放蕩王子は商品開発を考える
「とりあえず、新商品の開発はしなければいけない。今の状態では、貴族に売るための商品が足りない」
「完全に貴族相手にシフトするんですか?」
セシリアは質問する。
クリスハルトの言葉では、貴族を相手することをメインにすると思ってしまったのだが……
「いや、今まで通り平民もターゲットにしないといけない」
「どうしてですか?」
だが、返ってきたのは予想外の答えだった。
クラウド商会が大きくなるためには貴族相手に商売をしないといけない。
それを理解していたからこそ、ターゲットを貴族に完全に移行すると思ったのだ。
しかし、クリスハルトはそれを良しとしていないようだ。
「クラウド商会は非常に評判がいい。何故だかわかるか?」
「え? 評判がいい理由……品揃えが良い? 店が綺麗?」
クリスハルトの質問にセシリアは悩みながら答える。
しかし、どれもセシリア自身にとって納得のいく答えではなかった。
そんな彼女の様子に、クリスハルトは苦笑しながら答える。
「クラウド商会の評判がいい理由は「平民にも優しい」ことだ」
「「平民にも優しい」ですか?」
セシリアは首を傾げる。
もちろん、言葉の意味は理解できる。
クラウド商会は基本的に平民を相手に商売しているのだから、「平民に優しい」のは当たり前だと思う。
だが、クリスハルトの答えはさらに予想外だった。
「商売の基本は何だと思う?」
「商売の基本ですか? もちろん、仕入れた値段より高く売ることで利益を得る、ということですよね?」
「その通りだ。そうすることによって、商売をする者はお金を稼ぐ。じゃないと、赤字になってしまうからな」
「でも、それは他の商会とかもしていますよね? 特別、クラウド商会だけがやっていることではないと思いますが……」
クリスハルトの質問に答えつつも、セシリアの疑問は晴れない。
クラウド商会が特段平民からの評価が高い理由にはならないと思ったのだ。
「他の商会と違う所はクラウド商会の商品が安く、たくさん買えるところだ」
「安く、たくさんですか?」
「平民を相手にする商会としては大きいからだろう、他の商会に比べて一気に仕入れることができる。そのおかげで安く仕入れることができるからこそ、他の商会に比べて安く売ることができるわけだ」
「ああ、なるほど」
「安く買うことができれば、買う側からの評価が高くなるのが当然だろう? しかも、仕入れ先も多少は安く買われるが、それでも大量に買ってくれることによって利益はそれなりに出るはずだ」
「両方から評価が高くなるわけですね」
「そういうことだ」
クリスハルトの説明にセシリアは納得することができた。
そう考えるならば、クラウド商会が平民相手の商売をしなくなるのは悪手と言えよう。
クラウド商会の基盤が「平民にも優しい」と言うことであれば、それは利点を捨てることになるのだから……
「ですが、その状態で貴族相手に商売をできるのですか?」
セシリアは純粋な疑問が浮かぶ。
平民相手に商売を続けるメリットは理解している。
だが、クラウド商会を大きくするうえで、貴族相手に商売することは必須となっているのだ。
とても現状ではそんなことできないと思うのだが……
「とりあえず、平民と貴族に同じ商品を売ろうと思っている」
「同じ商品? そんなもの売れるわけがありませんよ」
クリスハルトの言葉にセシリアは反論する。
クラウド商会の商品をそのまま貴族に売ろうとしていると思ったのだろう。
だが、その商品は平民向けであり、貴族に売れるわけがない。
「何もそのまま売るつもりはない」
「どういうことですか?」
「クラウド商会の商品は平民向けではあるが、非常に質が高い。消耗品でも効果が高いものが多いし、それ以外も壊れにくくずっと使える」
「それがどうしたのですか?」
「貴族でも十分に満足できる商品、ということだ。だが、貴族は見栄を張る生き物だから、平民と同じものを使うことに嫌悪感を抱く奴も多い」
「そうでしょうね」
「なら、同じ商品に付加価値をつけ、貴族だけのものを作ればいいんだ」
「貴族だけのもの?」
クリスハルトの説明にセシリアは首を傾げる。
現在ある商品にどのような付加価値をつけるつもりなのだろうか?
