハルトの言葉に先ほどの二人の他にフィルとセシリアも驚いたような反応をする。
二人には国のために行動すると伝えていた。
だが、実際には国全体を騙そうとしているのだ。
物は言いようである。
「まあ、確かにその通りでしょうね。そして、殿下は我々にその片棒を担げ、とおっしゃっているわけですね」
「その通りだ。流石は商会長、話が早い」
商会長の言葉にクリスハルトは嬉しそうにする。
やはり話が早いと説明する方も楽しくなってしまう。
だが、中断しようとする者もいる。
「犯罪の片棒を担ぐというんですかい?」
用心棒の男は驚いていた。
彼の仕事は商会長の元に詐欺師が行かないようにすることであった。
その仕事に誇りを持っていた。
だからこそ、商会長が詐欺の片棒を担ぐことに嫌悪感を覚えたのだ。
そんな彼に商会長は告げる。
「まだ受けるとは言っていないがね。それに詐欺をするからと言って、それが犯罪であることが確定なわけではないよ」
「そうなんですかい?」
「たしかに金品や物を結果として奪ったのであれば、犯罪と言えるだろう。だが、相手を幸せにするために嘘をつくことは? 詐欺かもしれないが、犯罪ではないだろう?」
「……たしかにそうですが」
商会長の言葉に用心棒は言い負かされる。
あまり頭はよろしくないようだ。
まあ、彼の役割には必要ないだろうから、仕方がないのかもしれないが……
「まあ、犯罪はすることになるだろうな」
「じゃあ、駄目じゃねえかっ!」
納得しかけた用心棒がクリスハルトの言葉に反応し、怒鳴る。
自分から犯罪をすると言っているのだから、怒られても仕方がないのかもしれない。
しかし、クリスハルトは一切悪びれる様子はない。
「安心しろ。犯罪をするのはあくまで俺だけで、この商会はその片棒を担ぐわけじゃない」
「……協力した時点で片棒を担いでいるんじゃないのか?」
クリスハルトの言葉に用心棒は首を傾げる。
彼がそう思うのも仕方がない事かもしれない。
だが、クリスハルトは自分以外の手を汚させるつもりはなかった。
「あくまで協力してもらうのは、名前を借りることと資金調達のためだけだ。つまり、協力者ではなく、被害者になってもらう」
「……それって、損になるんじゃないのか?」
「普通に考えれば、そうなるだろうな。だが、詐欺師がわざわざ損になるようなことを言うと思うか?」
「……普通は言わないだろうな」
クリスハルトの説明に用心棒は頷く。
流石に順を追って説明すれば、彼も理解できるようだ。
「とりあえず、俺が頼みたいのはお宅の坊ちゃんとその恋人を借りること、来たる日までの生活費と海外逃亡の資金を稼ぐために働かせてもらうことだな」
「……王族なんだったら、金ぐらいいくらでも使えるんじゃないのか?」
「王族だからという理由で無尽蔵に使っていいわけではないんだぜ? それに王族が使っているのは国の金なんだから、反感を買う理由になっちまう」
「ああ、そういうことか」
「それに俺が金を使っちまったら、残された奴らの迷惑になっちまう。流石にそれは忍びねえよ」
「詐欺をしようとしてるくせに、そんなことを考えているのかい……」
用心棒は素直に驚く。
到底、詐欺師の考え方ではなかったからである。
基本的に詐欺師は相手を騙し、自分だけが得するように考えるのだ。
だが、クリスハルトの場合はその逆──自分が不幸になり、他の全員を幸せにしようとしているのだ。
用心棒の中にある詐欺師のイメージ像が崩れていく。
「お話はよく分かりましたよ」
「なら、良かったよ」
商会長は人の良い笑みを浮かべ、クリスハルトに告げる。
その言葉にクリスハルトは素直に答えたが、すぐに違和感があった。
商会長は笑みを浮かべてはいるが、心の奥では笑っていないように感じたのだ。
「せっかくの話ですが、断らせてもらいましょう」
「……どうしてだ?」
クリスハルトの予感は的中した。
クリスハルトは真剣な表情になり、商会長に質問をする。
真剣な表情のクリスハルトと表面だけ笑みを浮かべた商会長がにらみ合い、部屋の中は緊張感に包まれた。
google辞書とかで意味を調べたら、「詐欺」という言葉自体が犯罪という意味でした。
ですが、作者は一部を「嘘をつく」という意味で使っています。
正確に言うと、「詐欺」という言葉ではないと思いますが、その点をわかっていただけると幸いです。
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