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放蕩王子は細かい部分の説明をする


「セシリア嬢、君はとある役を演じてもらう」

「とある役、ですか?」

「君には平民上がりでまだまだマナーなどに疎い貴族令嬢を演じてもらいたい」

「……別に構いませんが、どうしてそんな役を?」


 クリスハルトの言葉に背エシリアは聞き返す。

 どうして彼女がそんな役を演じる必要があるのか、それが気になったからである。

 そんな彼女の疑問にクリスハルトは答える。


「現状、セシリア嬢のマナーは完璧とは言えないが、十分に貴族令嬢だと言えるレベルにはこなせているはずだ。だが、それでは俺がレベッカよりも君を取る理由にはならない」

「どういうことでしょうか?」

「筋書きとしては、貴族令嬢としては完璧であるレベッカに嫌気がさした俺がその対極にいる君に興味を示した、という感じかな? レベッカの婚約者であることで第一王子として完璧になることを強いられたとしたら、君になびいてしまうのは当然だろう」

「……なるほど」


 クリスハルトの説明にセシリアは少し考えてから納得する。

 彼女の貴族令嬢としてのマナーは粗削りではあるが、十分に及第点と言える。

 彼女よりも酷いマナーの貴族など、産まれてからずっと貴族であるはずなのにいるぐらいだ。

 わずか2年でここまでのものを身に付けたのだから、それは素晴らしい事なのだろう。

 しかも、そのうえで下位とはいえAクラスにも入っている。

 生半可な努力ではできないことだろう。

 だが、今回はそれは必要なかった。


「といっても、それを演じるのは最初だけで構わないだろうがな」

「なぜですか?」

「おそらく、君が俺から言い寄られていることを迷惑だと知れば、レベッカはその原因を究明してくるはずだ。そして、それがマナーの差であることを理解するだろう」

「たしかにそうかもしれませんね」

「ならば、彼女は君にマナーの勉強をするように言うはずだ。俺が君に興味を失うように、な」

「……それを習ったら、いつも通りに戻せばいいのですか?」

「まあ、そうだな。下手に反抗して、レベッカから警戒されるのはまずい。彼女から警戒をされてしまえば、セシリア嬢の学園生活が面倒なことになってしまう」

「殿下に絡まれている時点で十分迷惑になっていると思いますけどね」


 クリスハルトの言葉にセシリアは皮肉を言う。

 彼女の言う通り、現在の彼女は考え得る中で最も面倒な状況になっていると言えるだろう。

 普通の男爵令嬢は第一王子に絡まれるなんてことはそうそうないからである。

 だが、クリスハルトも反論はする。


「迷惑はかけているかもしれないが、それでもしっかりとその分の報酬は払うつもりだ。とりあえず、二人の成績の向上と交際を認めさせることだな」

「……それについては感謝しますよ」

「俺が言いたいのは、レベッカに目をつけられることのデメリットについて、だ。彼女自身が直接手を下さなくとも、彼女の取り巻き達が君に迷惑をかける可能性がある。俺とは違って、何の見返りもなくな」

「それはいわゆるいじめでしょう?」

「そうだな」


 セシリアの言葉にクリスハルトは頷く。

 そもそもの条件が違っていたのだ。

 クリスハルトの迷惑は頼みごとによるものではあるが、レベッカの取り巻き達からの迷惑はただの嫌がらせなのだ。


「まあ、それはクリスハルト殿下の作戦にのった時点で覚悟はしないといけないかもしれませんね。ムーンライト公爵令嬢様の婚約者を奪おうとしていると判断されれば、排除しようとするのは当然でしょうし……」

「流石にレベッカはそうは思わないだろうけどな。君がしっかりと迷惑していると伝えれば、彼女も事情を理解してくれるはずだ」

「そうだといいのですが……というか、ムーンライト公爵令嬢様と近づくことにもなりますから、それも嫌がらせの原因になる気がしますね」

「それはレベッカが守ってくれるだろう。彼女は優しい性根の持ち主だから、自分が原因であることが分かれば守ろうとしてくれるはずだ」

「……本当にレベッカ様のことを理解されているんですね」


 クリスハルトのレベッカの評価を聞き、セシリアは思わず呟いてしまう。

 どうしてそこまで理解しているのに、クリスハルトはわざわざ婚約破棄をしようとするのだろうか。

 いや、彼が自分の立場を理解し、その立場が原因で国が荒れることを憂いているのは理解している。

 だが、それでもレベッカならば、クリスハルトのそばにいてくれるのではないか、とも思ってしまうのだ。

 セシリアはそれを口にすることはないが……


「ちなみに、レベッカとの繋がりはこの計画において大事なことだったりする」

「大事なこと、ですか?」


 セシリアは首を傾げる。

 レベッカから上級貴族にも通用するような貴族令嬢のマナーを学ぶ、周囲の嫌がらせから守ってもらう──それ以外に大事なことなどあるのだろうか?