「一応考えているのは、「貴族向けの高級品」というマークをつけることかな?」
「……それで大丈夫なんですか? 同じ商品なんですよね?」
「言っただろう? クラウド商会の商品は貴族相手にも十分に通用するほど質が良い。ならば、大丈夫なはずだ」
「それならいいんですけど……」
セシリアは渋々納得する。
クラウド商会の商品の質が良い事は知っていたので、否定はできなかった。
「とりあえず、仕入れ先に貴族用のマークを入れてもらうように交渉するべきだな。マークをつけるのなら、そのときが一番だしな」
「そんなことやってくれますか?」
「仕入れ先にとって、クラウド商会はお得意様だ。だったら、そのお得意様の頼みをむげに断るわけがないだろう?」
「まあ、そうですが……」
「それにこれは仕入れ先にとってもメリットのある話だぞ?」
「メリット、ですか?」
「貴族相手に商売するということは、当然商品の値段を上げることができる。つまり、利益が上がるということだ」
「そうですね」
「そして、仕入れる値段も上げることができる。仕入れ先もマークを入れるという少しの手間しか増えていないのだから、十分なメリットだろう?」
「……たしかに」
セシリアは少し考えてから納得する。
今まで彼女は「貴族に売る」ということしか考えていなかった。
だが、クリスハルトの言い分はクラウド商会の商売に関わる全ての人を幸せにしようとしているのだ。
本当に一国の王子なのだろうか、と思わず疑問に思ってしまう。
だが、頭が良い事はわかっているので、この考えもその延長線なのだと納得する。
そんな風にセシリアが納得していると、クリスハルトはさらに説明を続ける。
「だが、それだけでは足りない。現在の商品を売るだけでは、貴族相手に商売を長く続けることはできない」
「というと?」
「貴族は流行に敏感な存在だ。それが平民相手にも販売されているような商品だけで満足すると思うか?」
「質はいいんですよね? だったら、満足するのでは……」
クリスハルトの質問にセシリアは答える。
質が良いのだから、貴族に売ることができる。
ならば、満足すると思うのだが……
「その点では満足するだろう。だが、それだけでは商売を続けられるわけがないだろう?」
「どうしてですか?」
「貴族相手に商売をしている、ということはすぐに広まるだろう。そして、その成功を自分達もしようと、他の商会たちもやろうとするはずだ」
「まあ、そうでしょうね」
「商品を模倣されたりするだろう。まあ、これについてはクラウド商会のよりも質が悪ければあまり問題にはならない。だが、その模倣がクラウド商会の商品よりも質が良ければ? クラウド商会の商品より質の高い同類の商品が現れれば?」
「……クラウド商会の売り上げが落ちる、ですか?」
「その通りだ」
セシリアの言葉にクリスハルトは頷く。
たしかにクリスハルトの言い分はもっともである。
成功したということは、その利を得るために他の人たちも真似をしようとする。
その結果、その成功で得るはずだった利がどんどん減ってしまう。
それでは貴族相手に商売を続けることは難しいだろう。
「なら、どうすればいいんですか?」
「それは新商品の開発だ」
「新商品の開発、ですか?」
セシリアは少し驚く。
ここに来て、意外と普通の内容が出てきたからだ。
商売をする以上、新商品とは大事なことなのだ。
人というのは新しいものに興味を惹かれやすい。
商売において、それを狙うのは当たり前のことなのだが……
「模倣される原因はなんだかわかるか?」
「え? それは成功したからでは……」
「それも原因の一つではあるな。だが、俺が言いたいのは商品が長く世に回っていることによって、研究する時間も増えるということだ」
「あ」
「研究することによって、その模倣をすることができるわけだ。だが、新商品ならどうだ?」
「研究する時間が少ない?」
「そういうことだ。そして、他の商会がようやく模倣ができたとしても、その時にさらなる新商品も出していけば?」
「……模倣されずに商売ができるから利益が出る、かしら?」
セシリアは答えを導く。
彼女がキチンと答えに辿り着いたことに、クリスハルトは満足する。
「といっても、これはそう簡単な話ではない。そんなことができるのなら、とっくにクラウド商会は大きくなっているはずだからな」
「まあ、そうでしょうね」
「とりあえず、そういうのを含めて一度商会長と会っておくべきだろうな。それはできるか?」
「もちろんできますが……」
「どうした?」
「そういう話はフィルを交えてした方が良いと思いますよ。クラウド商会の次期会長なんですから」
「……たしかにそうだな」
セシリアの指摘にクリスハルトはフィルの存在を思い出した。
セシリアがしっかりと答えることができたおかげで、いつの間にか彼女がクラウド商会の関係者だと錯覚してしまっていた。
そういえば、クラウド商会に直接関係あるのはフィルの方だった。
作者は商売に関しては素人です。
それっぽいことを書いているだけです。
おかしな点もあると思いますが、気にしない方向でお願いします。
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勝手にランキングの方もよろしくお願いします。