 セシリアには全く思いつかなかった。

 しかし、クリスハルトは最初からそれを考えていたようだ。


「クラウド商会を大きくすることについて、だ」

「それがレベッカ様とどう関係が? 支援してもらう、とかですか?」

「いや、違う。支援なんてそんないつまでも続くかわからないようなものは必要ない。しっかりと成果を出さなければ、打ち切られる可能性だってあるんだから」

「では、どういう目的で?」

「レベッカにクラウド商会の商品を認めてもらうんだよ」

「商品を認めてもらう?」

「貴族──しかも、公爵令嬢に認められるほどの商品ならば、他の貴族たちだってこぞって買いに来るはずだ。さらに、そこまで素晴らしい商品であれば、王族だって欲しいと思うだろう」

「ああ、そういうことですか」


 ここでセシリアはようやく理解することができた。

 ようはレベッカを通じて、クラウド商会がムーンライト公爵家御用達になることを狙っているわけだ。

 そうすれば、クラウド商会は貴族を相手に商売をすることも多くなるだろう。

 今まではほとんどが平民相手に商売しており、中堅の商会という評価に甘んじてきていた。

 しかし、ムーンライト公爵家御用達となれば、国随一の商会になることだって夢ではないはずだ。

 そのレベルになれば、レイニー男爵もフィルとセシリアの交際を認めてくれるであろう。


「といっても、その前にやらないといけないことがある」

「やらないといけないこと、ですか?」


 クリスハルトの言葉にセシリアは首を傾げる。

 やらないといけないことは、セシリアの演技の練習だろうか?

 だが、クリスハルトの答えは全く違った。


「クラウド商会の新商品の開発だ」

「新商品、ですか?」


 予想外の答えにセシリアは戸惑う。

 まさか、いきなりそんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。


「現状、クラウド商会にある商品はほとんどが平民向けだ。まあ、これは平民を相手に商売しているのであれば、仕方がない事かもしれない」

「そうですね。というか、クラウド商会の商品まで調べていたんですか……」

「言っただろう? 俺は自分のやらないといけないことを放ってフラフラとしている【放蕩王子】──城下で行っていないのは歓楽街ぐらいだよ」

「【放蕩王子】と呼ばれるぐらいの駄目人間なら、逆にそういう所の方に行くと思いますけど?」

「俺もまだ未成年だからな。権力を使って入ることもできるけど……」


 セシリアの指摘にクリスハルトは答える。

 彼の言っていることはもっともである。

 歓楽街は成人男性が金を使って楽しむような場所であり、未成年のクリスハルトが行くような場所ではない。

 だが、そんなクリスハルトにセシリアはさらに指摘する。


「ムーンライト公爵令嬢様のため、ですよね?」

「なっ!?」


 いきなりの指摘にクリスハルトは言葉を詰まらせる。

 そんなことを言われるとは思わなかったからである。

 クリスハルトの様子に図星だと思ったのか、セシリアはさらに言葉を続ける。


「婚約者を放ったらかしにして歓楽街にいくような第一王子──殿下の評判も下がるでしょうが、婚約者の方の評判も下がりますよね? 女性としての魅力がない──だからこそ、殿下は歓楽街なんかに行くんだ、ってね」

「……考えすぎだ」


 セシリアは自分の考えを告げる。

 それに対するクリスハルトの言葉の切れは悪かった。

 これは当たりなのだろう。

 やはりクリスハルトはレベッカのために最後の一線を超えるつもりはないようだ。

 自分の評価が下がるのは構わない──だが、そのせいでレベッカの評価が下がるようなことはしない。

 これが彼のポリシーなのだろう。

 そういう点では、クリスハルトのことを悪い人間だとは思えない。

 だからこそ、セシリアは二人が幸せになるような方法はないのか、そんな考えをしてしまう。

 クリスハルトが無理だと割り切っている以上、そんなことは考えても無駄だとはわかっていたとしても……






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